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〜Panasonic VTR ジャンクNV-FS90 を修理する〜


Panasonic NV-FS90

さて、今回は松下FSシリーズ二桁機の最高峰である、NV-FS90を修理します。さすがにバブル時代の最高峰民生機だけあって、作りに大変お金がかかっています。重量級のサイドパネル、本物のインシュレーター、二重構造の底板、アモルファスプロヘッド、ジョグシャトルなどなど、当時の技術が惜しげなく投入されています。

この機体は販売当時18万円ほどの定価が付いていました。当時は私に到底買える代物ではなかったのですが、今時のジャンクならお小遣い程度で買えます(笑)。この機体は某オークションで4000円で入手しました。

当然ジャンクなので壊れていました。電源を入れると、モーターがうなりを上げてしばらく悶えた後、電源が切れてしまいます。テープの挿入も引っかかってできません。こういうメカの異常は分かりやすくて直しやすいことが多いです。早速解剖して調べてみます。

解剖図(表)

FS二桁機はどれも似たような構造です。基本的にメカは同じですから。

解剖図(裏)

メカ裏側です。動作中のメカの動きを観察します。どうもこの大きいプーリーを回そうとモーターが頑張っているようですが、何かが引っかかって動かせないようです。このプーリーにはクラッチ機構(メカの破壊を防ぐためにある程度の負荷がかかると滑るようになっている)が付いていて、それが働いてしまっていました。

ちなみに、「押す」、「回す」と書いてあるように操作すると、このメカのモードを切り替えられます。テープイジェクト状態、挿入状態、ハーフローディング、フルローディングなどの状態を手で回すことによっていじれますので、ある程度のメカの整合性を調査するために使います。

今回は、テープ挿入が出来ないということで、カセコンの位相がずれている可能性があります。このメカはカセットの挿入取り出しのために、キャプスタンモーターを使っているため、カセット挿入機構が正常でないとテープ走行などの動作との整合性が取れずに、全く動かなくなるからです。

まずはカセコンを解放して動作の整合性を検証してみます。

その、カセコンに動力を伝えているギヤ。この噛み合わせが悪いと全てのメカ動作が不能になることがあります。

カセコンを解放するために、顔を取ります。シーリングパネルを空けた状態で、中央上の赤いネジ一本を外して、ツメを折らないように持ち上げつつ取り外せばOKです。顔を外したついでにFL管の汚れも掃除しておきます。古いジャンクだとたいていススが付いていますのでアルコールで洗浄。取り外した顔の方も同様にクリーニング。これでかなり表示が生き返ります。ジャンクの整備には必須のクリーニングですね。

騙しゾーン

カセコンは4本の赤い小さめのネジで固定されています。手前の二本はイジェクト状態ではカセコンの金具に隠れています。従って、カセコンを取り出すために、メカをテープを挿入された状態にします。そうしないと手前のネジが外れません。

挿入状態にするために、先ほどの「押す」「回す」の動作をすればOKです。

その際、「騙しゾーン」に注意します。テープを挿入しないでメカを挿入状態にしようとすると、騙しゾーンに引っかかってそれ以上進めなくなります。左右二カ所にありますので手で引っかかりを解除しながらメカをテープ挿入状態に持っていきます。

カセコンを取り出す前にこのコネクタを外しておきます。誤って切断してしまうと後が面倒なので。

このコネクタはテープ挿入を検知するセンサーと、テープエンドのセンサーに繋がっています。

カセコンを取り出す

ネジ4本外して、ようやく取り出せました。赤丸で囲ったところが、本体側のギヤと接しているところ。

このギヤの付いたプレートは「サイドプレート(R)」という名称ですが、テープ挿入を検知するセンサーが取り付けられています。接点式のようなので経年劣化があり、ここが壊れるとテープを挿入してもすぐ吐き出される等のトラブルの原因となることがあります。

ちなみにそういう場合は部品番号「VXA4076」で注文して交換します。値段は1000円。

品番 VXA4076
品名 サイドプレート(R)
価格 1000円

(※今回は交換せず)

メカとご対面。やはり当時の松下メカは素晴らしいです。アルミダイキャストの重厚なメカベース。このベースには基本的に寿命が無いと思います。鉄板プレスメカだとどうしてもプラスチックパーツにひび割れが生じますが、このメカならまったくそういう心配がありません。

消耗品をチェックしてみましたが、なんとブレーキ、ピンチローラーなどどれも新品同様でした。おそらく前のオーナーがメンテに出して交換したものでしょう。

とりあえず走行系のクリーニングとグリスアップだけしておきました。

この状態で、メカの整合性を調べてみましたが全く問題ないようです。単にカセコンの位相がずれていただけかも知れません。

この「インテリジェントターボメカ」は非常に整合性が取れた良いメカですが、その反面、ちょっとでもメカ位相がずれるとまともに動作しません。修理中に特にずらしてしまうことがあるのがここ。

ピンチローラーを上下させているカムとその下のモードスイッチです。これはイジェクト状態の写真です。万が一ずらしてしまった場合は、この写真の位置に調整すればOK。ギヤに小さな穴が空いており、その位置を合わせます。

特にこのメカでは、ずれていませんでした。

カセコンの固定

以上の調査で、カセコンを外した状態での動作が正常っぽいことが判ったので、カセコンを元に戻します。私は戻すときにはまず、本体側をテープ挿入状態(の微妙に手前)のモードにしています。イジェクト位置ではギヤに遊びが多いため、うまく調節することが難しいと思います。

メカを挿入状態(の微妙に手前)の位置にしたら、カセコンをテープ挿入状態にして本体に押し込みます。ギヤがうまくかみ合わないのなら、本体側で微妙に調整して押し込みます。押し込んだらプーリーを回してみて、カセット挿入が底まで行われているか、挿入とほぼ同時にハーフローディングアームが動き出すか、等を観察します。カセット挿入が浅かったり、途中で引っかかるようならギヤの位相がずれています。

こうして固定したところ、全く問題なく動くようになってしまいました。ということは、単に位相がずれていただけの故障だったようです。消耗品も交換されており、パーツの交換は全く不要で、調整のみで動いてしまいました。これは儲けもの。一体前のオーナーはどうやってギヤ位相をずらしたのでしょうか。普通に使ってこうなるとはとても思えません。もしかすると何らかの原因でテープを詰まらせて、ネジで空けて取り出した後、元に戻せなくなったのかも知れません。


ちなみに最高峰機種だけあって、入出力端子は下位機種より豊富です。この当時の松下機で、S入力端子が背面に付いているものはこのモデルだけです。

当然、音声用端子は金メッキです。

ついでによく壊れることで評判の、ハイブリッドICを調べておきます。FS65の時と同じですが、Y/C PACK という基板に取り付けられています。この基板は一度外した跡がありました。もしやと思ってしらべたらやはり、過去に交換されています(赤丸のところ)。ますますラッキーです。

今回はメンテの入った程度の良いジャンクで得をしました。ただ、タバコありの環境だったらしく、内部からヤニの臭いがするのがイヤではありますが…。私は非喫煙者なのでタバコの臭いには敏感なのです。

後日ジャンクで入手したリモコン。

ジョグシャトルの動きがシブかったですが、分解してCRC556を注して復活しました。汚れも激しかったので、完全にバラしてゴムを水洗い&接点をアルコール洗浄しておきました。


総評

今回は入手費用4000円のみ追加費用無しで完全に直ってしまいました。これでしばらく使えそうです。絵も音も十分綺麗で実用的に使えます。

ただし、この後さらに状態の良いジャンクが手に入り、この機体はお蔵入りとなってしまいました。ちょっと勿体ないですが、まぁコレクションみたいなものですから良しとします。


2001.01.20 追記

しばらくして動作確認してみたのですが、なんと、電源投入時の再生画像にチラチラするノイズが盛大に発生することが判明してしまいました。コンセントにしばらく繋いで再生を続けるとだんだん大人しくなり、10分程度で消えるのですが、コンセントからプラグを抜いて30分ほど放置するとまた同様に発生するのです。

さて、このFS90にはいつものS-VHS機能に関するHICの他にもう一つHICが搭載されています。このケミコンが未対策であったため、まずここを対処することにしました。

第二のHIC補修

これがその問題のHIC。

ご丁寧に噴きそうな表面実装のケミコンが2つ載っております。

ということで、サブ基板を取り外します。この基板は半田付けされていないので比較的簡単に外せます。ケーブルを断線しないように注意します。

HIC拡大図。表面実装のケミコンは、47μと22μが使用されています。

端子は写真の通り既に腐食し始めていました。基板が死ぬ前に対策するのが吉でしょう。

っつーことで、張り替えておきました。周辺との干渉と手持ちのケミコンのサイズを考えてちょっと変な形で付いていますが、まぁいいでしょう。

で、動作確認しましたがノイズは消えず。どうやら原因は他にあるようです。

スイッチング電源の調査

チラチラノイズで怪しいのが電源だという教訓が東芝A-E50修理で得られていますので、今回のノイズの原因が電源であることも考えられます。

そこでスイッチング電源のケミコンを外して調べてみることにしました。

ちなみに全てのケミコンを外すためには、この写真上方にあるヒートシンクと接着された大きいICを外す必要があります。

ケミコンを外してみるとかなりの高頻度で噴いていました。

10μや100μといった比較的小容量のものは陰極側に足の腐食が見られています。

容量の大きい物も一部噴いており、最も酷かったのが、このC19とC20のパターンにあるコンデンサ。外見からは噴いていることが判りません。確認するためには基板から外す必要があります。

ご覧のように基板には漏れた電解液が付着しています。

これがC19&C20です。1200μ の25V。ブルーメタリックで一見高級そうなのですが、案外タコでした。

電解液を噴いてヌレヌレです。電解液でパターンをショートさせると発煙する可能性もありますので早急に対策しておく必要があると思います。

こっちはトランス電源(音声専用)

これが音声専用のトランス電源です。本体後ろに突き出した物体の中はこうなっているのです。スイッチング電源の前方にはこのように音響用の電源基板が組み込まれています。この基板には音響用コンデンサが採用されており、実はものすごく贅沢な構成なのです。

音声には今のところ不具合はありませんでしたが、せっかくなので一応こっちのケミコンも調べることにしておきました。

素晴らしいことに電源からして既にLとRが分離されているのです。なんて贅沢な設計なんだ。

しかし、なぜか方チャンネルの一個だけがこのブルーメタリックのケミコンでした。ここだけLR対象回路でないのがやたら謎なんですが…。

こんな余計なことするもんだからホラ、噴いてるじゃないですか(当てつけ)。

で、これが外したところ。

足が腐ってます…。無論、液も噴いています。

最終的にスイッチング電源のケミコンは全て新しい物に交換しました。

トランス電源のものは噴いているブルーメタリックのものだけ交換しました。

交換後ですが、見事に電源投入直後のチラチラノイズは消えました。チラチラノイズの原因はおそらく激しく噴いていたブルーメタリックのケミコンでしょう。

これにてようやく完全修復完了。めでたしめでたし。


2001.01.28追記

純正? リモコンをゲット

ようやくFS2桁機専用リモコンをゲット。FS3桁機のリモコンは頻繁に見かけるのですが、2桁機用はあまり無いようです。

FS90の純正品かどうかは定かではありませんが、形から判断するに、FS2桁機のものであるのは間違いないと思います。型番はVEQ0912。某オークションで1200円でした。早速バラして洗浄しました。この時代の物は間違いなくゴムが汚れていますからね。他人様の手垢とか付いていますし。

形はV10000用に買った物と全く同一ですが、ボタンが一部違います。V10000用にはVASS関連がありましたが、これにはありません。また、カウンタボタンがこれには付いています。

V10000は補修部品として購入したのですが、6000円以上とかなり高価。このリモコンも新品を取り寄せるとそのくらいするのでしょうねぇ。

ちなみにFS2桁機用と3桁機用のリモコンは似ていますが微妙に違います。3桁機用は少しノッポになっています。たぶん、FS900用の編集関連のキーを増設できるようにとの配慮だと思います。

また、FS2桁機用はジョグダイヤルに、チャンネルダイヤルを割り当てられるようにボタンが多いです。


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