にがMSX

〜RGB Y/Cコンバータをつくる〜


メーカー不明

ISAバス ビデオカード

 これまでMSXにS端子を増設する改造を数機手がけたが、MSX本体内部で使われてるビデオエンコーダCXA1145のY/C出力端子から信号を引っ張り出すことで比較的簡単に改造することができた。しかし、FS-A1(初代)は使われているエンコーダがROHMのBA7230LSで、Y/C出力に対応していない。S映像信号のうちのChroma(色)は実は複雑な信号で、RGB信号から生成するには専用のエンコーダIC(CXA1645/1145)などを使う必要がある。

CXA1145CXA1645は共にRGB信号からY/C信号やコンポジットビデオ信号を生成するエンコーダだが、下記のように微妙に機能は異なる。

CXA1145

CXA1645

クロック
内部発振可/外部発振の場合はsin波 外部から供給必要、sin波、矩形波なども可

Y/C出力
出力インピーダンスが高い 直接75Ωドライブ可

コンポジットビデオ
Y信号にディレイラインを噛ませて、C信号とともに再入力 RGB+同期信号のみで生成・直接75Ωドライブ可

オーディオアンプ
あり なし

 CXA1145松下やSONYのMSX2+本体内部で使われているもの。クロックは内部発振可といっても2本足の水晶発振子とデカップリングコンデンサは必要。MSX本体ではこの機能を使わずにZ80のCPUクロックを使っている。また、松下A1WXではオーディオアンプは未使用だが、A1STではこれをC信号のアンプとして利用するなど謎な使われ方をしている。コンポジットビデオ信号の生成には、Y信号にディレイをかけてY入力へ戻さないとならないなど、必要な外付け回路が多くて使いにくい。Y/C信号も出力インピーダンスが高いため、S端子の増設にはビデオアンプが必要となる。

 CXA1645は外部からのクロックの供給が必要とはいえ、入力可能な波形には柔軟性があり、4本足のクロックモジュール1個で解決できるので大したデメリットではない。RGB信号と複合同期信号を入れるだけで75ΩドライブできるY/C信号とコンポジットビデオ信号が得られるのでこちらの方が使いやすいだろう。

 この石は初代プレステなどで使われており、ジャンクな機体から剥がして使うこともできるが、上画像の古いISAバスのビデオカードに載っているものを今回利用することにした。基板を解析してみたところ、ほとんどリファレンス回路通りに部品が揃っており、わざわざチップを剥がして使うよりも、基板そのものを流用したほうが合理的と判断し、外付けのRGB-Y/Cコンバータを製作することにした。


S端子、コンポジットビデオ端子

 このビデオカード、古い基板をまとめて入手したときにオマケに付いて来たものだが、基板を見ても型番が判らない。程度は驚くほど良好で、プレートはピカピカだし基板にもホコリの付着がないことから未使用品と思われる。抵抗やコンデンサはすべてリードタイプが使われており、1990年代前半頃の製品だろうか。高価なタンタルコンデンサが多用されていることからコストも掛かっていると思うが、今時こんなビデオカードに利用価値はないだろう。普通なら燃えないゴミに捨てるだろうが、結構使える部品が収穫できたりする。

S端子やコンポジットビデオ端子が基板に実装済みなので、このまま流用することにする。

CXA1645

 今回の改造の要である、ビデオエンコーダSONY CXA1645Mは24pのSOPパッケージ。末尾はPとMがあるそうだが、Mのほうが消費電力が低いらしい。DIPパッケージのCXA1645Pは2015年現在も秋月電子で取り扱いあり。

回路図

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 基板を調べて載っている部品を回路図に書き出してSYNC信号のレベル変換にLM1881を追加した回路図がこちら。実験段階でMSXのCSYNC信号をR47に直結してみたのだが、電源投入時綺麗な絵が表示されるものの2秒くらいでブラックアウトするトラブルが発生。オシロで見るとすべての出力端子からの信号が出なくなっており、ICがシャットダウンモードになっているような感じだった。

データシートにはシャットダウンモードの記載はなく、CXA1645が壊れているのかと思ってチップを張り替えてみたが変化なし。電源の不良やコンデンサの不良を疑って電源を取り替えたりレギュレータで安定化を図ったり、コンデンサを全部張り替えてみたりしたが効果なし。散々悩んでしまったが、オシロで測定しているうちに、CXA1645のSYNC入力はTTLレベルを要求することに対してMSXのRGB端子から出ているCSYNC信号は0Vを基準とする交流で出力されていることに気づいた。SYNC入力ピンがマイナスの電位に振れていたことが悪かったようだ。

適当なBIAS電圧を与えるか、マイナス成分をカットしても良かったかもしれないが、手っ取り早くビデオシンクセパレータLM1881でレベル変換をしたところ安定して絵が出るようになった。

Chroma信号の生成に必要なサブキャリアの3.58MHzはデータシートによると、0.4〜5.0Vp-pのサイン波でも矩形波でも使えるらしい。この基板ではCMOSクリスタル発振回路で生成されているが、ちょっと見慣れない構成になっていた。イチから自作する場合は昔の秋月のキットのように4端子のクロックモジュールを使うとよさげ。A1本体などに内蔵にする場合はWXの回路を参考に、CPUクロックから3.9kΩの抵抗と0.1uFのカップリングコンデンサを噛ませて接続すればよいだろう。

なお、17pのYTRAPに接続されているインダクタとコンデンサはクロスカラーノイズ対策のものらしいが、秋月の旧キットでは省略されている。

基板の加工

 必要な部品が判明したので、基板の不要な部分を切り出す。カット線(画像ピンク色のライン)を決めて、邪魔になる部品はあらかじめ外しておいた。スルーホール基板なので部品の抜き取りはやや面倒で、基本足パチで外して足を抜き取るという手法で行った。PLCCのBt121は元々RGB信号を出力していた石で、残しておくと不都合がありそうなのでルーターで足を全部切断して取り外した。

音声信号用にオペアンプやミニジャックも載っているが、タンタルコンデンサが多用されており、ショートモードで壊れるのが怖いので外してしまった。ミニジャックをそのまま音声出力端子として使っても良かったかも知れない。

基板の切り出し

 基板はミニルーターのダイヤモンドカッターで切断したが、普通に金ノコ等でも切れると思う。

切断後に導通をチェックすると、クロック生成回路とアナログ信号系の電源が分断されていたのでワイヤーで接続した。多層基板なのでパターンが追いかけにくいが、強い光源で透かしてみると分かりやすい。

電解コンデンサやタンタルコンデンサは劣化が懸念されるので張替える。10uFのタンタルコンデンサはCXA1645の14p VREFで使われているが、データシートには周波数特性に優れているタンタルかセラミックを使えと書いてあるので安価で劣化の心配の少ない積層セラミックコンデンサに置き換える。

SYNCセパレータのLM1881はBt121を剥がして空いたスペースに実装する。


箱入れ

 諸々試行して出来上がった回路がこちら。SYNCのレベル問題で絵が出なかった時に、無駄なセラミックコンデンサの交換なども行ってしまった。

電源は2.1mm標準DCジャックからDC9Vを受けて、クリスタル近傍の適当な電源系のパターンに+5Vのレギュレータを実装してVccを生成している。

ケースは秋月のアクリルケースSK-5がピッタリ適合。基板に3.2mmの穴を開けてジュラコンのスペーサーとプラネジを使って固定した。金属ネジを使うと基板内層の電源パターンがショートする恐れがあって危険

RGBケーブルは直出しでちょっとテキトーな感じだが、この太さに使える適当な緩衝材がないので、切れたらまた繋げば良いことにする。

完成

MSXのRGBコネクタに接続するためにDIN8pコネクタを取り付けて完成。使用したのがシールド線でないのでケーブル長は短いほうがいいだろうということで10cmにした。

特に凝る必要もなかろうと思って、今回は塗装やデカールの貼り付けはしていない。

S端子やコンポジットビデオ端子の位置を考慮して、基板の部品面をケース底面に向けて固定している。


測定

 このコンバータで生成している信号をオシロで測定してみた。測定時はBASICプログラムでデジタル8色配列(輝度の高い順に白、シアンマゼンタ、黒)のカラーバーを表示させている。レンジは1Vで測定。

上がY信号、下がC信号の波形をおよそ3ライン分出したもの。オシロのトリガがうまくかからずタイミングがズレているが、実際はSYNCの立ち上がった直後のタイミングでカラーバースト信号が出ている。

 コンポジットビデオ端子から出ている信号をおよそ1.5ライン分出したもの。上で示したY信号とC信号を加算してもほぼ同じ波形が得られる。

Y信号とC信号は周波数帯域が重なっているので、一度混合してしまうと一部の情報が失われてしまい、二度と元通りに分離することはできない。分離にはくし型フィルターや、三次元Y/C分離といった手法があるが、今時のデジタル処理を駆使してもどうしてもボヤけた画面になってしまう。一度かけたモザイクが外せないのと同じ理屈。

基板上のCMOSクリスタル発振回路で生成されている3.58MHzのサブキャリアを測定したもの。sin波ではなく、1.0Vp-pの三角波になっている。


実際の表示

 初代A1本体のコンポジットビデオ端子から出力した映像がこちら。撮影時のフォーカスが甘いわけではなく、実際にこういうボケた表示。長時間眺めていると頭が痛くなりそう。

10代の頃はこんな画面でプログラミングもしていたが、今ではとても耐えられない。

 同じA1で今回のコンバータのコンポジットビデオ出力を使った映像がこちら。本体側信号と似たような画質だが、こちらは若干クロスカラーが軽減しているような気もする(動きのあるノイズなので撮影画像ではわかりにくい)。

ただし、こちらはVolume:表示の右のグリーンのストライプのバーに横に流れるようなノイズが乗っている。

 S映像出力の映像がこちら。ドットのエッジがクッキリして文字が読みやすくなった。

下の緑の横棒を見ると分かるが、少しノイズが載っている。本体のコンポジットビデオ信号にも同じノイズが載っているので、外付け回路の問題ではなさそう。

なお、漢字ROMがないので、表示が一部豆腐になっている。


総評

  今回は珍しく外付け機器の製作ネタであったが、タダ同然で入手したジャンクな基板を利用したのでローコストで、別途用意したのはLM1881とケース、ケーブル10cm、DINプラグ、電源コネクタで600円くらいか。同様の機能を持つ秋月の旧キットは2600円だったらしく、現在CXA1645+クロックモジュールが1個1000円で売られていることを考えるとそれなりにオトクかと。

 古いISAバスのカードに載っている回路を流用するネタは以前にサウンドカードのオーディオアンプでやったことがある。周辺回路を丸ごと利用できるので新規にユニバーサル基板で組み立てるより製作は非常にラクだ。使えそうなチップが載ったジャンク基板があったら、基板から剥がす前に基板ごと利用できないか検討してみると良いと思う。なお、今回の基板からは他にもビデオ用のオペアンプなどを収穫しているがこれは別のネタで使用する予定。

 このコンバータのコネクタはMSX専用だが、コネクタを変換すれば他の15kHz複合同期のアナログRGB信号を出力するレトロゲーム機やレトロPCでも使うことができるはず。外付け機器なので電源が必要で、ケーブルの引き回しがうっとおしいが、それなりに汎用性はあると思う。

 なお、同様の目的を持つ製品がマイコンソフトからXAV-2sという製品で出ている。こちらはRGBマルチ21p入力が基本だが、15pコネクタにも対応していたり、RGB信号のレベル調整やクロックの微調整ができるなど、アーケード基板との親和性を高める工夫もされている。2015年現在在庫限りの製品のようだが、マイコンソフトの製品はお値段なりの性能はあると定評があるので、私のようにジャンク基板を活用することに喜びを見出すような変態的嗜好を持たない普通の人は普通にこれを買って使うことをお勧めする。

 お約束ですが、この記事を見て改造などを行い故障やその他問題が発生しても責任は負えません。各自の責任において情報を広く集めて行うことをおすすめします。


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