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〜Panasonic ジャンクVTR NV-V8000 を解剖〜


Panasonic S-VHS Hi-Fi Video NV-V8000 

S Video Master 8000

とうとうこんなデッキにまで手を出してしまいました(笑)。松下のバブル期の重厚デッキVシリーズの1つで、90年頃の作品です。Vシリーズとはいえ、このV8000とV10000しかありません。で、このV8000は定価26万円。V10000は定価41万7千円です。もうここまで来ると外観はビデオじゃないですねぇ。今回もジャンク入手ですが、レアデッキなのでお値段はチト高めの13000円でした。某オークションにてノーチェックジャンク扱いで落札。まぁ、ノーチェックとはいえ、どうせ壊れているでしょう。

松下の編集向けデッキには、「Video Master」 という名称が付けられていますが、この名前を冠したデッキは、NV-1000HD,NV-FS1000,NV-V8000,NV-V10000の4種類だけだと思います(他にもあるかな?)。今回は重厚感を強調するために(笑)写真は大きめとなっています。

ブ厚いシーリングパネルを開けるとこうなっています。カセット挿入口はやや奥まった場所に位置しています。これはVHSとVHSCの両対応とするために、挿入口下部にメカを組み込んだためです。

編集対応機だけあって、当然本体にジョグシャトル装備。操作パネルはかなり豪華です。基本操作部はほぼFS900と同一。どうやらFS900をより編集に特化させたようなモデルのようです。

シーリングパネル内部の全面端子群とFL表示管。

端子は金メッキ。FL表示は比較的シンプルです。たぶん、このモデル独自のものだと思います。

本体にも軽い編集機能が付いており、4プログラムまでのプリロールが出来るようになっています。驚くべき事に本体のみでフェードもできるらしいのですが、どうやって操作するのか判らなかったりします(誰か教えてください!)。ちなみにビデオイコライジングも搭載されています。編集機能、ビデオイコライジングを見ても、やはりFS900に近いような気がします。

パネル左側。カセットセレクトボタンがあり、テープイジェクト状態でこれを押すと、VHS/VHSCのモードが切り替わります(詳細は後述)。音声レベルメーターはLEDで表示され、分解能も結構高いです。また、TBC搭載。この時代の松下民生デッキでTBCが付いているのはこの機種とV10000だけだと思います。

背面端子群

背面端子群。

AV分離思想の設計なのでビデオ部と音声部は分かれています。このあたりもFS900に似ています。パネルの配列もFS900と同様。しかし!何故か音声端子が金メッキじゃないんですよ、これが。一体どういうことなんでしょう。FS900は金メッキだったのに! コレクターとしては、こういうところで妙なコストダウンはしないで欲しいです。せっかくの高級感が台無しです。26万円のデッキでせいぜい数百円のコストダウンが意味のあるものでしょうか。

ちなみにゴーストリダクションチューナー対応のようで、ソレ用の端子が付いています。とりあえず使う予定は無さそうですが。また編集5p端子装備なので、コントローラ接続すればフレーム単位の編集に対応。このメカならさすがにフレームの精度で編集できるようです。


調査開始

さて、早速中を拝見。このデッキは横幅が結構あるのです。なぜなら、カセコンがかなり横幅を取っているから。やはりVHS/VHSC両対応にしたためにカセコンの構造がかなり複雑です。そのために本体の横幅も広くなってしまっています。ちなみにサイドパネルは前面から見ると、一見きちんと厚みのあるもののように見えますが、実は見せかけだけのペラペラなプラスチックになっています。本来サイドパネルの付くスペースにまで本体の基板がセリ出しているためです。これ以上の横幅の拡大を防ぐためにやむなくサイドパネルの幅を削ったものと思われます。またトップカバーもFS900とは異なり、単なる一枚構造で、たたくとバムバムと音がします。

基板は映像、音声共に、FS900にソックリです。っていうか、たぶん同じ物だと思います。まぁ、マイナーな違いはあるかも知れませんが。

このデッキは、4つのD.Dモーターを含む6モーター設計のようです。

今まで見てきたGメカとは全く異なる設計で、リール台に独立したモーターが使われています。キャプスタンモーターもキャプスタンを回すことだけに専念し、モード切替はソレ用のモーターが装備されていました。

このモーターですが、ここにもしっかりとコックドベルトが使われています。さすが松下です。

ちなみに上位機種のV10000はなぜかここがゴムベルトなのですよね。この点が「唯一」V8000がV10000に勝っているところですかね。そのほかではとても太刀打ちできないでしょうが。

電源部ですが、やはりスイッチング電源とトランス電源のダブル構成です。トランス電源は音声専用。しかも、クーリングファンまで付いています。このファンはキッチリと制御されており、フルローディングしているときだけファンが回るようになっています。


S-VHS / S-VHS[C] コンパチ機能

通常モード。普通の挿入口です。

ここで、カセットセレクトボタンを押すと…

ブーブーとローディングモーターが忙しそうに回り、挿入窓が開いて、下からこんなパネルがせり上がってきます。

これでVHSCモードになりました。窓を押しても中央左よりの窓しか開きません。

こんな感じでカセットを挿入。

それにしてもよく作ったものです。発想としては面白いのですが、ここまでコストと手間暇かけて設計するほどのメリットがある機構かと言われると…。せいぜい、カセットアダプターを使わなくて済むというメリットくらいしかないですからねぇ。カセットアダプタのコスト数千円と引き替えの対価が非常に大きいような気がします。まぁ、面白いので許す(偉そう)。なんとなく、技術者が「やってみたかった」的な設計だったのでは?

通常モードのローディングポストの位置。

VHSCモードのローディングポストの位置。

幅が狭くなっています。テープエンドセンサーも飛び出してきています。

通常モードのハーフローディング状態。

VHSCモードのハーフローディング状態。

テープがかなり長く引き出されています。


裏側の調査

メカを観察するためにボトムプレートを外しました。それにしても、このボトムプレート、ヤケにペラペラです。FS900を見習った設計なら鉄板張り合わせの多層構造で作って欲しかったですよ、まったく。インシュレーターはFS900同等品のようなのでこれは許す(偉そう)。

底面にはおそらくシスコン系と思われる大きめの基板と、右側にシールドされたお弁当箱がありました。おそらくシールドケースにはデジタル系(TBC)の回路が入っていると思われます。

底面左側のサブ基板と、右側のシールドケースの中です。

左側の基板にはなにやらイヤな思い出のあるケミコンが載っています。FS70で噴いていた空色のコンデンサです。将来噴くかも知れません。要チェック。

シールドケース内部には日立の石が2つ使われています。たぶん、TBC関連だと思うのですが、詳しいことは判りません。

裏側の大きい基板ですが、内側はこうなっています。なぜかこのようにやたらとジャンパ線が多い基板です。あまり基板の設計を煮詰めないで造ってしまったような印象。この美しくない基板は松下らしくないですねぇ。

ジャンパ線の数々は中央に集めてシリコン系樹脂で固めてありました。まるで蜘蛛の足のようです。

この機種の特徴であるメカです。

やはり独自設計のようです。今まで見てきた松下メカと全然違います。リール台はD.Dモーターが使われ、早巻きなどが異様に静か。ブレーキも物理的なものでないようで、電磁式だと思います。とても静かです。

ヘッド下部にはこのような円形のギヤが付いており、ローディングポストなどを駆動しています。

メカ全体の動きですが、フルローディングとハーフローディングを使い分ける仕様になっており、再生と早巻きを繰り返すサーチではいちいちモード切替が入るのでややストレスです。その際、内部からローディングモーターの音がブーブー言います。早巻き速度は普通のGメカよりは速いですが、新快速メカよりは遅いです。しかし、D.Dモーターを使っているだけあって、特殊再生時の安定度は圧倒的に優れています。モード切替が高速で、その際も絵の乱れがかなり少ない。また、早巻きの騒音も異様に静か。本当に高速で巻いているのか疑いたくなるほどです。

総合的に見ると、安定度は新快速メカより上だが、通常の使い勝手においては、新快速メカの方が使いやすいような気がします。早巻き再生も、FS900同様にボタンをホールドしておかないと通常再生に戻ってしまうのが使いにくいです。BS900以降は一度押すだけでホールドされるように変更になったのですが。


故障個所

品番 VXL2020
品名 ピンチローラアーム
価格 600円
品番 VCR0299A
品名 IC
価格 4600円
品番 VXA4191
品名 ゴショウキョボウシSW
価格 300円

さて、この機体はジャンク入手ですから当然壊れていました。具体的にはテープ走行せず+希に走行した時も映像乱れるというもの。いつもの私なら自力修復をするところなのですが、この機体はレアデッキかつかなりの名機っぽいのできちんと調整して使いたいと思ったのでメーカー依頼しました。上限金額は太っ腹の4万までと設定。

帰ってきた機体ではこれらのパーツが交換されていました。 ピンチローラはこの機種専用みたいです。それにしても、VCR0299A、どこかで聴いた型番ですね…。ちなみに走行系はピンチローラー以外特にパーツ交換されていません。リール台が回らなかったのは固着の類だったのかも知れません。

ということで、交換ポイントを調べてみます。これが映像ブロックの基板。やはりFS900と同じです。

FS900と同じなので、例の松下デッキ史上最も良く噴くと思うHICもしっかり載っていました…。しかも、これって過去に交換されていません。ぐはぁ…。天下のメーカー修理でもさすがに壊れていない場所の予防まではしてくれないようで…。今は噴いていないようですが、これって将来絶対壊れるじゃん…。

で、今回交換されたHICはここ。奥まった場所にシールドケースに入っています。FS900とまったく同じです。このICって外すのがやたら面倒だったりします。まぁ、半田吸い取り器さえあれば可能ですが。


総評

全体の造りを見る限り、このV8000はどうもFS900をいろいろと改良したような印象です。映像、音声関連の回路はほぼ同等。メカとシスコンは独自設計でFS900より高速、かつ高精度になっています。ただ、細かい点でコストダウンの傾向(トップカバー、端子のメッキ、ペラペラのサイドパネル)が散見され、なんとなく中途半端な作り込みです。メカが高速化されているとはいえ、その後に出た新快速メカと比べてしまうと特に優れている操作性とも思えませんし。

して、肝心の絵の方ですが、さすがに綺麗です。FS900と同等くらいですね。とはいえ、逸般の方々にはFS900の絵でもまるでダメという意見もあるようです。でも松下バブルデッキの中ではFS900の絵はピカイチだと思います。ただ、このデッキ、SーVHS3倍で反転ノイズが出てるんですよねぇ。もしかしてヘッド摩耗の初期症状かも知れません。まぁ、摩耗したら交換すればいいだけのことですが…。

それと、今回は初めて松下テクニカルサービスで修理完了したわけですが、まぁきちんと動くように修理してくれたのですが、壊れやすいHICがまだ残っているのが、なんだかなぁというところ。確かに頼まれてもいない予防策を講じる義務はないのですがね。これは賛否両論ありそうですが、一応修理費用上限を4万円としているのだから、その範囲内で出来る最善の処置と考えれば、交換しておくのが親切かなと思ったりもできるわけで。まぁ、私の場合、これが壊れてもコンデンサ張り替えて自力修理してしまうでしょうけどね。

ということで、入手費用13000円+修理代金15330円=28330円でした。


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