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〜Panasonic VTR ジャンクNV-BS900を修理する その3〜

「ニコイチによる究極的診断法」


Panasonic NV-BS900(三号機)

私が入手したBS900は全4台のうち、3台がジャンク入手ですが、二号機、四号機は修理完了し、残るはこの三号機のみとなりました。とりあえず3台重ねて記念撮影(バカ)。本当は4台重ねたかったのですが、一号機はラックに入っており、撮影目的でわざわざ取り出すのもかなり面倒なので(爆)止めました。下から二号機、三号機、四号機です。貼ってあるステッカーの数が違います。三号機には92年のオリンピックのスポンサーであることを書いたステッカーが貼ってあります。次期モデルであるBX25にも同様のものが貼られていますので、おそらく三号機はBS900の中でも比較的後期のロットだと思います。

さて、この機体は某オークションで未チェック4000円で入手しました。で、ジャンクなのでやはり壊れていました。その故障点がですねぇ…、二号機みたいに電源がマッハで切れるという故障だったのですよ…。ぐはぁ!これでは自力で直せないじゃないか!!!

この故障に遭遇した時点ではまだ二号機を修理に出していなかったので、直す手段はメーカーに委ねるしかないと思っていました。で、その後二号機を修理に出して、しばらく後に修理不能で帰ってきてしまったので(電源の復活には気付いていなかった)、この機体も諦めるしかないかなぁと思ったのですが、一応ダメもとでメーカー依頼することにしました。今回も上限16000円での依頼。果たしてどうなるでしょうか…。

しばらく時間がかかりましたが、連絡がありました。なんと、修理代見積もり41000円だそうです。ぐはぁ!いくらなんでも41000円出すくらいなら別のジャンク機をゲットした方がマシですよ…。BS900は名機ではありますが、そこまで出して救う価値は…さすがに無いかと。うぬぅ、今度こそ諦めるしかないのか…。

で、機体を引き取りに行きました。今回も見積もり料云々は請求されませんでした。なんだか申し訳ないので故障個所も聴きませんでした。見積伝票もナシ。一体どこが壊れているのか分からないのですが、メーカーが41000円かかると言っているのだから、自力修理はまず無理だろうと思ってかなり諦めモード入りました。ところが何気なく電源に繋いでみると…。

またもや電源が復活してる!!

一体どうなっているんだろう。 メーカーに出すと自然治癒する法則でもあるのでしょうか。にしても、電源が入るのに、修理代が41000円かかるってどういうことでしょう。もしかして、それ以外に故障個所が? まぁとにかく電源が入るのですから、自力修理できる可能性が出てきました。とりあえず故障個所を検証します。

内部と動作の検証

当初からこの機体は程度が極上でした。ピンチローラー、クリーナーアームはほぼ新品。ブレーキは交換されていませんでしたが、ほとんど劣化していません。ちなみにメーカーから帰ってきたときに、二号機で切れていたフレキが青いビニールテープで補強されていました。二号機を扱った同じサービスマンが、前の教訓を生かしたのでしょうかね。

ちなみにこの写真はヘッド交換後です。よって表面が鏡のように光り輝いています。

メカ裏側も極上。センタープーリーと、例のメインカムは交換されているようです。おそらくギヤ欠けがあって、前オーナーがメーカーに修理を出したのでしょう。そのときに消耗品も一緒に交換されたと思われます。ローラー、クリーナーの程度を見る限り、ほとんど修理直後に廃棄されたような感じです。おそらく修理直後に新たな故障が発生し、これ以上修理代をかけるくらいなら新しいデッキを買った方がマシだと前オーナーは考えたのでしょう。

で、動作検証したのですが、やはりマトモじゃなかったです。再生画像に異常がありました。S-VHS限定で三倍モードの再生がノイズまみれになってしまうという不具合があったのです。ノーマルVHSや標準モードはOK。録画もOKでしたが、初期のヘッド摩耗では再生だけ乱れるという事もあるようです。この段階では原因がハッキリ特定できなかったので、とりあえず、当時ヘッド異常のあったBS900二号機へヘッド移植をしてみました。すると、二号機で同様の条件でのノイズが現れました。したがって、責任はヘッドにあると診断。41000円のナゾはヘッドかな?

というわけで、二号機のヘッドと一緒にこいつのヘッドも藤商に注文。交換したところ、このノイズは消えました。しかし…。

赤の多い画像で横縞のノイズが出まくり…

なのです。ぐはぁ!ヘッドだけでなく、回路も異常か!? 冷静になって考えるとヘッド交換だけで修理見積もり41000円というのはおかしいです。ヘッド交換のメーカー修理だったら2万円が相場ですから。どうやら裏があったようです。

原因の追及

いろいろ調べてみたところ、やはり回路異常のようでした。回路の正常なBS900四号機を利用して、まず映像ブロックを丸ごと移植。これで症状が消えたので、今度はサブ基板単位で移植。その結果、この写真の映像サブ基板が原因と診断されました。とりあえず可変抵抗にマーキングを施した上で回してみたのですが、どれを回しても改善されませんでした。

そこで、今度は部品単位で移植を繰り返し、どのパーツが死んでいるのか検証。ニコイチを診断に利用する方法です。人海戦術的ニコイチ診断とでも言いましょうか。とりあえず知識なしでも手間さえ掛ければ責任病巣に到達できる方法です。(※通常は、ニコイチ(2個1)とは、別々の部位の故障した二台の正常な部分を合体させて一台の完全なものを作ることを言います)

ここの赤丸のパーツを順に移植してみました。コンデンサは再生中に手でグリグリしてみて映像に変化が現れたものを移植してみました。一つ移植しては本体に戻して検証。変わらなければ移植パーツを元に戻してさらに別のパーツを…と非常に手間が掛かります。しかし、そのうちいつかは必ず責任病巣へと到達できるのです。それを信じて地道に移植と検証を繰り返します。

怪しいハイブリッドIC

このシールドケースに入ったハイブリッドICはかなり怪しかったのですが、この機体では大丈夫のようでした。過去に外された形跡を認め、おそらく今回のメーカー依頼でもいじられたと思います。

中にはありがちなHICがあり、表面実装のコンデンサがいくつか入っています。この三号機のものはおそらく過去に交換されていると思われ、コンデンサの足には全く腐食の色は認められませんでした。

実はニコイチ診断に利用した4号機では、このHICにコンデンサの足の腐食が若干現れていました。近い将来映像に支障を来すと思われますので四号機には早期治療が必要と思われます。

責任病巣を発見

最後に到達したのがこのパーツ。こいつを交換したところ、ウソのように横縞のノイズは消えました。

分解したところ、磨りガラスのようなものの表面に黒い謎の物体が張り付いている謎のパーツです。imomushi氏によると、「ディレイライン」というパーツで、水晶と素子を使って信号の遅延を行っているとのこと。

なんでこんなパーツが壊れるのかよく分かりませんが、とにかく交換すれば直ることだけは分かりました。よってこのパーツを注文。

しかし、心配なのは補修用パーツがメーカーに存在しているかどうか…。なんか、補修部品としてはマイナーなパーツっぽいし…。

品番 VLD0188
品名 チエンソシ
価格 1000円(1個)

そこは松下。さすがです。きちんとパーツが届きました。ただし、今回は若干時間がかかり、2週間ほどを要しました。地元のサービスセンターには在庫がなかったのでしょうかね。新しい物は、型番こそ同じですが、形が違っていました。何らかの改良がされたのでしょうか。

分解してみたかったのですが、それで壊すとイヤなので(笑)大人しくそのまま半田付けしました。一個1000円という値段は決して安くはないですし。

半田付けして、映像ブロック基板に取り付けです。

で、テープを再生してみたのですが、どうも色ズレが起こっています。特に赤が滲みます。そこで可変抵抗をいじることにしました。結果として、このVRを回したところ改善されました。交換したディレイラインの付いていたサブ基板状のVRで、「Y/C DLY」とされています。ディレイラインの交換で以前と特性が変わったためでしょうか。


ようやく直ったので使ってみました。とりあえず問題なさそうです。ちょっと映像がザラザラしていますが、ヘッドが新しいせいでしょうか。しばらく慣らせば良くなるかな。暇を見て適当にテープを回しておくことにします。

それにしてもBS900の多段重ねは壮観ですなぁ(笑)。もう一台重ねたかった…(バカ)。


総評

この機体は後輩に調達依頼されたものなので、実費で売却予定です。最終入手費用は本体4000円+ヘッド6000円+ディレイライン2000円=約12000円という感じです。BS内蔵のS-VHS機で、これだけあちこち補修された機体が12000円なら満足でしょう。消耗品、ヘッドが新ですし、考えられる弱点は一通り潰したオーバーホールのような感じです。

一時はメーカー依頼でどうなるかと思いましたが、結局の所全て自己修理する結果となりました。まぁこれも電源を入るようにしてくれたメーカーのサービスマンの方のお陰とも言えますが…。とにかく感謝する次第です。

結果として、メーカー修理見積もり41000円のところが自力修理8000円で済んでしまいました。まぁヘッドは非純正ですし、測定器を使った微調整ができないというデメリットはありますが、8000円での修理であれば、さほど躊躇することなく実行に移せる金額だと思います。推測ですが、修理見積もり41000円という金額には、ディレイライン単体ではなく、基板単位での交換が含まれていたのではないかと思います。メーカーから帰ってきた基板を観察してみたのですが、あの映像サブ基板には手を付けられた形跡はなく、他のサブ基板の部品を外した跡と、VRを回した跡があったからです。おそらくサービスマンはディレイラインの異常とまでは原因が特定できていなかったのではないでしょうか。

メーカー修理では、サービスマンが一台の修理に掛ける時間が修理コストに反映されるため、できるだけ短時間で修理する必要があるそうです。従って、今回のように原因の特定しにくい非典型的故障では、基板単位での交換をすることがよくあるとか。ていうか、それが普通だそうです。特に今時の表面実装タイプのパーツがひしめいている基板ではパーツ単位での交換はほとんど不可能でしょうねぇ。

そういう意味で、今回のように手間暇かけた人海戦術的なニコイチによる診断はアマチュア修理ならではと言えますね。できるだけ修理代を安く、一台でも多くの機体を救うためには手間と努力を惜しんではならないのです。


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