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〜Panasonic VTR ジャンクNV-BS900を修理する〜

第三回「大どんでん返し」


Panasonic NV-BS900 (2号機)

背面端子交換が終了し、回路的には完全になった(はずの)BS900二号機ですが、まだメカ異常が残っています。松下のインテリジェントターボメカ(通称Gメカ)はゴムベルト等の消耗品を可能な限り廃した耐久性の強いメカですが、その反面、ギヤの噛み合わせが非常に複雑で、一山ずれただけでメカが正常に動作できなくなるばかりか、過負荷がかかればギヤが破壊されてしまうということもあります。もちろんそうならないように保護機構が付いていますが、万が一保護機構が正常に働かない場合は…。

BS900で採用されている「新快速メカ」では保護機構がセンタープーリー(メカ裏の一番大きいプーリー)に仕込まれており、過負荷がかかるとここに内蔵されている「クラッチ」が滑るようになっています。普通のインテリジェントターボメカはクラッチ機構がキャプスタンモーター側に付いていましたが、新快速メカではなぜかプーリー側に付いています。このクラッチ機構ではフェルトにバネで圧をかけて、その摩擦で動力を伝えているわけですが、何らかの異常で過大負荷がかかったときにフェルトが滑るような仕組みになっています。フェルトなのでここに油脂やタバコのヤニなどが付着すれば滑りにくくなることは十分予想できます。滑りにくくなって固着してしまうと、何らかのメカエラー(特にカセット挿入で詰まらせた時)が起こったときに逃げ場を失った力がギヤが破壊しててしまうのです。今回の機体でも、ギヤが欠けており、クラッチ固着に由来する物と考えられました。私見ですが、どうもこの機種はカセット挿入エラーを起こしやすいような気がします。9年前新品で買った一号機も購入当初から頻繁に挿入エラーを起こしていました。

故障パーツの調達

主犯格

品番 VXP1259
品名 センタープーリ(1)
価格 400円

こいつのクラッチが固着することにより、保護機構を失ったメカは過負荷によるギヤ破壊を起こします。

見た目で破壊されたギヤだけ直してもダメです。本当の犯人はこいつなのです。

共犯者

品番 VXP0878
品名 リテーナ ハグルマ
価格 200円

プーリーを伝わった力はこの遊星ギヤに伝わります。ギヤの中に3つのギヤが配置されています。このギと下のメインカムの噛み合わせのところでガリガリとギヤがずれていました。

被害者

品番 VDG0764
品名 メイン カム
価格 100円

遊星ギヤからこのギヤに力が伝わりますが、カセット挿入にひっかかりが生じてしまうとそこからカセコンへ力を伝えることができなくなります。本来は余計な負荷をセンタープーリーのクラッチで逃がすのですが、そこが固着している場合は力の破綻が生じ、このメインカムを破壊してしまいます。どうやら過負荷がかかったときに一番壊れやすいのがこのギヤのようです。

ということで、とりあえず交換すべきパーツは3つでした。パーツ番号が分からなかったので、お店に見本を持ち込んで「同じものをください」といって注文してしまいました。あぁ、迷惑な客だなぁ…オレ。

一応その他のギヤも欠けていないかチェックしましたがとりあえず問題ないようです。値段は合計700円。さすがにICと違ってギヤは安いです。

Gメカの位相合わせの方法については、メールである方から教えていただきました。ヒントは「メカ位相合わせはハーフローディングの状態で行う」ということ。それさえ分かれば各ギヤに合わせマークが付いていますのでさほど難なく組めてしまいます。法則さえ掴めば楽勝です。


ギヤを外します

とりあえずこれだけのギヤ類を外してみました。欠けたギヤを付け直すのならこれだけ外せば十分です。

とりあえず表側のギヤを外した状態。この状態はカセットイジェクト状態でピンチローラー、トグロ状のカム、その下のギヤを外した状態です。

ちなみにトグロ状カムはハーフローディングの状態でないと外しにくいです。

メカ裏側。Oリング、Cリングを外してギヤをある程度取るとこうなります。今回欠けたギヤはメインカムなので此処までバラせば十分です。

Oリングとは、ペラペラのワッカに切れ込みが入っているパーツでポリワッシャーとも呼ばれ、金属軸の切れ込みにはまることでギヤを固定しているものです。外すときは先のとがったもので切れ込みを持ち上げて外します。小さいので飛ばさないように要注意!無くしてしまうとメカを組み立てられなくなりますよ!(特にセンタープーリーのもの)

Cリングは金属製の留め具で、本来は専用の工具を使って外すようになっていますが、先のとがった器具でずらして取ることも可能です。これも飛ばさないように注意!


ギヤを組み込みます

まずは(1)のギヤと(2)のトグロ状カムを取り付けます。これらの噛み合わせ方は下の写真を参照してください。

トグロ状カムを取り付けるときには(2)のアームを起こす必要があります。

また、トグロ状カムとモードスイッチはお互いに小さな穴(合わせマーク)が空いていますのでそれらを合わせます。

トグロ状カムと下のギヤはこのような位置関係です。下のギヤは一見指向性が無いように見えますが、位置合わせのためにちゃんとこの位置に合わせておきましょう。

ここまで組んだら、トグロ状カムの脱落防止のため、ピンチローラーを取り付けて固定しておきます。そうしないとメカを裏返したときにカムが抜け落ちてしまいます。

メカを裏返して、これら2つのギヤを位置合わせします。一番左の金属製ギヤはカセコンに動力を伝えているギヤです。金属製ギヤの位置合わせ穴は表側に空いています(次の写真)

表から見るとこうなります。

金属製ギヤの穴とそれにかみ合う樹脂製ギヤの穴を合わせます。

メカ裏側に戻り、この三日月状のパーツを取り付けます。ギヤの凹と三日月パーツの凸は一致しています。

さて、次にハーフローディングアームを動かしているギヤの位置を合わせます。Gメカはハーフロードで位置合わせをするようになっているので、マークがだいたいこの位置に来るまで回します。表側から見るときちんとハーフローディングアームが飛び出しているはずです。

新しく購入した「メインカム」と「リテーナハグルマ」を組み込みます。位置合わせはこの写真のようにします。それぞれ位置合わせマークが付いているので迷わず付けられるはずです。

上から白いギヤを取り付け、それぞれの位置合わせマークを合わせます。

新しいメインカムの溝にモリブデングリスを塗り、上から金属のアームを取り付けて固定します。写真に写っていませんが、アームの下は金属プレートの穴にはめておきます(次の写真)。

センタープーリーを取り付けて、コックドベルトを巻き付けます。

また、図の所にOリング、Cリングを取り付けて固定。Oリングは指で押し込むだけで取り付けられます。Cリングはかなり固いので取り付けに苦労します。指の皮が厚い人は指で押せますが、そうでない人は工夫してはめ込みましょう。セーム皮を使うとか。ここでもリングを飛ばしてなくさないように厳重注意です!

仕上げに、ベルトのテンショナーとブレーキアームの付いた板を取り付けてネジ止めです。これでメカ位相はハーフローディング状態になっているはずです。

FS90記事の時と同様にプランジャとプーリーを手でいじってみて、メカ整合性を検証してみてください。

カセコンに動力を伝えている金属ギヤが止まるとほぼ同時にハーフローディングアームが2本動きだし、少し間をおいてローディングポストが動き、それと共にピンチローラーが下へ降りてきて、最後にピンチローラーがキャプスタンに接触するという流れを確認しておきましょう。その逆も同様です。


カセコンの組み込み

ここまで整合性を検証したら、カセコンを組み込みます。組み込み方はFS90の記事を参照してください。コツはカセットロード状態の一歩手前で組み込むことです。電源を入れる前にその状態で実際にテストテープを挿入してみて、テープロード、アンロードが正常に行われているかどうか検証してみましょう。カセットがつっかえたりせず、テープが絡まずに挿入、取り出しができればとりあえずOKです。万が一、イジェクト時にリール台が動かず、テープが絡むようであれば、今回いじらなかったもう一本のコックドベルトの巻き付いたギヤをいじってみてください。細い樹脂製のアームが左右に振れるはずです。その左右どちらかの状態でもう一度試してみます。

さて、ここまで問題なく動きましたので、電源投入! テープ挿入! 再生! バッチリ動いています! 一時はメーカーに見捨てられた機体が動いている! 感動ッス!

し・か・し…

標準モードでの再生画像がノイズまみれ…

ここまで来て大どんでん返しが待っていようとは…。実は動作確認時にノーマルVHSの3倍モードでしかテストしていないので気づかなかったのです。しかもよくよく再生テストすると、3倍モードでもS-VHSでの再生にはなんだかノイズが乗っています。白い文字などの右に黒い横引きノイズが乗る物で、「反転ノイズ」と言われている現象です。ヘッドの摩耗の時に起こる現象の一つで、S-VHSで起こりやすいようです。要するに、このヘッドは摩耗しているというわけです。標準モードでのノイズまみれの現象はコマ送りで見ると1フレーム置きに綺麗→ノイズ→綺麗→ノイズを繰り返しており、2チャンネルあるヘッドチップの片方が逝かれているときに起こる現象のようです。つまり、標準、3倍モードともにヘッドがイカレポンチなわけですよ…。

つまりアレです、この機体はヘッド交換しないかぎり完全レストアは成し遂げられないのです。ヘッドは言うまでもなく高価なパーツ。松下の場合は他社よりも安価ですが、それでも12000円です。趣味のジャンク修理にしてはお金をかけすぎかと思われますが、まぁこの際仕方ないです。ここまで来たら交換するしかないでしょ!


つづく!

まさかここまで来て最後に一番高価なヘッドが逝かれているとは思いませんでした。ヘッド交換の手段としては、1)他のジャンク機からの移植、2)純正ヘッドを買う、3)互換ヘッドを買う、の3通りがあります。1)は余計なゴミが増えるので却下、2)は高いのでちょっと避けたい、ということで3)の互換ヘッドを購入することに決定。次回はそのヘッド交換をレポートします。衝撃の第四回へ続く!


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