Panasonic NV-FS70
バブル松下VTR修理記事第二弾として、前回のNV-FS65の一つ上位機種である「NV-FS70」を修理してみましょう。基本的な設計はFS65と同様ですが、細かいところが微妙に違っています。アナログメーターが無い代わりに本体にジョグシャトルが搭載されている他、サイドパネルが重量のある特殊プラスチックだったり、オンスクリーンによる予約編集の有無等ですが、メカを含め、内部的にはほとんど同一で、基本性能は同じだと思います。
それにしてもデザインが良いです。薄型のスリムボディに金属製のシーリングパネル、そしてその内部には必要にして十分な操作パネルとスイッチ群。今ではよっぽどの高級機でないと搭載されていないジョグシャトルを本体側に装備など、バブル時代らしいお金のかけ方です。丁度この時代にジョグシャトルが流行したのです。当時は憧れの機種でしたが、お金が無かったので買えませんでした。このデッキは某オークションで3500円で入手しました。
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シーリングパネルを空けるとこんな感じ。今時のデッキでは省略されがちなボタンも余裕で装備しています。これも当時の松下デッキの良いところ。リモコン無しのジャンクでもとりあえず困ることはありません。リモコンが無くても、音声切り替えとVISSサーチが出来ない程度です。 ちなみにこのパネルはFS65,FS90でも形はほとんど同じですが、それぞれ微妙に違います。FS65はオンスクリーンスイッチの代わりにブルーバックスイッチ、FS90では入力切り替えのS映像入力切り替えが本体側にあるためにパネルからは省略されています。 今時のデッキは中堅機でも録音レベルツマミ、ヘッドフォン端子が省略されていますが、この時代は装備されているのが当たり前でした。良い時代でしたねぇ。このデッキではさらに画質、カラーレベルまで可変抵抗でいじれるようになっています。ほとんど使わない「サイマルキャスト録音」や、たまーに編集で使う「インサート録画」にも対応。サイマルとは、テレビ放送を録画するときにHi-Fi音声だけ外部入力から録音するという機能です。外部入力端子にラジオなどを繋げて長時間タイマー録音するとき等に使えました。Hi-Fi VTRは当時としては高音質な録音デバイスだったのでこういう利用法もあったのです。インサート録画は、既に録画されているテープの途中に絵とHi-Fi音声を挿入する機能。フライングイレースヘッドを必要とするので高級機でないと不可能な機能です。 |
当然ジャンクなので壊れてました。症状は操作ボタンのいくつかが利かないこと。そして、再生中のテープの走行速度の異常。3倍モードや標準モードを誤認して3倍で録画したテープであるにも関わらず高速で再生されたり、タイムカウンタが動かなかったりしています。まずは、操作ボタンから調べてみます。
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困ったことに時計合わせボタンをはじめとするボタンのいくつかが利きません。チャンネル合わせも時計合わせもできないのでタイマー録画ができません。。しかもいじっている内に本体側の電源ボタンさえ利かなくなりました。ただし、リモコンには反応するので壊れているのは操作パネル系でしょう。 取り出して調べたところやはり切れています。写真おところに亀裂が入っています。犯人はこいつです。 ちなみになぜかこれが切れると本体側の電源ボタンが利かなくなることがあります。内部でとう繋がっているかは謎ですが。 |
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最初はフレキ(フレキシブルケーブル)だけ交換すれば良いかと思っていたのですが、実はフレキだけの分離はできない構造でした。基板、パネル、ボタン、フレキがプラスチックで溶着されて一体となっていました。仕方ないのでこの一体型のパーツを注文。交換したところバッチリボタンは利くようになりました。これに伴って本体側の電源ボタンも復活。 |
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次はテープ走行速度異常を修理します。この症状は現れたり、消えたりと一定していませんでした。タイムカウンタが回らなかったりすることから、コントロールトラックの不良と考えられます。コントロールトラックとは、ピンチローラー付近の固定ヘッドにより読み書きされています(ドライバの先で示したヘッド)。録画時に一定の間隔で信号が記録され、それを再生時に読みとることでタイムカウンタを回したり3倍、標準モードを認識したりしているのです。 この固定ヘッドの角度の調整が悪かったりするとこういう症状が起こり得ますので、角度調節、別のジャンクデッキからの固定ヘッドの移植など行ったのですが、直りませんでした。うーん、何故だろう。しかも症状が現れたり消えたり一定していないのが実に気持ち悪いのです。そこでこのヘッドからの信号をメイン基板の方に追ってみました。とりあえずケーブルは断線していませんでした。したがって、少なくともメイン基板までは正常な信号が伝わっているはずです。 |
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さらにコントロール信号をテスターで追いかけたところ、この基板に入っていました。「SERVO PACK」と名前が付いています。まさにモーターコントロールなどをしていそうな名前じゃありませんか。実に怪しげです。そこでよーく観察すると…。 |
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穴が空くほど観察すると、写真のコンデンサが実に怪しい。足が腐食しています。おそらくこのコンデンサが死にかけており、それで症状が現れたり消えたりしている物と考えられました。 腐食しているのはおなじみの「噴いている」というやつです。経年劣化で電解液を内部から放出しているのです。幸いなことに基板はまだ無事でした。 |
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安全に修理するために、SERVO PACK基板をメイン基板から分離します。幸いなことにこの基板はメイン基板とコネクタ、ケーブルでのみ繋がっており、半田コテを使わずに取り出せました。ただし、ケーブルの端子が一本一本直接刺さっているコネクタ(写真の下一列)があるのでピンを折らないように注意する必要があります。 問題のコンデンサは丸で囲ったところにあります。これだけ色が違うし、言われてみるといかにも怪しいです。品質が悪いものなんでしょうかねぇ。 |
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右が外したコンデンサ。明らかに足が腐食しています。47μFの10v品のようです。たまたまパーツ箱にあったジャンクの同容量の16v品(写真左)に交換しておきました。 |
消耗品のチェック このデッキはピンチローラーなどの消耗品は新品同様でした。実にラッキーです。前オーナーがメーカー修理で交換したものでしょう。おそらく、今回とは別の原因で調子が悪くなったので一度メーカー修理に出し、その後まもなくして今回の症状が現れたため、これ以上お金を掛けるのも馬鹿馬鹿しくなり廃棄されたものと推察されます。メーカー修理は最低でも技術料8000円ほどかかりますからね。どんなに簡単な故障だとしても。この時代のデッキを常用するのならば、ある程度の故障は自力で修理できる技術が無いと、逆にお金が掛かってしまうということになるかも知れません。
ということで、これにて修理完了しました。最終的な費用は、本体3500円+パネルSW3200円=6700円ナリ。
総評 さて、直ったところで使ってみました。とりあえず一通り問題なく使えました。このデッキはレストア完了したら急に興味がなくなり、今のところ休眠中です。他に高性能ジャンク修理デッキがいくつもあるのが原因ですが…。まぁ、そのうち使うこともあるでしょう。画質などのテストはしていませんが、おそらくFS65と同等だと思います。
まぁ、修理する事そのものが目的で入手したものですからねぇ。手段のためには目的を選ばず。あぁ、マニアック。
2000.10.20. 追記 知人とビデオ修理の話しをしていたら、このデッキを必要経費+αで引き取ってくれることになりました。自分の手元を離れるので、長らく使っても壊れないようにきちんとメンテする必要が生じました。このデッキで起こしていない不具合で、今後予想されるものとしては、例のFS65の時と同様のハイブリッドICです。このデッキは10年経っていますが、このハイブリッドICに関してはまだ初期出荷の状態のままで問題なく使えていました。しかし、近い内にダメになるのが目に見えています。そこでこのハイブリッドICが死ぬ前に、コンデンサだけ交換しておくことにしました。
Y/C PACK と ハイブリッドIC まずは責任病巣の分離です。取り外しポイントはFS65記事参照のこと。このハイブリッドICは一見噴いていないように見えますし、実際問題なく使えます。しかし、噴いてからでは手遅れで、基板が損傷してしまうと基板ごと交換するしかなくなります。今の内にコンデンサのみ交換しておくのが吉でしょう。今回用意したパーツは電解コンデンサ47μFを2個 + 4.7μFを2個です。耐電圧は余裕を持ってそれぞれ25V,50Vとしました。また、小さな基板に取り付けるものなので、パーツショップで出来るだけ背が低いものを選んでいます。
step1 |
まずコンデンサの取り外しです。(この写真では既に一つ外しています) いろいろやり方はあるようですが、今回はコンデンサを破壊して外しました。ニッパーでコンデンサのくびれた部分を注意深く挟んで上半分を取ります。この時、決して無理な力をかけてはいけません。基板のパターンを剥がしてしまうと後が大変です。 |
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step2 |
次に下半分を取ります。これは上に持ち上げるだけでOK。 下半分が取れるとプラスチックのベースと足が残りますのでこの足を根本からニッパーで切断します。するとプラスチックのベースだけが残るので、これを持ち上げて外します。 |
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step3 |
黒いプラスチックが取れるとこうなります。後は半田コテで古い端子を取ってクリーニングしておきます。 尚、この写真を見て判るように、端子は腐食しはじめていました。やはり死ぬ寸前だったようです。今回交換しておいて大正解でした。 腐食した足は非常に半田が載りにくく、剥がしにくいですが念入りにクリーニングしておきました。 以上の作業をコンデンサ4つ分やっておきます。 |
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step4 |
最終的にこうしました。普通の電解コンデンサを使っています。ただし、47μFを25V品、4.7μFを50V品、のように、元々付いていた規格の倍まで耐えられるものにしてあります。これで10年以上は耐えるでしょう。 あ、ちなみに半田付け後にコンデンサを動かすのは御法度です。パターンが剥がれて死にますんで。 |
元通り、Y/C PACK の基板に取り付けて、これをメイン基板に戻せば完了です。
取り付け後に動作確認しましたが、S-VHSで記録されたテープを綺麗に再生していました。問題なしです。
今回のように壊れやすい場所が分かっている場合、予防的な早期治療により、被害を最小限にすることができるわけです。病気もそうですが、早期発見が重要なんですねぇ。症状が現れてからでは手遅れなのです。
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