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〜Panasonic VTR ジャンクNV-DX1を修理する〜

パート1 「自力修理編(失敗)」


Panasonic S-VHS DA NV-DX1

今回のデッキは比較的レアなモデルで、ほんの一時期だけ造られた幻の規格「S-VHS DA」機です。S-VHS規格にして、48kHzまたは32kHzの16ビットステレオでのデジタルオーディオを同時に録音可能という画期的なものです。1992〜3年頃に市場に投入され、当時華々しくデビューしたにも拘わらず、なぜか一代で姿を消してしまいました。この松下製DX1の他に、ビクター(HR-Z1 \300000)、三菱(HV-V3000 \250,000+CX-P3000(DAプロセッサ) \150,000)も対応機種を造りましたが、後継機種は販売されていません。その消えた理由としては、デジタル方式による無劣化コピーで著作権侵害を恐れた音楽業界の圧力説、規格自体に無理があり、品質が悪いという説といった数々の憶測が飛び交いましたが、真相は明らかではありません。

この松下NV-DX1もその幻のデッキの一つです。S-VHS DA機としてはビクターの「HR-Z1」が比較的数多く造られたようですが、松下製は数も少なく、オークションでも滅多に見かけることはありません。今回の獲物は某オークションにてテープが出なくなったとのことでジャンク扱い20500円で落札。ジャンクの値段としてはかなり高い方ですが、レア機なので今回は予算度外視で強行落札しました。

このモデルに関してはハッキリ言って「道楽」のレベルです。今までのジャンクいじりは如何に高級機を安く修理してトクをするかということにかなり重点が置かれていましたが、今回のネタはビデオでデジタルオーディオを使いたいという目的がありました。よって最初からコストは度外視しています。あらかじめお断りしておきます。

当時のカタログから。

定価はなんと28万円!です。しかも受注生産品。ということは新品購入時は限りなく定価に近い価格で買わされるということですかね。

スペックを見ても、FEヘッド、編集機能搭載と、それなりに高級機仕様となっています。

尚、BSチューナーは内蔵してません。

今回の機体は本体のみのジャンクでリモコン無しでしたが、どうやらリモコンは他機種との共用のようです。BS内蔵機ではないので、おそらくFS800あたりと同じリモコンだったのかと思われます。本体色に合わせてシャンパンゴールドだったら良かったのに。

それはさておき、「CD並の高音質」と謳っていますが、CDは44kHz、このデッキは48kHzですから実際は「CD以上」と言っても良いと思います。理論的には時間軸に対する分解能はCD以上のはずです。


さて、故障状態ですが、テープが出ない程度であれば、メカ異常として自力で直せるだろうと思っていました。しかし思わぬ落とし穴が待ちかまえていたのです。

とりあえず解剖

まずはサイドウッドを外してトップカバーを解放。サイドウッドは今まで扱ってきたデッキと異なり、かなりの肉厚と重量があり、素材も木材でないにしろ、凝った物であるようです。また、トップカバーも二重構造となっており、名機FS900と同じもの(色は違うが)でした。

外見も内部もパッと見た印象は非常にBS900に似ています。AV分離思想のセンターメカで、左側がオーディオブロック、右側がビデオブロックです。奥にあるのがシスコン関連、その下に電源が格納されています。

映像ブロック

右側のビデオブロックですが、Y/Cパック相当の基板に半田づけを直した跡がありました。何か修理歴があるのでしょうか…?

基板はBS900と似ていますが、BS900に見られないパッチやサブ基板があり、独自に設計したようです。

ビデオブロックを引き上げてみました。手前に見えるサブ基板はBS900には存在しませんので、DX1独自のものだと思います。赤丸で囲ったシールドケースは、BS900と同じ例のHICが入っている物のようです。調べたところ、過去に交換されてはいないようでした。ですが、とりあえず今回は放っておきます。不具合が出たら対策することにします。それにしても、ここが対策されていないのに、半田をやり直した跡があるというのが意味不明なんですが…。

メカの程度をチェック

ヘッド、走行系をチェックします。

恐ろしく程度の良い機体です。ヘッドの輝きはほとんど失われておらず、インピーダンスローラーもピカピカ。クリーナーアームもまるでススけていません。メンテ後間もないか、あるいはまるで使われていなかった機体かのどちらかでしょうね。

ピンチローラーもゴムらしさがまるで失われていませんでした。周辺に磁性体のカスも無いことから走行時間はおそろしく短い機体であったと推測されます。

よって消耗品系統の交換の必要はまったくありませんでした。

裏側

今回のジャンクはメカ異常があるとのことで、検証するために裏側からアプローチします。ボトムプレートもトップカバー同様に二重構造となっており、防振対策が採られていました。インシュレーターも重量のある本物で、このあたりもFS900と同等でした。さすが高級機です。たまりません。

写真はボトムプレートを取り、メカ裏に位置するデジタルオーディオ回路のシールドケースを解放した状態です。フレームはBS900と同じ物ですが、BSチューナーのあったところにDA関連の基板などが取り付けられています。

ギヤ位相の修正

シールドケースを取り去ると、下から「新快速メカ」が現れました。BS900やFS800と同じメカで、松下Gメカの最終進化型と思います。以前にも書いてますが、メカレスポンスが鬼のように快適な高速メカですね。民生普及型VTRではまさに「最高傑作」であり、後にも先にも他社にもこれを越えるメカは無いと思います。

さて、不具合状態ですが、案の定、メカ位相がずれておりました。しかし不思議なことにどこを調べてもギヤが欠けていないんです。ギヤやプーリーも程度が良く、クラッチも固着していません。Gメカではギヤが破損しない限り、ギヤの位相がずれることは理論的に無いはずです。どういうことだ! どうも意図的にずらされたような…。何か陰謀めいたものを感じてしまいました…。

ま、とりあえずパーツ交換無しで復活と思われ、ラッキーということで動作をチェックします。

しかし…

普通の録画再生は問題有りませんでした。しかし、DA機能をテストしたところ、DAランプ点灯の状態で録画したにも拘わらず、再生時にランプ消灯し、デジタル音声が出力されません!

ちなみにスカパーの増設光コネクタから入力してみましたが、デジタル音声のモニターは問題なし。よって信号は確実にデッキに入っています。「DA信号は映像と同時にSテープを用いて記録しなければならない」という制約があるのでそのようにしていましたが、どうあがいてもDA音声の再生は出来ませんでした…。ぐはぁ!!

どうやらDA機能がご臨終しているようです。これじゃ、普通のS-VHSデッキと変わりないじゃないか!!


不具合修正の試みその1

回路異常であれば、今までの経験上ほとんどが電解コンデンサの不良です。このDA関連のシールドケース内の基板にも3つのハイブリッドICが採用されており、各々悪評高い表面実装タイプの電解コンデンサが載っておりました。imomushi氏の同機が同じ故障でメーカー修理に出したところ、このハイブリッドICの1つが交換されて帰ってきたとの情報を受け、自力修理を試みることにしました。尚、imomushi氏の機体は修理代が13000円程度だったようです。

VCR0365

imomushi氏の情報によると、このHICが交換されたとのこと。まずケミコンの不良であると考えられます。

取り外してみました。尚、両端のピンがスルーホールとなっていました。

ケミコンを交換したいのですが、問題はこのブラックコーティング。ケミコンの規格が読めないじゃないですか!何故こんな余計なことを!

裏側。品番が書いてあります。ICがいくつか載ってます。

しかし、規格が読めないからといって諦める私ではないのであった(爆)。読めないとはいえ、コーティングの下に書いてないわけではないのです。そこでこの邪魔なコーティングを注意深く削り、内部に隠された規格を読みとることにしました。この写真ではうっすら「10」と判読できます。できるんです。心眼で読みましょう(笑)。

尚、削らなくても印刷のところが若干浮き上がっているのでコーティングの上から規格が判読できる物も結構ありました。

最終的にこのような規格であると判定! ただし、正しいかどうかは不明! まぁ、部品番号も判っていますし、いざというときにはパーツを注文して交換すればよいということで、とりあえずこれでやってみることにしました。

張り替え作業開始

今回はブラックコーティングのために、作業はかなり慎重にやりました。万が一パターンを剥がすと目で追えないので修正不可能になってしまいます。

注意深くコンデンサを破壊し、取り外しました。

いつものように普通のケミコンで張り替え。取り付けも慎重に行います。取り付けた後にピンをゆすると、いともアッサリとパターンが剥がれるからです。

元の基板に戻しました。

結果ですが、NG。何も変わりませんでした。しかし、そんなことで諦める私ではないのであった(爆)。HICは3つありますので、他のHICが原因とも考えられます。そこで他のHICのケミコンも張り替えることにしました。

VCR0363

ということで第二のHICのケミコンも張り替え。このHICには2つのケミコンが載っていました。

一つは10μのようでしたが、もう一つの規格がどうしても読めませんでした(1μのように見えたが…)。よってとりあえずそのまんまにしておきました。

しかし、これを交換してもNG。まだHICは一つ残っているのでそれも対策することに決定。

VCR0366

残る3つ目のHIC。型番は印字されておらず、この時点では不明。クリスタルが一つ載っています。ケミコンは1つで10μと判読。

しかしこれでもNG。うーん、ケミコンの規格判読に失敗したかも…。結構読むのが難しかったですからねぇ。もう、こうなると補修部品を買うしか手段が残ってません。


自力修復の試みその2

なんだか、ICの写真ばかりでイマイチ面白みが無くなってきましたが、まぁいいでしょう。とりあえず部品番号の判明しているこの2つのHICを補修部品として買ってきました。imomushi氏のレポートですと、メーカー修理でのVCR0365の価格内訳は2000円以下だったようですが、サービスセンター(松下の場合「テクニカルサービス」が正式名称)で使う場合と、エンドユーザーに販売するときには価格が異なるようなのでそんなものでしょうか。2つ合わせると5千円を超えます。安くはないです。

品番 VCR0363
品名 IC
価格 2850円
品番 VCR0365
品名 IC
価格 2850円

ということで新旧比較。特に違いは認められません。きちんとケミコンが欠陥対策品になっているかどうかが実に不安なんですが…。

で、取り付けてみたのですが、なんと症状が余計酷くなりました。DA再生はおろか、今まで認識していた光音声入力信号すら認識しなくなってしまいました。

VCR0365を元のケミコン張り替え版に戻したところ、光音声入力は復活。ということは、もしかして補修パーツの初期不良???

半固定抵抗??

部品が変わったために特性が変わり、微調整が必要なのかも知れません。ということで、この基板上にある半固定抵抗をマーキングを施した上で回してみることに。

しかし、どうあがいてもDA再生不可能という症状が改善されることはありませんでした…。

さすがの私もここで降参してしまいました。入手しやすい機体であれば、ニコイチ診断のためにもう一台入手するところなのですが、何しろDX1はレアですからねぇ。


敗北…

ということで、このDX1は敗北が確定。このままタダのS-VHSデッキとしてしまうにはあまりにも惜しいため、最後の手段としてメーカー送りにすることにしました。

買ったパーツを無駄にしないように、なおかつキチンと修理して貰いたかったので、トップカバー内部にこんな手紙と、今回購入したHICを張り付けておきました。

NV−DX1修理についてお願い

症状:デジタルオーディオ再生が不能
   光デジタル入力は認識し、モニターされるが、DAランプ点灯の状態で録画し
   たソースを再生しても、DAランプ消灯しデジタル音声が再生されない。

中古入手の機体ですが、入手時すでにデジタルオーディオが不能になっており、自力
修復を試みました。

まず、故障ポイントとして疑われた、デジタルオーディオ基板(シールドケース入り)
のブラックコーティングされたハイブリッドIC(VCR0363,VCR0364?(クリスタルの載
っているもの、型番不明),VCR0365)合計3つの電解コンデンサをリードタイプの新品
に張り替えました(規格の判明したもののみ)が、症状は全く変わりませんでした。

そこで新品のVCR0363、およびVCR0365を補修部品として家電店を介して取り寄せ、交換
したところ、逆に光デジタル入力が不能になってしまい、症状が余計ひどくなってしま
ったため、VCR0365のみコンデンサを張り替えた古いICに戻してあります。戻したと
ころ、光デジタル入力は認識するように戻りましましたが、やはりデジタル再生は不能
です。

従って、現在基板には新品のVCR0363 と、電解コンデンサ張り替え済みの古いVCR0365
および、コンデンサ張り替え済みのクリスタルの載った古いVCR0364?(型番不明)の3
が載っています。

古いVCR0363と、一度取り付けて外しただけの新古のVCR0365を添付しておきます。必要
であれば使ってください。なるべく古いパーツを使い回す修理方法でお願いします。可
能性としては補修パーツのVCR0365の初期不良とも考えられますが、こちらではこれ以
上の調査が出来ないと判断しましたので修理をお願いいたします。

また、コンデンサの張り替えたICの半田付け部分のパターンは脆くなっていますので
パターンを損傷しないようにご注意願います。

尚、修理結果は http://niga.tripod.co.jp に反映させていただきます。

よろしくお願いいたします。

修理結果を「サイトで公開」という脅し文句まで付けているので完璧でしょう(笑)。松下サービスマンの技術力が問われます。尚、imomushi氏の例を考慮して、とりあえず修理は2万円以上なら連絡して欲しいとしておきました。

さて、果たして結果はどうなるか!? 次回に続きます


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