DVI-D端子への付け替えで、とりあえず絵が出るようになったVAIO LX専用モニタですが、第二回目はタブレットの有効化改造と、解像度変更ができない不具合を修正するための改造を行います。
タブレットはシリアル通信なので、回路にRS-232Cレベルコンバータ(MAX232C互換IC)を増設してPCのCOMポートに繋げられるようにすればOKです。一方、解像度変更できない不具合については、モニタ内部のEDIDの問題であるので、それを書き換えます。
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まずは、この機種最大の特徴であるペンタブレットを使用可能にするための回路増設を行います。タブレットの制御基板からはTTLレベルで信号が出ており、VAIO本体の内部のシリアルインターフェイスを介して通信するように作られているようです。普通のPCにはCOMポートに繋げることになり、その際信号レベルをRS−232Cレベルに変換する必要があります。デジタル信号はすべて1と0のデータで成り立っているわけですが、TTLレベルでは +5V=1, 0V=0 と表現し、RS-232Cレベルは +12V=1, -12V=0 (厳密にはちょっと違うが)と表現するので、これらを専用のICを使ってレベル変換するわけです。 こちらのサイトの方がVAIO本体の配線を追いかけてピンアサインの同定に成功されました。その情報を元に追加回路を貼り付けたのが上の画像です。 |
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必要なものはRS−232CレベルコンバータのMAX232C互換チップと、0.1μFのコンデンサ5個。そして、MAX232C用の電源を作るための3端子レギュレータ78M05とソレ用のコンデンサ2個(今回0.1μFを使ったが容量は割とテキトーで良い)。 MAX232Cは超メジャーなICなので、地方のパーツ屋でも手に入ると思いますが、私は秋月電子通商で買った互換チップのADM232Cを使いました。必要なコンデンサx5とセットで250円。古典的手法ですが、足を広げて短く切り、基板の空いているスペースに両面テープで貼り付け、空中配線しました。 3端子レギュレータはジャンクPS2から剥がした78M05(最大500mA)を使いました。サイズが大きくなりますが1A版の7805でも構いません。 |
電源はCN8に太めの被覆線を半田付けしてDCプラグへ誘導してます。この画像では右側+12V、左側GND。 タブレットのシリアル信号はCN1付近のスルーホールから取り出してADM232Cに入力。スルーホールはカッターの刃先で少し削って銅箔を露出させてやると半田のノリが良くなります。やりすぎてパターンを損傷しないように注意。 音声信号はCN1に適当な2芯のシールド線を半田付けしてステレオミニジャックへ誘導。 |
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とりあえず、こんな感じに配線するとPCからタブレットを認識できるようになります。 |
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シリアル端子(Dサブ9pメス)、ステレオミニジャック、DCコネクタへのケーブルは所々タイラップでまとめて背面に引き出しました。元々PS/2やUSB端子へ繋がるケーブルがついていたルートを利用して固定してます。 |
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VAIOロゴがエンボスされているカバーに穴を開けて増設コネクタを取り付けました。これで、タブレット、音声信号ともに普通のPCに繋がる状態になりました。 シリアル端子はストレートケーブル(オス−メス)でPCのCOMポートに接続します。ワコム製ドライバ(後述)を使う場合はどのCOMポートでもOK。ちなみにシリアル端子を持たないPCでもUSB−シリアル変換アダプタを使えば接続可能です。試しに秋月で購入した変換アダプタを使ったところ、問題なく動作しました。 |
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ペンタブレットは、タッチパネルと違って専用のペンが必要です。筆圧検知、クリックボタン2個と消しゴム機能まで付いており、なかなか多機能です。ペン自体に電源は不要で、どうやら電磁誘導で検出しているらしいです。 今回のモニタは入手した際に専用ペンが付いていなかったので、家電店を通じて取り寄せてみました。たかがペンだと侮っていたのですが、5880円もしやがりました。ワコムのペンも補修部品として取り寄せると6000円くらいするのでまぁそんなものなのでしょうか。 ちなみにタブレットペンは一応専用品ということになっているようですが、他のワコムのペンで代用できるものがあります。ウチにあるIntuosのペンは使えませんでしたが、ArtPad IIのペンは使えました。他にも、Cintiq/PLシリーズのものが使えるという噂もあるのですが、未確認です。 |
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タブレットドライバですが、VAIO LXシリーズ用のソニーのドライバは制約が多いため、ワコムの汎用ドライバを使わせて頂きましょう。cintiq/PL用が使えました。ワコムのサイトには記載ありませんが、実はVAIOモニタにも完全に対応していたりします。 ちなみに、正常にタブレットを認識しないとドライバーのインストールができません。インストールできない場合は配線の見直しが必要と思われます。インストールに成功するとコントロールパネルにワコムタブレットの項目が現れ、各種設定が出来る状態になります。
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タブレットドライバの診断モードに入ってみます。正常に認識されるとこうなります。PCVA-TXSA1と、型番も正しく認識してます。ちなみにペンの傾き検知はできないみたいです。 |
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以上の改造で、ペンタブレットモニタとして使えるようになりました。筆圧検知するCGソフト(Photoshopとか)を使うと筆ペンみたいな感覚で線を引くことができます。ペンを上下逆さにすると消しゴム機能が使えるので、書いた線を消すのも簡単。とりあえずテストとして「くまちん(C)DO-夢」なんぞを描いてみたりして。 紙に描くより書いたり消したりが簡単だし、色も自在に付けられるし、レイヤーの重ね表示やエアブラシ効果などCGならではの機能も豊富なので、非常にお手軽に落書きが楽しめます。これは面白いですよ! こんな面白いものをプロや一部のマニアだけに使わせておくのは勿体ないです。もっと敷居を低く(値段を安く)して普及させるべきでしょう。お子様の落書き帳としても最適かも。値段さえ安くなれば多くのユーザーに受け入れられるのは間違いありません。 ちなみにモニタ表面は特殊コーティングが施されたガラスが貼ってあり、結構な筆圧に耐えるようになっています。とはいえ、強い衝撃を与えたりすると割れたりもするようで、時々ガラス割れのジャンクがヤフオクで出品されているのを見かけます。特殊コーティングは、ペンを滑らす際に適度な抵抗を与える目的と、表面保護の目的があるらしいです。コーティング層には若干の弾力性があるようで、ペン先で擦ると僅かに傷が付くのですが、時間と共に傷が消えて行きます。コーティングをえぐるような深い傷は残るようですが、専用ペンで使う分にはあまり心配する必要はなさそうです。 |
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この改造LXモニタにいくつかのビデオカードを繋げてみると分かるのですが、ものによってはBIOS画面が出たり出なかったりするものがあります。上に載せた画像はBIOSが出るケース。ビデオカードはATiのRage LT pro(古い)。元々BIOS画面はVGA(640x480)表示なのですが、ビデオボードが勝手にフルスクリーンに拡大表示して、モニタにはXGA(1024x768)信号として出力しています。Windowsの旗画面もフルスクリーンだし、OS起動後に解像度変更した場合も勝手にフルスクリーンに拡大されます。このようなケースでは特に問題なく使えますので、VAIO LXでもこういう挙動を示すビデオチップ&ドライバを使っていたものと推測されます。 Radeon世代のATiのビデオカードを使った時はフルスクリーンに拡大されなくてもBIOS画面が出ました。しかし、OS起動後に解像度をSVGAやVGAに変更すると途端に絵が出なくなります。VGA表示固定のゲームソフトなんかを起動してしまうと、絵が消えてそれっきりになって致命的です。matrox系のビデオカードではOS起動後はXGAのみ表示されるものの、BIOS画面そのものが出ません。ビデオBIOSを最新版にアップグレードしてもダメでした。 いくつかの組み合わせでの挙動を見た印象から、PCを起動するときには、EDIDは2回読み込まれることが分かりました。まず、ビデオBIOSがEDIDを読みとって、BIOS画面を出す信号を決定。そしてOSがもう一度読みとってOSの出力信号を決定する仕組みになっているようです。ビデオBIOSとOSではEDIDの解釈が異なることがあるようで、不適切なEDIDだったりすると、BIOS画面が出てもOS起動後に絵が出なくなったり、その逆だったり、起動後に解像度を変更すると絵が出なくなったりします。 いろいろ試行錯誤してみた結果、LXモニタではEDIDに不正な値があり、そのためにSVGAやVGAモードにおいて、ビデオカードがこのモニタ非対応の信号を出していたことが判明しました。 |
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さて、EDIDは、モニタ内部に設けられているI2C通信のシリアルEEPROMに記録されたデータですので、これを書き換える作業が必要になります。 I2CシリアルEEPROMの書き換えにはここで公開されているソフト&回路が使えました。ただし、テスト版のようで(バージョンアップされる気配はなし)、Windows9x系でないと動作しないとか、スクリーンエディットができなかったり、ファイルの入出力が出来ない等制限が非常に多いです。動作の安定していないソフトなので、必ず書き換える前に、元データを保存しておきましょう。表示されているデータをコピー&ペーストしてテキストファイルにしておけばいいでしょう。書き換えに失敗してデータを失ってしまうと、自力で作り直すのはかなり面倒です。余裕のある人はちゃんとしたライターを自作したほうがいいかも。 実際にPCVA-TXSA1のEDIDを吸い出してみたところ、上記のようなデータになっていました。細かい解説は省きますが、赤枠で囲ったアドレス0023h-0024hのデータが、パネルの対応解像度を示しています。「21h 08h」 のデータはVGA,SVGA,XGAに対応という意味です。これをXGAのみ対応というデータ「00h 08h」に書き換えます。Edit bufferの項目で、Start Adress 0x0023 , Size 1 , Data 0x00 と入力してOKとすると、画面上のデータが書き変わります。 EDIDでは、青枠で囲ったアドレス007Fhがチェックサムになっているので、ここも書き換える必要があります。アドレス加算型のチェックサムで、0000h-007Fhの全てのデータを加算した値の下2桁が00hになるようにします。この機種では元々66hだったので、先ほどアドレス0023hから差し引いた21hを加算して66h+21h=87hに書き換えればOKです(16進数で計算すること!)。EDIDには機種名(PCVA-TXSA1等)も書かれているので、当然チェックサムも機種ごとに変わります。チェックサムの仕組みをキチンと理解した上で各自計算が必要です。 以上の作業だけでは、画面上書き変わっただけの状態なので、最後に[WRITE DATA]を押してEEPROMに焼き込みます。エラーが出ずに完了すればOK。一度読み出してみて、正常に書き変わっているかどうか確認しましょう。 |
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実際のシリアルEEPROMですが、モニタ内部の制御基板に8pの石があり、これがEDIDを格納しています。チップにC02と表記されているのですが、2kBitのチップかな? 要するにこれを書き換えれば良いわけです。 |
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回路図を元にこんな感じの書き換え用のケーブルを作成しました。DVI端子にモニタを接続して、開腹しなくても読み書きできるように作ってます(ちなみに使用する際にはモニタの電源供給も必要)。TXSA2/Aではこれで書き換えられたのですが、なぜかTXSA1では書き換えができませんでした。 周辺回路が悪さをしている可能性も考え、チップを剥がして直接ワイヤーを半田付けしたりしてみましたが、読みとりはOKなのに書き込みは不可。書き込み許可・不許可の設定ピンが間違っているのかと思って7pをHやLレベルやオープンにしてもNG。どうやら今回利用した回路&ソフトでは書き換えができないチップみたいでした。 |
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回路の部分拡大図。トランジスタ1個と抵抗2本という恐ろしくシンプルな回路です。とりあえず読み書きできればいいや、という感じでテキトーに作ってます。 |
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別の書き換えソフト&回路を用意するという手段も有りましたが、回路図見て萎えたので(根性無し)、別のEEPROMを用意しました。以前改造したPCVA-14XLAPの制御基板から部品採りしたものです。元々PCVA-14XLAPはLVDS仕様のモニタなので、EDIDを必要としません(VAIO独自仕様でEDIDが使われていた模様)。部品取りには丁度良かったです。 収穫したEEPROMは24LC27Aというもの。これはEDID専用に開発されたものみたいです。上記の回路で正常に読み書きできました。 TXSA1改のデータをコピーして、こんな感じに貼り付けました。 |
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たった2バイトのデータ書き換えによって、matrox系のビデオカードでもBIOS画面が出るようになりました。フルスクリーンではなく、画面中央に小さく表示されています。 |
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旗画面も上下左右がカットされ、中央に小さく表示されます。文章だとあっという間ですが、この画面を拝むまで結構苦労しましたよ〜。 OS起動後に解像度変更した場合も同様に中央に小さい画面として表示されるようになりました。フルスクリーンに拡大されないのはちょっと寂しい気もしますが、まったく映らないよりは遙かに良いです。 |
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ちなみに、I2CのシリアルEEPROMはいろんなデバイスで使われており、DIMMメモリなんかにも張り付いています。 左のものは、SPDというメモリの特性や容量等の情報を格納する目的で使われている2kBitのシリアルEEPROMですが、適当なチップがなければこういうものから剥がして使ってみてもOKです。実際にこれを剥がしてデータを書き込んだところ、モニタのEDIDとして利用可能でした。 I2CシリアルEEPROMにもいろいろな種類のものがあり、あまり容量の大きいものは仕様が合わないようなので注意が必要です。 |
総評 以上の改造により、VAIO専用のペンタブレット付きLCDモニタの完全汎用化に成功しました。液晶自体は日立のS−IPS液晶なので色再現性、視野角ともに非常にクオリティが高いです。視野角の広さについては、タブレット液晶の場合はペンで書く際に斜め視野になりがちであることから、VAIO設計者もこだわった部分らしいです。実際ブラウン管モニタと比べても遜色の無い広い視野角が実現されており、技術の進歩を感じさせますね。同じVAIOでもLシリーズ(PCVA-15XTAPなど)で使われていた旧世代液晶とは次元の違う美しさです。現在でも日立S-IPS液晶は高く評価されており、ナナオの高級モニタあたりでも採用されているようです。返す返すも横線問題さえ無ければ…と惜しまれるところですが(注:横線問題があるのは一部のS-IPS液晶の一部のロットみです)。
液晶タブレットについては、画面に直接絵が描けるという感覚で非常に面白いですね。マウスや普通のタブレットとは違って直観的に扱うことができ、「お絵かきツール」としての敷居は非常に低いです。これだけ手軽に扱えればお子様にもお絵かきが楽しめるでしょう(あんまり小さい子だとペンで叩いてガラス割っちゃったりしそうですけど)。しかし、市販品はお値段がクソ高いのが難点。いくらなんでも現在(H17年3月)の価格設定はあんまりです。H16.12月に15インチモデルの価格引き下げが発表されましたが、それでも15インチXGAごときで10万円くらいします。とても子供のお絵かきに買い与えるような値段じゃありません。17インチ以上になると、ほとんどプロの方の足下を見たような凶悪な価格設定。最近は17インチの廉価モデルも出たようですが、LCDの表示能力が低くて(視野角狭すぎ)メチャメチャ評判悪いです。せめて液晶モニタ+大型ペンタブレット+α程度の値段に引き下げられないものかと思いますがね。今後徐々に低価格化が進んでゆくのでしょうが、それなりの価格(だいたい5〜6万円程度?)まで下がれば爆発的に普及すると思います。競争相手のいない独占状況だからなかなか価格引き下げという方向に向かないんでしょうが。
内蔵アンプとスピーカーですが、VAIO LシリーズのPCVA-15XTAPと同等の回路、スピーカーが採用されており、サイズに割にはなかなかの音質です。PC用モニタのスピーカーとしては十分に実用できます。
コストについては今回詳述しませんが、同等の市販品の数分の一程度で入手&改造できたので、非常に満足です。お絵かきが出来て液晶も綺麗で、スピーカーまで内蔵しているので実用性も非常に高く、XGAで我慢できればメインモニタにしても良いくらいです。できればNTSCビデオ入力等にも対応させたいのですが、内部のパネルがTMDSなのがネックですねぇ。現在NTSC信号をTMDSに変換するデバイスはαデータというメーカーから1機種だけ発売されているようですが、アナログRGB入力をTMDSに変換できなかったりと一癖ありそうな感じです。A-200KにTMDSトランスミッタを載せるという構想はあるんですが…。
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