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〜MITSUBISHI ジャンクVTR HV-V1000を修理する〜


三菱 S-VHS Hi-Fi Video HV-V1000 

 今回は当サイトとしては3台目の三菱機ジャンクを修理することにします。三菱機の中でも一際輝いていたバブル時代の名機「HV-V1000」です。松下のNV-FS900に匹敵する作り込みがされており、「どれか一つ三菱のバブルデッキを弄るならこれ!」と言うファンも多い機種のようです。某掲示板にて三菱機のオススメはこれだと言われて探していました。

 で、某オークションを監視していたのですが、少しでも動きそうな機体は結構高値が付いていました。といっても8000円前後ですが。それでも安価でのジャンク修理をモットーとしている私にはちょっと高いと思われる額であり、入手を躊躇していたのですが、丁度例のビデオを大量に出品している某氏が2台出品していたので4000円で落札してみました。ちなみに定価は20万円でした。

 ちなみにノーチェックジャンクですからまぁ当然壊れていました。今更言うまでもありませんが。ていうか、壊れてなかったら面白くないじゃん(爆)。

いきなり解剖(笑)

とりあえず火を入れる前にトップカバーを外します。異常があったらすぐ分かるようにです。もし、コンセントに繋いだ瞬間に煙が出てもこれならすぐ分かります。

最初に開けたところですが、ご覧のようにテープが中に入ってました。S-VHSの120分テープ。一本儲かりました(爆)。高々300円程度じゃないかと侮る事なかれ。本体が4000円ですから、300円回収できるだけでもかなり儲けものだったりします。テープが入ったまま捨てられたということは、メカ異常でしょうかねえ…。


電源死亡

と、思いきや、プラグをコンセントに繋いでもダンマリでした。電源が死んでいるようです。

imomushiさんのサイトでも記事がありましたが、この時代の三菱機の電源はかなりヤバいものがあるようです。

ご覧のようにコンデンサが激しく噴いていました。比較的大容量なコンデンサだけに、内容物も大量に漏れてしまったようです。

これが一番酷かったやつ。

内部での激しい化学反応の結果、このようにふくれあがっています。恐ろしい…。

ちょっと力を掛けたらポロっと取れちゃいました。足が腐っていたためです。

足の付け根にはやはり噴いて乾いた電解液の跡が…。

おそらくこういうところでショートして、パターンに大電流が流れたのでしょうねぇ。いやはや、まったく…。

電源基板を外したところ、パターンはこんな有様。黒こげの部分と、大電流が流れたために焼けて剥がれた部分が散見されます。おそらくショートしてパターンが電熱線のようになり、焼け切れたのでしょうねぇ…。これだけ激しい変化があるということは発煙くらいはしていると思います。危ねぇなぁ…。火事になったらどうするんだ。

パターン修復して使い回そうかとも一寸思ったのですが、R905の抵抗が完全に焼けており、規格の判読が不可能だし、これだけダメージを受けている基板だと、その他実装されているパーツが死んでいる可能性も高いため、思い切って電源基板を丸ごと交換することにしました。お値段が高いのが難点ですが…。


基板のチェック

 さて、注文した電源基板が届くまでに時間が掛かるので、待ってる間その他の部分を完全に整備してしまいます。

まずは顔を取って基板を解放出来る状態にしました。この時代の三菱Sデッキには松下同様ハイブリッドICが使用されており、その上に実装されているコンデンサが良く噴くことで知られています。この機体は動作確認していませんが、例え大丈夫でも、どうせ近い内に必ず壊れるのでとっとと対処しておくことにします。

基板解放

ということで、ネジを数本外して基板をフリーにしてみました。

この機種は非常にメンテナンスがしやすいです。大きく分けて3階建ての構造なのですが、真ん中にはフレームに固定された基板、その上下には蝶番状にフレームと連結された基板があります。さらにケーブル類も長さが考えられており、コネクタを外さなくても内部基板をメンテ可能。このメンテナンス性の良さは大いに評価できると思います。

ありました

ということで内部を観察したところ、上から二枚目の基板に問題のHICがありました。

早速対処します。

HIC修復

さて、いつもの松下機ですと、一度メインの基板からHICを取り外すところなのですが、掲示板で基板から外さなくても取り替えられると教えて頂いたので、今回は手抜き作業として基板に取り付けたままコンデンサのみを交換することにしました。

ちなみに右側の白いカタマリはシリコン系?の接着剤のようなものです。上の茶色の物体に張り付いていましたので適当に剥がします。

いつものように元のケミコンを破壊して取り外し。

足をクリーニングしておきます。

普通のケミコンを乗っけて作業完了。容量は確か、4.7μだったような…。失念。

まだありました

掲示板で教えて頂いたのですが、ドラムモーターにも表面実装のケミコンがあるとのこと。探してみたところ、確かにありました。

これがイカれるとスイッチングポイントが合わなくなったりする不具合が生じるとか言う話です。

まぁ、どうせ壊れるので対処しておくのが吉でしょう。

ということでいつものように張り替えておきました。33μFの50Vだったような気がします。

新しいコンデンサは、レイアウトが悪いとメカベースに当たるので、ベースに取り付けた状態を想定してレイアウトする必要があります。私は基板に垂直に立てました。


メカの整備

さて、お約束のケミコンの対処が終わったのでお次はメカ整備です。動作検証はしていませんが、どうせこの時代のメカですからグリスが劣化しているに決まっています。F72の時と同様に全バラしてグリスを塗り直すことにします。

ちなみに消耗品は95年に一度交換されているようでした。チェックしましたが、少なくともベルトはまだ伸びていませんでした。

ツインサーボメカの解剖

メンテナンスのためにメカベースをフレームから外します。やはりアルミダイキャスト。ビデオはこれに限りますなァ。F72同様のツインサーボメカですが、細かい点で違いが散見されます。例えばこのV1000にはツインインピーダンスローラーが付いています。真鍮性のオモリが上部に付いています。

F72メカ(下位機種)との違い

V1000はジョグシャトル搭載機ですので、微妙に下位機種と違ってます。丸の中のギヤ小さいのと、ブレーキが一つ多いようです。モード切替の時に作動する物で、ジョグシャトル機には必須らしいです。

あと、矢印のところがCリングじゃなくてOリングとなっていました。まぁこれはどうでもいい違いですが。

全バラ

グリスを塗り直すために外せる物は外します。結果これだけ外しました。外し方はF72記事参照のこと。

ちなみに基板を外す前後で分類しておくと、戻すときに間違いが防げます。メカを組み立てた跡に基板を取り付け忘れに気付いたりするためです。実は、F72の時にやりました。

裏側

パーツを外してメカ裏はこんなにシンプルになっちゃいました。ここに残っているギヤ類はグリスを塗る必要が無いので外す必要はありません。

洗浄

特にグリスまみれだったこれらのパーツを台所洗浄。洗剤と歯ブラシを使って丹念に古いグリスを落としました。

このように結構綺麗になりました。

キャプスタン用のブレーキはこんな有様でした。ブレーキパッドのフェルトが外れてしまい、ボトムプレートに張り付いていました。サルベージしてボンドG17で張り直し。

三菱の消耗品系統はどうも接着剤があまり良くないようですねぇ。ずれたり、外れたりという症例が多いような気がします。

モードスイッチ洗浄

メカ裏の基板に張り付いているモードスイッチの内部を綺麗にしておきます。

半田接点5カ所を外して取り外します。このモードスイッチは分解清掃ができる構造になっています。

分解するとこうなっています。ヒゲ5本もあり、接点もかなり細かいですね。内部をCRC556で洗浄して田宮接点グリスを塗っておきました。

メカ整備完了

F72の時と同様に要所にグリスを塗りながら元通り組み付け。位相合わせ等はF72記事を参照のこと。

消耗品系統はさぼどヘタれていないようだったのでそのまま組み付けておきました。まぁメインブレーキはちょっと痩せていましたが。どうも三菱の消耗品は強度が足りないんですよねぇ。メインブレーキにしても、使わなくてもリール台に押しつけられているだけでだんだん痩せて来てしまうんですよねぇ。

カセコン組み込み時の注意

メカベースをフレームに組み込んだ後にカセコンを戻すわけですが、ツインサーボ機のカセコンは異様に組み込みにくいとあちこちで言われています。BBSで教えていただいたのですが、カセコン組み込み時はこのギヤを外した状態で行うようになっているそうです。

矢印のところがカセコンに付いているギヤ。まぁ、このやり方でも「簡単に」という訳には行かないようですが…。カセコンを組み込んだらギヤを戻しておきます。


電源基板到着

1週間ほどで電源基板が入荷。お値段ですが、5200円もします。本体が4000なのに5200円とは…。まぁ仕方ないですねぇ。

新旧比較。

新しいものは基板の色が違いますね。ケミコンくらいは噴かない新しいやつになっているんだろうな、三菱さんよ。本当はリコール扱いにして欲しいくらいなんだから。

とはいえ、ヘタに騒いでエンドユーザーにパーツを売ってくれなくなったりすると私が困るので今回は黙って買ったパーツを取り付けることにします。

焼けたパターンのところです。最初はこうなっていたようです。やっぱ、新しいのは綺麗でイイですねぇ。古いのはあちこちに噴いた電解液が付着して汚いうえに、半田コテを当てようものならすっごくイヤな臭いが漂います。

トランスは古い方を使い回すことになっていますので、外して置いた古いものを新しい電源基板に取り付けます。

パターンが太いため、やや半田が暖まりにくいのですが、30Wの半田コテでもなんとか作業可能です。

半田付けの際には十分に半田を暖めてパターンとなじませる必要があります。中途半端に半田付けしてしまうと接触不良で発煙、発火の恐れがあるからです。電源の半田付けは慎重に行って置いたほうが良いでしょうね。

それにしてもこのトランスはご立派です。重量もかなりあります。消費電力も大きいのですが、音質はトランス電源の方が良いとされてますしね。

組み込み完了!さぁ火入れだ!

本体フレームにこびりついていたホコリ、汚れを綺麗にした上で、新しい電源を組み込みました。うーん、新しいだけに綺麗です。欠陥のケミコンも一掃され、これで一安心です。

ちなみにこの時代のビデオは同様にケミコンが劣化している物が多く、電源の対策をしていないV1000オーナーの方は早急に調査しておいた方が良いと思います。火を噴いてからでは基板が死亡してしまい、手遅れです。コンデンサの劣化の段階で発見できれば、ケミコンの張り替えだけで修理可能だと思われます。費用もたぶん1000円以下(パーツ代のみ)でしょう。

丁度バブル時代に採用されていたケミコンには電解液に欠陥があり、化学反応により内容物を噴くようです。バブルの終わりと共にこの欠陥が明らかになり、その後に作られたコンデンサは改善されているそうです。


ふっかぁあぁぁぁつ!

とりあえず電源入るようになりました


スリップリング清掃

 動作確認しましたが、サーチ画像に激しいノイズが載っていました。NEサーチ搭載なのでサーチにもバーノイズが入らないはずですが、F63の時と同様にこのスリップリングの接触が悪いようです。

一応CRC556でクリーニングしてあったのですが、まだ足りないようでした。耐水ペーパーで擦って研磨しておきました。あとブラシの接触圧を調整。これで一応解決。また田宮の接点グリスですが、塗ったところ接触が逆に悪くなってしまったので、拭き取ってCRC556を軽く塗るだけにしておきました。

充実した操作体系

V1000の操作体系ですが、かなり快適です。非常に本体にボタンも多く、細かい設定が可能です。例えば、ディマー(表示管の明るさ調節)がいじれたりといった一見どうでも良さそうな設定が出来たりします。こういうところがバブル機の良いところですね。コストダウンよりも高機能の方が優先されていましたから。

また、編集機能も一通り網羅しています。特筆すべきはこのジョグシャトルの快適さ。松下機と比べてもかなり使いやすいと思います。シャトルリングも比較的軽く回り、センター位置もカチッと引っかかりが適度にあり、位置を把握しやすく、ジョグダイヤルのレスポンスも非常に良いです。加えてNEサーチですのでバーノイズが発生せず、サーチはメチャメチャ快適です。ちなみに最高速での早巻き再生の時には数本のバーノイズが入りますが、これは仕方ないようです。

端子群

前面端子群は表示管の下の蓋の中です。今時のデッキならば蓋は一枚のペラペラの樹脂製かつ端子名は浮き彫りで表示でしょうが、さすがにバブル期の高級機だけあって、きちんと蓋が2重になっており、端子の名前が白く印字されています。

背面端子もそれなりに充実。入力系統は背面1系統のようですが、まぁ時代を考えればそんなものでしょう。

どうやって使うのかよく分からないコントロール端子やエディット端子もありますね。

ちなみに音声出力のみ金メッキでした。どうせなら全部金メッキにしてくれればいいのに…。定価20万円に対して高々数百円のコストなんだからさ…。


リモコン補修

純正リモコンではありませんが、落差時に出品者の方から使えそうなリモコンを付けて貰いました。

おそらくBS搭載機のものだと思います。HV-BS1あたりがこのリモコンだったような気がしますが…。

ジャンクなので結構汚れていますね。私はこのようなジャンクリモコンは必ず分解清掃する事にしています。前オーナーの手垢とか付いてることが多いですし。

で、分解してみたところ、こんなリモコンのコンデンサでさえも噴いていました。

まさに、「リモコンよ、お前もか!」という心境。

合計2つの表面実装タイプのケミコンが使われており、どちらも噴いていましたので交換しておきました。

また、内部のゴム接点、ジョグシャトル、外装などを歯ブラシ、洗剤を使い、台所洗浄し、完全に綺麗にしておきました。


総評

やはり多くの愛好者がいる機種だけに、なかなか良く作り込まれていますね。ジョグシャトルの使い心地も良いですし、メインシステムの補完用として使おうかなぁと思い出しています。

総費用は本体4000円+電源基板5200円+コンデンサ100円程度=9300円程度というところですね。一通り弱点を潰して完全整備したつもりなのでしばらくは大丈夫でしょう。

私はこういうジャンク品を安く買って補修する方が、ヘタに無故障の完動品を高く買うよりよっぽどいいと思います。どうせ無故障の機体を入手したところで、欠陥コンデンサが使われている以上、近い内に壊れるでしょうからね。

ということで、バブル期のAV機器を入手するのなら、故障機を安くゲット→自力修復という図式が最適なわけであります。自力で直せない、あるいは直すつもりが無い人は買わない方が良いでしょうね。壊れて泣きを見ますから。メーカー修理に出すからいいんだという人も止めた方が良いです。弱点を全部潰しておかないと、また別の所が壊れて何度もメーカーに出すことになり、非常に割高になるからです。メーカー修理は基本的に「今」壊れている所しか直してくれませんからね。弱点を一通り分かっていて、修理依頼するときに細かく注文を付けるなら別ですが。でも、弱点が分かるくらいのスキルがあれば自分で直せるでしょうがね。

ところで、詰まっていたテープにはダンバイン(アニメ)のLDからの複製と思われるものが記録されていました。テープの頭には96年の日付が記録されていました(この機種は録画時に日付が記録される)のでおそらく95年に消耗品を交換して、1年くらいで電源から発煙してご臨終したものと思われます。そう考えると、消耗品がさほどヘタれていなかったのも納得です。さすがに発煙したようなデッキなので前オーナーも怖くて修理をしなかったんでしょうね。とはいえ、20万円の名機だけになかなか捨てるに捨てられず、4年間ほど押入にしまって置いたのではないでしょうか。そして最近新しいデッキを買ったのでいよいよ捨てて廃品業者に拾われた…と。こういうストーリーだと思います。内部の状態から前オーナーの苦悩が手に取るように分かるのです。面白いですねぇ。まぁ、勝手な推理ですが。


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