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MSX実機を使い続ける上で避けて通れないのがFDDの故障に対する対応。MSXではベルトドライブのFDDが使われていることが多いが、ゴムベルトは経年により劣化するため、どうしても数年に一度のベルト交換が必要になる。パナA1シリーズはすべてベルト駆動のFDDが使われており、先日まで松下のサービスセンター経由で純正ベルトの取り寄せが出来たらしいのだが、在庫が尽きたようで2014年8月現在取り扱いが終了している。 代用品として千石電商で売っているヒラベルトが使えたりもするのだが、数年に1度交換するのも面倒な話だし、ターボRのFDDは非純正ベルトとの相性が悪いという話もある。そこで、手持ちのYE-DATA社製のYD-702Bに換装できるように準備しておくことにした。 なお、MSXのFDDは仕様がいくつかあるが、今回の記事の対応機種は松下のFS-A1FX/WX/WSXと、FS-A1ST/GTのみとなる。 |
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まず、元々内蔵されているFDDだが、左がST内蔵、右がFX内蔵のもの。STのドライブは10年以上前に壊れており、本体は既に換装済み。今回改めて引っ張り出して、溶けたベルトをIPA(ガソリン水抜き剤)で拭き取り、電解コンデンサを交換し、ベルトを新しいものに付け替えたのだが、やはりまともに動かなかった。 右のA1FX用のものははにはに氏からの頂き物だが、ベルト交換済みで現在のところ動作不具合なし。両機のドライブの形状、機構は同じようだが、回路構成が異なっていることが分かる。FXではアクセスLEDが実装されているが、STでは省略されてたり、トラッキングモーターのコネクタが異なっていたりと微妙な違いもある。 24pのスミカード(フレキ)コネクタの信号は一応両機で互換性があるのだが、FX(MSX2+)内蔵ドライブは24pにDISKCHANGE信号が出ていないので要注意。よって、このFDDをターボR(DISKCHANGE信号対応)に入れると、FD交換をチェックしているソフトで不具合が発生する。例えばディスクキャッシュソフトのLUNAでディレクトリキャッシュを有効にするとFD交換ができなくなる(LUNAに限ればキャッシュを無効化するオプションで回避は可能)。2ドライブシミュレータを含めて、通常の読み書きやゲームは(多分)できるので、割り切って使うのであれば問題ないと思う。 |
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ST内蔵ドライブの型番はEME213MU。モータードライバICはTA7774Fで、今でも普通に売っているごく一般的なもの。トラッキングモーターのケーブルがフラットケーブルとなっており、コネクタはCN3。 このドライブは壊れており、変換基板自作のために24pスミカードコネクタを剥ぎ取っている。 |
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FX内蔵のドライブの型番はEME-213Mとなっており、ST内蔵のEME213MUとバージョン違いのような扱いか。モータードライバICは同じTA7774F。トラッキングモーター用のコネクタがCN3で、STのものとは異なっているため、そのまま基板スワップはできない模様。 手配線してEME213MUの基板と入れ替えればDISKCHANGE信号対応ドライブになるのかも知れないが、そこまでやるくらいなら換装したほうがマシかも。 |
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さて、今回使うのは大昔に秋葉原で買ったYE-DATA社製の3モードドライブYD-702B。この型番のFDDはリビジョンが複数あり、今回のはYD-702B 6036B D。これは独立した電源コネクタがなく、電源が34pに含まれているもの。FMTOWNSの換装でも使えるドライブらしい。 一般のAT互換機のドライブはREADY信号を出せないが、このFDDはジャンパーピン設定で34pにREADY信号を出せるため、MSXのFDD換装に適している。なお、2014年現在も電源コネクタが独立しているリビジョンYD-702B 6036B Cがヤフオクや通販ショップで入手可能。 |
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買った時点でジャンパー設定はこうなっていた。右列上から、RY DC 3 2 1 0とシルク印刷されている。RYをショートすると、READY信号を34pに出力、DCショートで、DISKCHANGE出力になるが、どちらか一方を選択する。その下0〜3はドライブセレクト信号の何番を有効にするかを選択するもの。 左一列はデータシートが見つからず、どういう設定ができるのか良く分からなかったが、とりあえずこの状態で動く模様。シルク印刷によると、上から MD M2 M1 P2 P1 TD TM と読み取れる。 |
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15年以上前に秋葉原の「たんせい」店舗で売られてた変換基板を接続したところ。当時FDDが壊れたA1STのために新品のYD-702Bとセットで買ったものだったと思う。スミカードコネクタが上を向いているため微妙に使いにくい。解析のためにコネクタ着脱しているうちにスミカード(フレキケーブル)をダメにしてしまい、お蔵入りとなっていた。結局STはすだれケーブルを手配線して修理した。 |
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パターン面がこちら。FDD側は信号名がシルク印刷されているので分かりやすい。ピンアサイン表の配列は変換基板のパターン面に合わせ、信号名はFDDのシルク印刷の表記に従った。 赤いワイヤーは、FDDから直接DC(DISKCHANGE)信号をMSX側24pに繋いでいるもの。ジャンパーピンの設定では、FDDの34pはREADYとDISKCHANGEのどちらかしか出力できないが、信号自体はどちらも存在しているので、ジャンパー線を飛ばせばOK(取り出しポイントは後述)。黄色いワイヤーは変換基板であらかじめ配線されていたもので、FDDに+5V電源供給している。白いジュンフロン線は解析中に剥がしたパターンを修復したもの。 なお、変換基板にジャンパー設定のパターンがあるが、これはDS(DRIVESELECT)信号をFDDのDS0とDS1のどちらに繋ぐかを選択するもの。FDDジャンパーピンの設定に従い、DS0に接続する。 |
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先ほど赤いワイヤーで、MSX側24pと接続していたDS(DISKCHANGE)信号の取り出しポイントはこちら(ワイヤーの色が違うけど)。右側の半田でブリッジしてる側がコネクタの34pに繋がっており、READY信号とDISKCHANGE信号は左側に来ている。 なお、前述のとおりMSX2+のA1-FX/WX/WSXでは本体側がDISKCHANGE信号に対応していないため、この処理は不要。ターボRのFDD換装時のみ必要となる。 |
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変換基板ポン付けでもとりあえず使えるのだが、2HDディスクを使用すると、FDDが2HDモードになってしまい、2HD非対応のMSXではアクセスができなくなる。FDの2HD識別孔をテープなどで塞げば回避できるが、それも面倒なのでドライブ側で2HDモードは封印しておいた方が良いと思う。 このドライブでは画像右上にセンサー用のスイッチが付いていた。2HDでショート、2DDでオープンになるスイッチだったので、取り外して2DD専用とした。 |
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たんせいの変換基板は今ではもう手に入らないので、予備として手配線で変換基板を作成してみた。材料はサンハヤトのDサブ25p変換基板ICB-08と、壊れたFDDから剥ぎ取った24pスミカードコネクタと、40pL型ピンソケット。変換基板は千石電商、ピンソケットは秋月電子で取り扱いあり(2014年現在)。40pソケットはそのままでも使用は可能だが、誤挿入の危険があるため切断して34pにしている。 接続は前述のたんせい変換基板と同じ。ワイヤー15本の手配線で、小一時間もあれば作成可能だと思う。将来AT互換機ドライブへ換装する場合も、多少の手直しで使いまわしが利く。 |
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FDDから剥ぎ取ったスミカードコネクタだが、Dサブ25pとは微妙にピッチが異なるため、画像のように足を少しずつ外側に広げる必要がある。若干の無理はあるが許容範囲だろう。 |
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YD-702Bはほとんど元のFDDと同じ大きさだが、マウンタ金具のボスが1箇所だけ干渉するため、この部分の加工を要する。ラジオペンチで出っ張りを元に戻すような感じで押し込んだ。画像右の黒く塗装された金具はFDDと干渉するので取り外す。 |
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加工後の画像がこちら。ラジオペンチだとこの程度が限界。ベンチバイスで挟めば完全に平坦にできるかも。なお、右に見えるワッシャーはFDDを底上げするために必要な部品で、分解のときについ紛失しがちだが、これがないとガワとドライブの高さがずれてディスクを取り出す際にひっかかるようになる。設計不良という説もある。 |
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自作基板で予備ドライブをA1FXに入れてみた。変換基板が若干ドライブからはみ出しているが、切断しなくても特に問題はないようだ。この状態で正常に使用可能であった。これでFDDが壊れても安心。 |
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YD-702Bの場合、イジェクトボタンの位置、縦横サイズともにオリジナルとほとんど変わらないので、特に外装は加工しなくても問題はないが、ボタンの長さが違うので、はみ出しが大きくなる。画像上がディスク未挿入時で、下が挿入時。色も違うので違和感はあるが、これは致し方ないだろう。可動部品なので塗装しても剥げてしまうだろうし。 |
2014.12.24追記
YD-702B 6036B C YD-702Bの電源ピンが独立している末尾がCのリビジョンを入手した。国内でFDDを作っていた時代の古い製品だと思われるが、新品未使用とのことで中身も綺麗。
2DD専用らしい モーターはダイレクトドライブで、おおむねYD-702B 6036B D(以後末尾D)と同じだが、使われている基板は異なる。
右上にあるはずの2HD識別センサーは基板にパターンがあるものの非実装となっている。仕様としては2DD専用のようだ。センサーを取り付ければ2HD対応になるかどうかは不明。
基板 34Pコネクタのピンアサインは一般にMSX用として使われているドライブと互換。2DD専用なので2pのMODは未使用だろうが、2HDセンサーを取り付けると意味のある信号が出てくるのかも。4pのINUは何の役割があるのか不明。
なお、2本の緑色のジャンパー線は最初から取り付けられていたが、接続されているジャンパーピンの意味がわからないので役割は不明。
ジャンパー設定 末尾Dとは異なり、電源ピンが独立している。通常のAT互換機で使われているコネクタが使えるが、電源電圧は5V単一なので12Vの供給は不要。
ジャンパーピンも末尾Dとは微妙に異なるが、34pがREADYとDISKCHANGEが選択式になっているのは同じ。MSXで使う場合、RYと0をショートし、それ以外はオープンにする。
左一列のジャンパーピンの意味は不明。デフォルトだと下2つがショートになっていた。
JP10抵抗→JP11に移動
デフォルトで電源は独立コネクタから供給する仕様になっていて、34Pコネクタの7,9,11pはGNDに接続されている。
解析したところ末尾Dと同様に34Pコネクタから電源を供給する仕組みがあり、ジャンパーの0オーム抵抗を1個移動すればよいことが分かった。
具体的に弄るのはJP10,JP11であり、元々JP10がショート(上画像)されているが、これをオープンにしてJP11をショート(下画像)すればよい。
作業は半田ごて二刀流にて、チップ抵抗両端をを挟んでスライドさせると簡単。
イジェクトボタン パナMSX実機に組み込む場合は、ベゼルを取り外す必要があるが、ネジで固定されており、トップカバーを外さないとネジが取り外せない。挿入口のホコリ除けの蓋(シャッター)はベゼルと一体化しているため、残念ながらオミットせざるを得ない。
イジェクトボタンの位置はパナMSX2+以降のガワと互換性があるため加工は不要だが、ベゼルが無い状態だとボタンを上にスライドさせるとすぐに外れてしまうので組み込み時に紛失しないように注意が必要。組み込んでしまえば外れたりはしない。イジェクトボタンの出っ張りはちょうど良い具合。
動作音は大変静かで、ディスクの回転音はほとんど気にならないレベル、元のベルトドライブはモーターの唸り音がするが、それより静かだと思う。トラッキング音もかなり静かなほうだと感じるが、個体差があるかも知れないし、あくまでも個人的な感想であるとお断りしておく。
DISKCHANGE信号(ターボR用) ターボRで使う場合は、DISKCHANE信号を処理しなければならないが、末尾Dと同様にジャンパーピンから取り出せる。画像の黄色いワイヤーを繋いだところが取り出しポイント。回路上は、ジャンパーピンを経由したREADY/DISKCHANGE信号がバッファーLS07を介して34pに接続されているが、バッファーを中継しない信号をダイレクトにDISKCHANGE信号としてターボRに接続しても正しく機能した。厳密には信号レベルが適切かどうかを測定したほうが良いが、面倒…。
ちなみに電源ピンを改造したので、それを明確にするために元々付いていた独立電源コネクタは取り外した。もし間違って独立電源タイプの機体に接続してしまうと5VとGNDがショートしてしまう恐れがあるので。10年後の自分が改造したことを忘れている可能性は考えておいたほうが良い。
YD-646E 1542E E ついでに、れふてぃさんからの頂き物のYD-646E 1542E Eで動作検証してみた。中古ドライブのようだが、ホコリが少なく使用感が薄い極上品。
ブラックべセル 末尾Cと同様の蓋一体型のベゼルが取り付けられていたが、こちらはブラックベゼル。黒い筐体のMSXとの親和性が高そうな気がするが、パナ実機に組み込む場合はやはりベゼルはオミットせざるを得ない。ベゼルの固定もネジなので無理に外そうとして壊さないように注意。
2DD専用らしい ダイレクトドライブでベルト交換の心配は要らないが、電解コンデンサが見えるだけで6個も使われているので、これらは交換が必要かも知れない。
2HDセンサーはパターンも存在せず、2DD専用に設計されていると思われる。
ジャンパー設定 ジャンパーピンは1列しかなく、ピンヘッダが実装されているのも下2つだけ。ドライブセレクト信号の何番を有効にするかを決定するものだが、通常MSXで使う場合はDS0をショートしておく。
+5V電源は34Pコネクタに含まれており(7,9,11p)、独立電源コネクタはパターンのみで非実装となっている。
ピン配列 ピンアサインは一般のMSX用ドライブと互換性あり。34pはREADY信号に固定されており、DISKCHANGE信号は2pに出力されているようなのでターボRで使う場合もここから信号を取り出せばOKだと思われる(未検証)。
動作音は末尾Cと同様に大変静か。今となっては入手が難しいと思われるが、MSXの換装用には適しているので入手できたらラッキーだろう。
総評 松下MSX2+以降の機種限定だが、2014年現在手に入るFDDで換装をするなら、YD-702B(末尾C)と変換基板の組み合わせが最適解ではないかと思う。FDDは世界的に生産が終わっているらしいので、いずれ新品では手に入りにくくなるだろう。中でもREADY信号を吐けるドライブは希少と思われるが、これが入手ができなくなればAT互換機用のドライブを流用するしかなくなる。
AT互換機用のFDDはタマ数が多いので、当面入手で困ることはないと思うが、問題はREADY信号と、イジェクトボタンの位置や大きさ。READY信号は以前にFS-FD1Aの換装でやったように、FD挿入検知スイッチで代用できるとしても、イジェクトボタンが合わないと、MSX本体に組み込む際に筐体の加工が必要になって面倒な上に外観が変わってしまうという問題がある。筐体無加工で使えるFDDのデータベースでも誰か作ってくれれば良いのだが…。
なお、「あんまんがのおうち-S」のblog主の方がAT互換機用ドライブを筐体加工して組み込んでいるので興味のある方は調べてみると良いだろう(2008年11月12日の記事)。位置決めにはかなり神経を使うと思うが、ベゼル色を筐体に合わせればあまり違和感なく仕上がるような気がする。
ちなみに、今回製作した変換基板と同じようなものが、改造FDDとセットでヤフオクに出品されていることがある(2014年現在)。画像で見る限り、基板業者発注で製作したもののようだ。材料の調達や、製作の手間を考えたらリーズナブルなお値段で出ていると思うので、内蔵FDDが壊れて困っている人は狙ってみると良いと思う。
2015.5.1追記BBSで試運転さんという方から、FDDのREADY信号についての情報を頂戴した。試運転さんによると、FDDがREADY信号に対応していなくても、コントロールチップがREADY信号(もどき)を出力しているものがあり、そこから信号を引き出すことでREADY信号対応FDDとして使えるらしい。試運転さんのサイトではPC-98シリーズでの実例が紹介されているので、FDDの入手で困ったら調べてみると良いだろう。
参考リンク:試運転の資料館
copyright (C) 2014 Niga.