にがMSX

〜FS-A1mk2の電源入力を単一化する〜


Panasonic MSX2

FS-A1 mk2

 松下FS-A1(初代)やFS-A1Mk2はFDDのない軽量コンパクトなMSX2だが、ACアダプタが専用品であり、これが付属していないオークションの出品物を目にすることが多い。

 本体側の電源コネクタは特殊な3pで、DC9Vの他にAC18Vを要求するため代用品になるようなアダプタはおそらく存在しない(コネクタの形状互換品はあっても電圧が違ったりする)。オークションでもACアダプタが付いているものと付いていないものでは落札価格に大きな開きがある。

 ACアダプタの無い機体は、部品取り機や予備機くらいにしかならないが、本体の電源を汎用化することができればそれらを救済することもできるだろう。はにはに氏からアダプタのない初代A1(赤)を頂いたということもあり、今回手持ちのA1Mk2を使って電源の単一化改造をすることにした。


特殊コネクタ

 これが本体側のコネクタだが、特殊な形状の3pでパーツショップにも売っていないタイプ。稀にこのコネクタが採用された他社製ACアダプタもあるようだが、極性や電圧が異なるものを使うとMSX本体が壊れてしまうので不用意に差し込んではならない。

巨大なACアダプタ

 専用品のACアダプタはとにかくデカくて重い。画像ではあまり大きさが伝わらないと思うが、右に並べた秋月電子のDC+9V/1.3Aのアダプタと比べると違いは歴然。今回このサイズのアダプタ1個で稼動させることを目標とした。

特殊な電圧

 専用アダプタの型番はFS-AA51。出力はDC9V 1.2AAC18V 170mAの2電源となっている。

デカくて重いのはトランスが入っているためで今時のスイッチング電源に比べると効率も悪い。

A1Mk2のメイン基板を調べると、システムのVcc(+5V)はDC9Vから降圧されて作られている。内部の大きなヒートシンクはその際に生じる熱を処理するためのもの。

AC18Vから±12Vが生成されており、12V系のパターンを追いかけると、A1mk2ではスロットに供給する以外は使われていないことが分かった。(注:初代A1では本体内部のハイブリッドICで使われている)

コネクタ交換

 電源はVcc(+5V系)のみ供給すればシステムやゲームROMは動作するだろうと思われる。大元の供給電圧を+5V,9V,12Vのどれにするか迷ったが、メイン基板のレギュレータとパワートランジスタを使って5Vを取り出す回路をそのまま生かすことにした。こうすると間違った電圧のACアダプタを接続してもすぐには壊れないというメリットもある。

 手始めに本体の電源コネクタを2.1mm標準DCジャックと交換してみた。元のコネクタとピンの配置が異なるが、センターピン側の端子はルーターでサイズを合わせて「DC」パターンに差し込んだ。GNDは丸穴から出してスズメッキ線でジャンパ。横から突き出しているピンはメイン基板に穴を開けてルーターで調整し、フレームGNDのパターンのレジストを削って半田で固定した。

この状態で先ほどの秋月9Vアダプタを使ってゲームROMを起動したところ普通に動作し、PSGの音も鳴った。スロットの12V系を使わない前提ならこれだけでも十分かも知れないが、FMPACはオペアンプが±12Vを要求するので使えない。


DC-DCコンバータ

 ±12Vはメイン基板上の回路でAC18Vの170mAから整流してレギュレータ78L12/79L12で降圧されて作られているので、それぞれ100mAあればよいらしい。とりあえずFMPACを鳴らすことを目標に±12Vを生成することにした。

 DC9Vから±12Vを作るためにはDC-DCコンバータを使うことになるが、パーツショップで探しても極性反転型のものは売られていなかったり、欲しい電圧でなかったり、やたら高価だったりする(昔よりは安くなったけど)。千石電商で扱っているコーセルSUW60512CあたりはDC4.5〜9V入力で±12V/250mA取り出せるらしいので使えそうだが、1605円もする(2015年現在)。もちろんこの他にDC9VのACアダプタも必要。

 改造にオリジナルのACアダプタの価格以上のコストをかけてしまっては本末転倒なので、ここはジャンカーらしく100円ショップ(キャンドゥ)で売られているUSB充電アダプタを改造することにした。この手法については「気の迷い」というサイトで詳しく検証されている。このサイト、他にも電池・電源にまつわるネタが満載で為になる。

 この製品は元々自動車の12V/24V電源から5Vを生成してUSB端子に給電するものだが、いくつかのバリエーションがある。私が確認したものは、いずれもスイッチングレギュレータICのMC34063(相当品)が入っていた。

改造前

 開けてみた状態がこちら。MC34063(相当品以下略)は昔はDIPのものが使われていたが、最近のものはSOPパッケージになっている。現状Step-Down回路で+5Vしか出力しないが、MC34063自体はStep-UpVoltage Invertingに対応しているので回路を組みかえればお好みの電圧を生成できる。

基板にはインダクタ(コイル)やショットキーバリアダイオードなども載っており、同じものをパーツショップで揃えたら100円では買えないだろう。非常にオトクな製品といえる。

部品を剥がしてユニバーサル基板で組み直してもよいが、基板はコンパクトで流用できるパターンも多いので、このまま改造することにした。

元の回路

MC34063のデータシートを参照すると、Step-Down回路は右回路図のような構成になっている。実際の回路と比べると抵抗値やコンデンサの容量などの違いはあるものの、同様の部品配列になっていた。

 ここで重要なのは、R1とR2の値であり、出力電圧は |Vo|=1.25(1+R2/R1) の計算式で導かれる。この回路図では1.25(1+3.6k/1.2k) =5.0 なので、5Vの出力回路ということになる。実際の回路では金被抵抗でR1=1.5k, R2=4.7Kになっていて、出力電圧は 1.25(1+4.7k/1.5k) =5.17V と、若干高めに設定されている模様。

ちなみにRscは電流制限抵抗で、回路図で0.33Ωが指定されているが、100均一アダプタでは0.40Ωが実装されていた。こんな小さな値の抵抗は普通のパーツショップには売ってないので、必要な場合は1Ωを3本並列にする。

-12Vを生成する

 -12Vを生成するためにはデータシートのVoltage Inverting回路のように組み替えることになる。元々のStep-Down回路と比べると、インダクタとショットキーダイオードの場所が入れ替わっていることが分かる。データシートによると回路によって最適なインダクタやコンデンサの値は異なり、そのまま移植すると変換効率が落ちるらしいがR1とR2の値さえ気をつければとりあえず目的の電圧は生成できる模様。

電流制限抵抗Rscは元々の0.40Ωを流用。3pに繋がっているコンデンサは発振周波数を規定するもので、基板に載っているものは容量が不明だがそのまま流用し、4pのGNDに落ちているパターンをカットして出力ピンに接続した。

カギになるR1とR2だが、元々載っていた43kΩをリサイクルして、R1=5k, R2=43kとした。精度を考えると金被抵抗を使うべきだが、多少の電圧の誤差はとりあえず気にしないことにする。

-12V回路への組み換え

 入力側の電解コンデンサはそのままにしているが、出力側は電圧が12Vなので耐圧25V、470uFに置き換えた。出力電圧がマイナスなので、+極をGND側に接続する点に注意。とはいえ出力側はMSX本体基板に実装されているので省略しても良いと思う(後述の初代A1の改造では省略した)

回路図通り、ダイオードとインダクタの配置を入れ替えている。

 回路図R1に使う5kΩは手持ちが無かったのでジャンク基板から剥がした10kΩを2個並列に繋いでいる。

また、MC34063の3pに繋がっているチップコンデンサをパターンカットでGNDから切り離し(矢印)、出力ピンとジャンパ線で接続(上の画像の)している。

この状態で、5Vや9VのACアダプタを接続してみたところ、出力電圧は-12.1Vの測定値を示した。

+12Vを生成する

 +12VStep-Up回路図を参考に同様の手法で作るが、こちらはStep-Down回路との相違点が多く、若干面倒な作業となる。基板のパターンでショートしていた1p-8pの接続をカットしないとならなかったり、7p-8pの間に抵抗を挟まなければならない。1p-8pのパターンはICの下に隠れているので一旦MC34063を基板から剥がしてパターンカットする必要がある。

また、インダクタは基板のパターンが流用できず、空中配線になる。R1とR2Inverting回路と同様にR1=5k、R2=43kでよいが、回路図上のR1とR2が入れ替わっている点に注意。

+/-12V DC-DCコンバータ完成

  左が出来上がったStep-Up回路で、右がVoltage-Inverting回路

Step-Up回路の2pはGNDなので、D1のパターンをショートしている。ショットキーダイオードは長さが足りないので延長。

 Step-Up回路MC34063の8pは基板から浮かせてチップ抵抗の100Ωを介して7p(Rsc側)に接続した。インダクタはスズメッキ線で空中配線。双方回路図でのR1とR2の値は同じだが、実装場所は入れ替わっている点に注意。

この状態のStep-Up回路に電源電圧5Vを加えて出力電圧を測定したところ、ピッタリ+12.0Vだった。


メイン基板の改造

 出来上がったDC-DCコンバータをメイン基板に実装するために、不要な部品を撤去する。

このあたりが、±12V生成に関わる部分。

 撤去後の状態がこちら。R20の上側のパターンは元々AC18Vに繋がっていたところだが、ここにACアダプタのDC9Vを接続してこのパターンからDC-DCコンバータの電源を取ることにした。GNDと±12V出力はレギュレータ跡地のパターンに接続する。

 ちなみにC18、C23は±12V出力側。これを残しているのでDC-DCコンバータ基板の出力側のコンデンサは省略できると思う。

 DC-DCコンバータはスズメッキ線で2階建てに合体し、横倒しの状態で実装した。電源入力とGNDはスズメッキ線で基板のパターンに差し込んで半田付け、±12V出力は被覆線で接続した。特にノイズ対策はしていない(問題があれば考える)。

 C17C62は元々3端子レギュレータの発振防止のためのもので出力側のコンデンサだが、DC-DC回路では特に必要としないようなので外した。撤去したのはR20,D4,D5,C16,C17,C22,C62,IC2,IC3

DC-DCの9V電源はR20から取り、GNDはC17のパターンに繋いだ。±12V出力はそれぞれIC2,IC3の出力側に接続。

電源コネクタ

 出来上がった状態のDCジャックはこんな具合。センター位置が決まっているのであまり違和感が無い。

 極性違いのアダプタを間違って使った場合の対策としてGND側にダイオードを入れておいた。

 片面基板にコネクタを直付けにすると、後々パターン剥離してトラブルの元になるとBABAXさんより助言を頂戴したので、ワイヤーで予備線を接続し、コネクタもナイロンバンドで固定しておいた。これでパターン剥離後もワイヤーが緩衝領域になって断線に至らないと思われる。

動作前チェックとしてスロットに何も挿さずに+9Vを加えて起動し、テスターでスロットの50pに-12V、48pに+12Vが正しく出力されているのを確認した。


A1(初代)の場合

  FS-A1(初代)で電源の単一化をする場合はこのあたりの不要な部品を取り外す。具体的にはD2,D3,C2,C26,IC16,IC17の6個。

なお、初代A1では±12Vを映像+音声信号処理用のハイブリッドICが必要とするため、DC9V系の供給のみでは画像も音声も出力されない

元々AC18VJ7を通ってD3カソード側に供給されている。DCジャック側でDCとACのパターンをショートしてJ7DC9Vが供給されるようにしておき、DC-DCコンバータの電源とした。

C2は-18V入力側なので+側がGNDになっているので注意。自分はDC-DCのGNDをここに繋いだ。生成した+12VIC16のO-12VIC17のOに接続すればよい。

DC-DCモジュール

  Mk2の時と同様にスズメッキ線で2階建てに連結。ピン4本を取り出してモジュール化した。手間はかかるが、たったの216円で±12V出力のDC-DCコンバータの出来上がり。

今回は出力側のコンデンサを省略してみたのでコンパクトになった。出力側コンデンサはメインボードに実装されているので問題なし(たぶん)

 部品を取り外して空いたスペースに実装。

電源コネクタ周囲もMk2と同様に加工した。


動作チェック

  スイッチング電源はノイズを発するので、テスターで電圧が出ているのを確認するだけでは実用になるかどうかは分からないが、実際にFMPACを挿して確認してみたところ、普通にFM音源が鳴るようになっていたし、映像にそれらしいノイズも乗っていなかった。ただし、A1mk2改造前から音声出力にノイズが多めで、ヘッドフォンで確認すると結構耳障りなノイズが聞こえる。画面の切り替わりでノイズも変わるので映像信号の干渉も受けていると思われるが、これはもともとそういう設計なので致し方なし。初代A1にも似たようなノイズはあるが、mk2よりは幾分マシなようだ。DC-DC改造に由来する成分もあるかも知れないが、元々のノイズが大きいので違いは良く分からないし、普通に安スピーカーで使う分には気にならない。しばらく稼動させてみたが、ACアダプタやMC34063がぬるくなる程度で、異常な発熱もないようだ。

 電源に使用したACアダプタは、秋月電子の9V/1.3Aで、A1mk2はこれで動作したが初代A1は起動しなかった。容量の大きいものに変更すると動作したので、初代A1はmk2より電力を要求するらしい。各スロットにも5V/300mA供給しないとならないので、ここは余裕をみて9V/2Aのアダプタを用意しておいたほうが無難だろう。

 なお、改造に要した費用はDC-DC300円+ACアダプタ700円といったところ。ACアダプタ単体がヤフオクで2000円前後と考えると費用対効果的にはあまりメリットがないが、本体より専用ACアダプタが希少になっている現状を考えると、改造によってジャンクな機体に活用のチャンスを与える意義はそれなりにあるだろう。また、ACアダプタに小型軽量の汎用品が使えるので、電源の引き回しがスッキリするし、ACアダプタを紛失しても入手が容易というメリットもある。

 DCジャックはセンターピン2.1mmの汎用品にしたので、電圧の間違ったACアダプタを使用しないように注意する必要はある。仮に12Vのアダプタを接続しても一時的にはレギュレータ回路が吸収するだろうが、発熱量が増えるので限界はあるだろう。極性違いはダイオードを入れたので大丈夫。以前カミさんにファミコンのACアダプタ(センターマイナス)を自作LCDモニタに差し込まれたことがあってな…直したけど

 ちなみに動作確認に使ったのはFM/SCC/PSGサウンドプレーヤーのMGSEL(Ainさん作)。コンポジット接続なので画面はボケボケ、漢字ROMがないので漢字が豆腐(■)になり、DiskドライブとFMPACでスロットが埋まってしまうのでSCC音源が挿せないなど、A1mk2基本スペックが貧弱なのでフリーソフトを活用するには難がある。拡張スロットは使いたくない(買いたくない)のでやはり本体に漢字ROMとFM音源を増設する必要がありそう。

 お約束ですが、この記事を見て改造などを行い故障やその他問題が発生しても責任は負えません。特に電源の改造は発煙、発火の危険性が高く、家屋、財産の焼失などの重大な結果を招く恐れがあります。各自の責任において情報を広く集めて行うことをおすすめします。


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