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〜MITSUBISHI ジャンクVTR HV-F63を修理する〜


MITSUBISHI Hi-Fi Video HV-F63

 当サイトでは初めての三菱機です。三菱機も松下と並ぶ耐久性の高いメカを使用しており、松下同様に好むファンの多いブランドのようです。基本的に私の場合、非S-VHS機は捕獲の対象にしていないのですが、一度三菱機をいじってみたかったのと、程度があまりに極上で、失われた技術である「NEサーチ」搭載機で、なおかつ1500円という価格に惹かれて買ってしまいました。ACケーブルを見ると、1988年の作品のようです。もう12年も前なんですねぇ。既にS-VHS機は世に登場して久しい時代でしたが、まだSQPB(S-VHS簡易再生機能)が無かったのかこの機体では搭載されていないのが残念です。

この機体は当時の中堅Hi-Fi機のようです。近所のリサイクルショップでの捕獲。1ヶ月ほど前に新しく出来た店で、ここのところ世間ではリサイクル熱が高まっているのか、新しい店がどんどんオープンしており、実にイイ感じです。壊れた物を壊れたまま売ってくれる店って今まであんまり無かったんですよね。やはり、買うなら壊れた物に限ります。何しろ安いので。どうせ動くもの買ってもきちんとメンテされてなければすぐ壊れるんだから。

窓から覗いて程度を確認

この機体を捕獲した理由は上に書いたとおりですが、ヘッドの状態と走行時間は窓から覗いてある程度予想ができます。使い込まれた機体はアッパードラムがすり減って輝きが失われているものが多いです。この機体は鏡のような美しさがまだ保たれていました。ピンチローラーはテカっていましたが、ヒビまでは入っていません。一度メンテされたか、あるいは使用時間が短かったと思われます。外観同様内部も程度がよろしいようです。

値札には「テープ絡む」と書かれていました。メカの異常なら消耗品交換で直るかな?

輝く背面端子群

背面端子ですが、これも極上。ここまで光り輝いている端子を持ったジャンク品も珍しいです。まさに端子は新品同様。一体どういう環境で保存されてたのでしょう。普通に使っていたらもっと汚くなるはずですが。

ちなみに中堅機のようで、入力1系統、出力2系統のようです。残念ながら前面入力端子はありません。どうやって使うのかよく分からない「AVコントロール」、「編集端子」なんかも存在しています。

2001.02.04追記

(JunZさんからこの端子について情報を頂きました)

まず「編集端子」ですが、これはソニーのコントロールS、コントロールL(LANC)端子と良く似たものの様です。ソニーのシンクロエディット機能と同様、三菱デッキの編集端子同士を同軸ケーブルで接続した状態でダビングを行うと、再生側デッキの一時停止/解除操作に合わせて、録画側の方もポーズしたりスタートしたりするようになります。
再生機側にプログラム編集機能があると、自動アッセンブル編集も可能です。

VTRの機種によっては、再生側のプリロールにも対応している様です。ただし、ソニーのファインシンクロエディットの様に録再ともにプリロールする訳ではなさそう。
(参考までに、プリロールとは、編集開始位置からいったん数秒分巻戻して、再生状態で「助走」を行って映像を安定させた上で編集を始める、という方法です。)

「AVコントロール出力端子」の方は、同社製テレビの「AVコントロール入力端子」と接続すると、ビデオの再生操作を行うだけで自動的にテレビの方がビデオ1入力に切り替わる様になる、というものです。AVコントロール機能のスイッチをONにしていると、ビデオ側のRF出力のアンテナ切替操作も無効になる様です。

JunZさん情報ありがとうございました。

充実した操作系

88年という時代らしく、本体のみで一通りの動作が出来るようになっています。基本動作はもちろん、時計合わせ、チャンネル設定、予約操作の他、VISSサーチなどおよそ考えられる操作はすべて本体のみでOK。ちなみにオンスクリーン機能もあり、カウンタや動作サインが画面に表示できます。このON-OFFも本体で可能。

やはり、リモコンなしのジャンクを入手するなら、本体で一通りの操作ができる機体に限りますね。


メンテナンス開始

さて、メンテのために分解です。カバーと顔を外してカセコンを解放しました。顔はツメで止まっているだけですが、前面蓋の中にスイッチが付いているため、そこからフレキで本体に繋がっています。そこを切らないように注意します。

この機体のカセコンはローディングモーターから動力をゴムベルトで貰って駆動されていました。ベルトをチェックしましたがまだ使えるようです。とりあえずプーリーとベルトをアルコール洗浄。

アルミダイキャストメカ

 この時代の三菱機は松下機同様、アルミダイキャストのメカベースを使用しています。やっぱりメカはアルミダイキャストに限りますなァ。ただ、この機体は中堅機らしく、ゴムベルトが合計3本、アイドラも首振り仕様のゴム製で、ちょっと安っぽいです。このようにゴム製品を使うと、5年もするとどうしても劣化するのです。この辺はやはり松下機の方が優秀のようです。当時の松下機の場合は、中堅機でもギザギザ付きのコックドベルトを使っているのでほとんど劣化せず、ゴム製のアイドラなんてものは使っていません。

で、この機体をチェックしましたが、内部も極上で、ホコリもほとんどありません。唯一汚れていたのがピンチローラー周辺で、磁性体のカスが少量撒かれて若干周辺が腐食していました。綿棒でクリーニング施行。尚、テープ走行用のゴムベルトの状態は現状で使用に差し支えないようです。

NEサーチ搭載ヘッド

 アッパードラムの上に透明プラスチックのカバーがあり、その中にNEサーチ機能の一端を担っている導電ブラシが3本があります。ちなみにNEとは「NOIZE ERASE SPEED SERCH」のことらしく、早巻き再生中にバーノイズを発生させないという画期的なシステムでした。昔の三菱機の一部の機種のみに搭載されており、現在は作られていません。まさに失われた技術です。交換ヘッドもすでにメーカーサービスから消え去っているという噂です。

動作確認当初、こいつの接触が悪く、通常再生でもチラチラとノイズが乗る有様でした。もちろんサーチのノイズも盛大に発生。これではNEサーチどころではありません。再生中に導電ブラシを指で押しつけてやると、ノイズが消えました。そこで接点を念入りにアルコール洗浄、CRC556洗浄して、田宮の接点グリスを塗布しました。それと、接触圧を挙げるためにブラシをすごし内側に曲げておきました。これでようやく綺麗なノイズレスサーチができるようになりました。

早送り再生を仕掛けると走行を安定させるための約1秒の後に、スッとバーノイズが消えて美しいサーチになっています。うーん、イイなぁ、これ。松下機にも欲しかったなぁ。ただ、接点が劣化すると逆にノイズの原因になるのがアレですけど…。あと、ヘッド回転音が普通の機種より大きいような気がします。

アイドラの復活

動作確認当初は、早送り、巻き戻しが異様に遅かったです。原因はこいつ。ゴム製の首振りアイドラです。早巻き時にこれがリール台に接触してゴムの摩擦力で動力を伝えているのですが、経年劣化でどうしても滑りやすくなります。そこで表面をヤスリがけして劣化した層を除去しました。これで復活。普通に早巻きできるようになりました。万が一ゴムがひび割れなどしていた場合は交換する必要がありますが、古い機種なのでパーツ供給が絶たれていることがあります。VTR修理を多く手がけていらっしゃる「imomushi氏」によると、水道用のゴムパッキン(ホームセンターで売っている)が使えることがあるということです。

ちなみにこのパーツにはブレーキ類もついていますが、こちらはほとんど劣化していませんでした。やはり中身も極上です。

メカ裏側

アイドラを外したメカ裏側です。キャプスタンモーターのプーリーは金属製でした。三菱機だと樹脂製のプーリーが割れるトラブルが頻発するようですが、これなら安心です。また、モードスイッチは左上にありますが、接点式のようです。プラスチックで溶着されており、分解清掃はどうあがいても不可能。よって今回は放っておきました。とりあえず現状で不具合もないようですしね。

ちなみにモードスイッチは取り外したあと、回転角度を間違って付けてしまうと位置合わせが狂ってしまい、正常に動作できなくなってしまいます。合わせ方を知らない場合はヘタにいじらないほうが無難。

ピンチローラーの研磨

ピンチローラーです。かなりテカテカして表面のゴムらしさがまったく失われていたのでヤスリで削って復活させました。これは復活後の写真です。

ちなみにこの機体では、各パーツ固定のためにCリングが多用されており、取り外し、取り付けがやや面倒です。専用工具を持っていればそうでもないのでしょうが、私は持っていないので。

責任病巣?

不具合ポイントらしい部位を発見。メンテ中にメカを裏返したところ、ポロっと落ちたパーツがありました。これです。ローディングポストの棒が抜け落ちました。テープ絡みの原因はこれでしょうか。差し込んだだけではまたすぐ抜けてしまうので、ボンドG17で接着してしまいました。

ヘッドに近いパーツゆえ、動作中にこれが取れてしまうと恐ろしいことが起こるかも…。ヘッド死亡とか…。あぁ、生きててよかった。


総評

さて、メンテナンス後に一通りの動作をさせてみました。NEサーチも含めて綺麗な画像を再生しています。アイドラ復活に伴って早巻き速度も復活。値札にあったような「テープを絡ませる」そぶりもありません。ただ、FL表示管が異様に暗いです。表示窓の内側はジャンクビデオらしくススけており、アルコールで洗浄をしたのですが、効果薄。表示管そのものが相当劣化しているようで、根本的解決になりませんでした。この表示管、古い松下機の場合は多少ムラはでますが、それほど輝度は落ちないようです。三菱機の場合は劣化が大きいのでしょうか。まぁ、交換するほど使い込むわけでないのでとりあえず放っておきますが。表示が読めないわけでもありませんし。

それにしてもNEサーチは素晴らしい技術です。接点劣化による不具合発生は避けられないようですが、このような機構を作った三菱の技術力は大いに評価したいところですね。

最終入手費用は1500円(+税)。消耗品も含めて付いていたパーツをそのまま復活できてしまったのでお得でした。やはり極上品はメンテもラクでお金も掛からず、実によろしげです。

さて、このデッキ。何に使おうかしら(笑)。……使い道無いゃ(爆)。


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