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〜往年のビデオデッキを修理する〜


NEC社 S-VHS Digital Hi-Fi Video 「VC-DS910」

今回は今回はAT機から離れてビデオデッキの修理のネタです。斉藤Siteの他、imomushi's ほーむぺーじ等、ビデオデッキの修理ネタはハードエア系サイトでは割と定番らしく、私も刺激されて我が家に死蔵していたS-VHSデッキを修復してやろうと思い立ちました。ビデオデッキを本気で解体するのは初めてでしたが、いじっている内にだんだんメカニズムが分かってきて面白かったです。修理に際してimomushiさんには掲示板でお世話になりました。この場を借りて御礼申し上げます。

今回の生け贄君はNECの80年代後半のS−VHSビデオ(たぶん11〜12年前のモデル)です。当時はまだS-VHSはさほど一般に普及しておらず、一番安いS-VHSでも10万円程度という時代でしたが、なぜかこのモデルは破格で売りに出ており、79800円(消費税はまだ無かった)で購入。

故障の状態は、再生できないこと。再生ボタンを押すと中でモーターがうなりを上げて、6秒後に保護回路が働き、電源が切れます。中を覗いたところ、テープローディング用のモーターのプーリーが空回りしていました。当時のNECデッキではありがちな症状らしいです。原因としては以下が考えられます。

1:ゴムベルトが経年変化で伸びて滑っている
2:カムギヤのグリス切れでメカが重くなった
3:その他

ちなみにこのデッキは一度消耗品交換のメーカーメンテに出しています。当時の症状も今回と類似しており、ゴムベルトが滑るというものでした。

フロントパネルを空けるとこんな感じ。操作ボタンは比較的使いやすかったです。番組予約もオンスクリーンで(当時は目新しかったような気がします)、その際に使用する10キーが非常に快適で、素早い番組予約が出来ました。今時のビデオは機械に弱いお馬鹿さんでも予約出来るようにとの配慮か、各項目別に上下のカーソルボタンを長々と押して時間を設定したりするものが多く、イライラしますが、この方法ならそんなことはありません。サクサク快適に予約、修正自由自在。

当時流行ったデジタルビデオゆえ、スチル、ストロボ再生が可能。テレビ番組を見ているときでもスチルボタンを押せば即座に画面がキャプチャされます。特筆すべきは「デジタルノイズワイパー」。前後の画像をデジタル的に差分を取り、それをノイズとして吸収するというメカニズムであり、これのノイズ除去機能はかなり効果的。今でも十分実用に耐えると思います。このビデオを通せば、受信状況の悪いテレビ放送にもリアルタイムでノイズ除去が入り、結構まともに見えちゃったりします。

S端子はまだあまり普及していなかったためか、前面には付いていません。高級機に必需品なヘッドフォン端子は前面に装備。蛍光管の質が余り良くないのか、使いすぎか、経年変化でかなり表示が暗いです。

背面の端子群。入力一系統(前面と同一ライン)、出力は音声2系統、コンポジット1系統、S1系統。と、あまり端子は充実していません。一応金メッキです。機材の多い廃エンドユーザーには向かないかも知れません。

ちなみにビデオ出力端子(コンポジット)には「ビデオ/PCM」と端子名が描かれており、PCMプロセッサ対応を謳っています。PCMプロセッサとは、デジタル音声をNTSCビデオ信号に変換し、ビデオデッキをデジタルオーディオデバイスとして使うためのアダプタです。このデッキでは、フロントに画像モード切り替えスイッチがあり、「白黒」に切り替えることでPCMプロセッサに最適化されるようになっていました。


解剖図

トップカバーを取ってみます。当時のNECで多く採用されている鉄板プレスベースのメカのようです。

右の基板のシールド版に張り付いているのは、ローディングモーター用のベルトです。これが良く伸びて故障の原因となりやすいのです。(以前に分解したときに外したもの)。

ですが、今回はベルトの状態は比較的良好でした。一度交換しただけのことはあるようです。よって「故障原因1」は否定的。残るは2と3。

底面パネルを取ってみます。キャプスタンモーターに付いているのはゴムベルトでした(ガッカリ)。もう少し後のモデルだとコクドベルトに改良されたようなのですが・・・。

ちなみに消耗品の交換後2年でうまく動かなくなり、使用頻度も高くなく、それっきり死蔵していたため、ブレーキパッド、ゴムベルト等の消耗品の状態は比較的良好でした。

中のプラスチックパーツは経年変化でボロボロです。酷いのはこの灰色のプラスチックパーツで、至る所にクラックが生じています。かなり硬質なプラスチックのようですが、鉄板との収縮率の違いで長い年月には鉄板に負けてしまい、このようにクラックが入るそうです。動作に支障のない範囲であれば構わないのですが、同じ素材がブレーキの軸に使われており、ここが折れると再起不能だそうで・・・。折れないことを祈るのみ。

これが問題の起こりやすいローディングモーター+カムギヤ。写真を取り忘れたので「斎藤Site」より転載させて頂きました(Thanks!)。

これのゴムベルトが経年変化で伸びてローディング不良を起こしやすいのです。また、溝のグリスが切れるとメカが重くなって同じようにベルトの滑りに繋がることもあるようです。まだグリスは生きていましたが、念のためグリスアップしておきました。

ネジ3本で外れて、このように裏返すと渦巻き状の溝が掘ってあり、早巻切り替え用のピンや、ハーフローディングアーム、ピンチローラーに動力を伝えています。ギヤはその下のローディングポストを動かすギヤ(次の写真)に動力を伝えています。このかみ合わせがクセモノで、一旦外してかみ合わせがずれて取り付けられるとまともに動きません。このギヤは外さない方が無難。私は外して付け直すのに一晩かかりました・・・(実話)。

先ほどのカムギヤの下のギヤです(斎藤Siteから転載)。いじるときにはデッキ裏側からアプローチします。

ローディングポストに動力を伝える役割と、モードコントール接点(右下の丸いパーツ)を回転させてデッキに現在の状況を伝えています(写真は接点を外してこれを逆さにひっくり返しています)。

この接点も故障頻発箇所。ウチでも再生時にキャプスタンモーターがブンブン回るという故障が出現しています。これにCRE556(オイル)を浸透させてグリグリ回したら直りました。ちなみに消耗品キットにはこのモードコントロール接点も含まれています。


犯人はおまえだ!

メカを分解してあれこれいじってみて、妙に気になったのが、早送り巻き戻しモードに切り替えるためのリール台上方に左右に伸びるバー(名称不明)の重さ。ある一点で異様な引っかかりがあるのです。よーく観察したところ、白いパーツにクラックを発見! 犯人はおまえだ! じっちゃんのナニかけて!

拡大図。「←」のところにクラックがあるのがお分かり頂けるかと思います。クラックで生じた溝がその右側にある金属の突起の移動を妨げており、その力がカムギヤを伝わって結果的にローディングモーターのプーリーを滑らせていたのです。姑息的にカッターナイフで削って突起をなめらかにしてやったところ、妙な引っかかりは解消されました。今のところ、元気に動いています。

まとめ

結局故障の原因は「3:その他」でした。一般的な消耗品ではなさそうなので、たぶんこのパーツは前回消耗品交換時には交換されなかったと思います。よく調べてみると、クラックの生じやすい方向に結構力価がかかるパーツのようです。それにしてもこんな安そうなパーツのひび割れ一つでメカ全体が動かなくなるとは・・・。メカってデリケートですねぇ。

今回は超テキトーな応急処置でなんとか復活しましたが、本来ならばサービスセンターで新品パーツを調達してきたいところです。消耗品キットもついでに入手しておけば6年程寿命が延びるでしょう。ただし、メインブレーキの軸等、クラックの多発している灰色プラスチックの問題がありますので、予後はこれに決定されてしまうでしょう。

とりあえずサービスセンターにパーツの取り寄せを依頼することにしておきます。ちなみに法律で定められた補修用部品の最低保有年数は確か6年だったかと思います。10年以上前のモデルですから当然在庫がなければその時点でアウト。在庫があればいいなぁ・・・。


2000.12.09追記

ふと思い立って、パーツを注文して、届いたので完全修理をしました。ついでにメカをバラしてきちんとグリスアップすることに決定。

これが消耗品キット。

キットとはいえ、入っているのはピンチローラーとゴムベルト3本のみ。

値段はそれなりで、700円くらいだったような気がします(失念)。

厳密には、ブレーキ類、アイドラも消耗品なのですが、このセットには含まれていません。

んで、問題のパーツを注文しました。今回もサンプルを店に持ち込んで「同じの下さい」作戦。あぁ、迷惑な客。良い子の皆さんはあまりマネしない方がイイかも。

前回の調査で割れていたパーツ「モードアーム クミタテ」と、切れていたカセットハウジングのランプを注文。値段はどちらも100円でした。それにしても、よく在庫があるもんですなぁ。

新しいのは色が黒です。素材が割れにくくなった、だと嬉しいのですが。どうなんでしょ。

ランプ交換して、内視鏡が復活しました。

目視にてテープ残量が確認できるという素晴らしい機能です。ランプが切れやすいのが欠点です。電源投入+テープ挿入状態で光りますが、シーリングパネルを閉めても光り続けるのが結構無駄です。シーリングパネルに開閉スイッチを付けてしまえば良いのですが。でも面倒なのでやらないでしょう。

ついでにメカのグリスアップを行うことにしました。整備しやすくするためにメカをフレームから分離します。

まずはメカ裏へ回り、モードスイッチを外します。この機種では接点式です。よくある方式ですが、経年劣化で接触が悪くなることが多いです。

このデッキでも時たまモードエラーを起こし、再生中にモーターがブン回ったりしていました。

本来、このスイッチは分解できない構造ですが、うまい具合に分解してもネジ止めによりきちんと固定されるので、今回は分解清掃しました。プラスチックで3カ所溶着されていますが、ここをニッパーでかじって取り外します。中の接点をアルコール洗浄+乾拭きしたのち、ヒゲも洗浄。田宮の接点グリスを塗りつけて元に戻します。一度開けた程度であれば、まだプラスチックのツメが生きており、「パチン」とはまります。ダメでもどうせネジ止めできるのであまり気にする必要はありませんが。

さて、グリスアップのためにメカをバラしますが、外す際に位相について確認しておきます。そうしないと組み立て時に元に戻せなくなり、ハマってしまいます。このメカではイジェクト状態で合わせるようになっているようです。前回バラしたときには位相を確認しなかったため、戻すのに一晩かかっています。

ローディングポストのギヤ位相はこうなっています。プレート状のギヤの穴とプラスチックのギヤの合わせ印を合わせればOK。

モードスイッチの下のカムギヤは、イニシャル位置ではこの穴がシャーシの穴と一致しています。

そのカムを外すと、こうなっています。カムを元通りに取り付けるためには、細い棒でも使って、この丸印の棒を矢印の方向に押しながら差し込みます。
次に表側のカムギヤを外します。ローディングモーターがあり、カムギヤと一体となっているので、まずピンチローラーを外し(ポリワッシャー3枚)、この写真にあるアームを外し、ネジ3個でモーターごと外します。

ちなみに、カムギヤの初期位相はこうなっています。穴が上から下へ、即ちモーター台座からシャーシまで貫通すればOK。

ローディングモーターとカムギヤをバラしました。カムギヤは2段重ねになっていますが、噛み合わせは決まっているのでずれることはありません。

これらのカムの溝にモリブデングリスを適量塗り込んで元に戻せばとりあえずOKです。塗りすぎるとはみ出しますのではみ出したグリスは丁寧にふき取っておきましょう。そのままにしていると、ホコリを巻き込んだりして逆効果なので。

この機種はゴム製品が多用されており、経年変化でどうしても劣化してしまいます。劣化が軽度であればヤスリがけして劣化層を取り除けば復活しますんで、今回はセコ技としてヤスリがけします。

まずこのようにアイドラの組み立てをバラしました。

ゴムを使っているのはこの2つの部品。これらの接触面を紙ヤスリで研磨して劣化層を取り除きます。これで安定して早送り、巻き戻しができるようになります。

早送りや巻き戻しが出来ないときや、取り出し時にテープが絡む症状が出る場合はこれらのゴムが劣化しています。

このNECのメカの弱点は多々ありますが、このブレーキは非常に弱いところです。すぐ利きが悪くなるのです。今回のブレーキもそんなに酷使していないはずなのに劣化していました。停止ボタンを押しても止まるまで0.5秒くらいかかり、テープが内部に少し飛びだしています。またパーツを注文するのも面倒なのでゴムシートを使って補修しました。

1ミリ厚のゴムシート(ホームセンターで500円程度)を切り取ってボンドG17で張り付けました。両面テープだと接着力が弱いので必ずG17等の黄色い接着剤を使いましょう。

ゴム製ブレーキに改造後は停止ボタンを押した瞬間に一発でテープが止まるようになりました。新品の補修パーツを買うより効果的な気がします。メカに多少の負担はかかるでしょうが。

さて、できあがったアイドラ組み立てと、ブレーキを元に戻しますが、この黒いプラスチックの位置に気を付けます。白い首振りギヤと噛み合わせながらはめ込みます。でないとリール台が回らなくなります。

私は気付かずに組み上げてテープを絡ませてしまいました(^^;。

ブレーキも元通りにしておきます。ツメとポリワッシャーで固定されています。このブレーキはパッド張り替え後ですが、このアングルではよく分かりませんね(^^;。


総評

つーことで、一通りの整備が完了しました。使ってみましたが、一通り問題なく動くようです。ちなみに、このメカで一番負荷がかかるのがどうやら再生から巻き戻し再生にモード切替する時のようで、ここで若干のもたつきを発生させています。これは最初からそうだったような気がします。ローディングモーターのベルトが伸びるとまずこの動作がやられるようですね。もう少し負荷を分散できる設計にすれば良かったのに、と惜しまれます。

このNECのメカは、27倍速サーチなど、速度はまぁまぁなのですが、やはり弱点も多いメカです。摩耗品、ゴム製品を多用したこの設計ではノーメンテナンスでの動作限界は5年程度でしょうね。10年持つ松下機にはやはりかないません。

ちなみに私のメカに対する目の付け所は、メカそのものの応答性だけでなく、「ノーメンテでどれだけの期間稼働できるか」ということにも重点を置いています。いくら初期の使い勝手の良いメカでも年数が持たなければ何にもならないからです。


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