SONYのMSXとしての最終機HB-F1XVは、FDDやFM音源、MSX-JE、漢字ROMが内蔵されていて一通りのことはできるMSX2+だが、Nextorで使い倒すには64kBのメインメモリでは心許ない。本機のメモリ増設手段としてはS1985(MSX SYSTEM II)のマッパレジスタを利用した512kB化や、ゲートアレイの機能を利用した256kB化改造が知られているが、用途によっては十分な容量とは言い難く、配線も割と面倒だったりする。 そこで、過去の作品のノウハウを生かして大容量4MBのメモリ増設基板を設計してみた。なお、一つ前のモデルHB-F1XDJも同じメインボードが使われているため、同様に改造可能と思われる(非検証)。 なお、MSXのメモリを増設しても過去に市販されたゲームが快適にプレイできるようになったりはしないので、ゲームで遊ぶだけのMSXユーザーは本体改造に手を出さないほうが無難である。なお、本記事の改造キットはいつものように家電のKENちゃんさんを通じて頒布する予定あり。 改造キットの概要
対応機種以外のMSXでもZ80 CPU周囲に空間的余裕があれば実装できると思います。ハードウエア的に#FC-FFhのマッパレジスタの初期値を3-2-1-0に設定してるので、BIOSでマッパレジスタを初期化していないMSX1でも使えるはずです(非検証)。メインメモリのスロットセレクト信号の取り出しポイントは機種によって異なりますので、各自で調べてください。 ご注意
改造難易度は中程度ですが、本体改造未経験者にはオススメしません。改造に失敗すると本体を再起不能にする恐れがあります。改造を成功させるには片面基板のICを無傷で取り外し、0.65mmピッチの面実装ICの足にワイヤーを1本ハンダ付けするスキルが要求されます。本記事を最後まで見てから改造に着手するかどうか判断してください。なお、製品に改造の手順を示す説明書は添付されません。本記事が改造マニュアルを兼ねています。 キットの他に工具やポリイミドテープが必要ですので、各自で用意してください。 |
本基板のCPLDは内部ロジックもピン割り当てもFS-A1F用メモリ増設基板とまったく同じもので、4MBメモリ部分だけ抜き出してコンパクト化したような作りになっている。 JP1は、MSX2 -> 2+ 化改造で使うF4レジスタのイネーブラであるが、HB-F1XVに組み込む際にはJP1はオープンのままにしておく。JP2はF4レジスタの初期値を反転するものだが、これも同様にオープンでOK。 J2の/OPLLや/CASXは今回の改造では不使用。 |
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さて、ここからが本題。筐体を開けてメインボードを取り出すと、中心付近にZ80 CPUが確認できる。右隣はシステムROMで、さらに右に見える大きいのが漢字ROM、MSX-JEが入ったハイブリッドIC。 |
Z80のA0〜A7は4.7kΩでプルアップされており、集合抵抗が30〜37pのホールに一緒に刺さっている。参考資料として、Z80のデータシートからピン割り当て図を抜粋しておく。 |
Z80(IC11)をパターン面から見ると6pのCLOCK信号がワイヤーで接続されている。このワイヤーは一旦取り外しておく。 なお、この面にシルク印刷された14と15のピン番号は間違っているので注意。正しくは20と21。 |
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Z80の半田をハンダ吸い取り器で丁寧に吸い取り、40pすべてパターンから浮いた状態にしてからZ80を引っこ抜く。反対側から光で透かして観察し、断線があればワイヤーで補修する。 スルーホール基板ではないので半田の吸い取りはあまり難しくないが、コテ先が滑って表層のカーボンペーストパターンを傷めないように注意。 |
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半田カスやヤニをクリーニングしたら、空いたZ80のホールにキット付属のICソケットを実装する。1p側を示す切り欠きが下を向くようにする。 ICソケットはしっかり奥まで差し込んだ状態でハンダ付けする。ここが浮いたり斜めっていると後々パターンが剥離する恐れあり。 |
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Z80は集合抵抗と一緒に引っこ抜けるが、集合抵抗はメインボードに実装するため分離しておく。 | |
分離した集合抵抗はZ80のパターン面の30〜37pにハンダ付けする。コモン側のワイヤーは+5V(JW63かZ80の11p)に接続。なお、この画像の例ではパターン保護と絶縁目的でポリイミドテープを集合抵抗の下敷きに貼っている。 先に取り外したCLOCK信号のワイヤーはZ80の6pに戻しておく。 |
IC7,IC8に実装されている64kB分のDRAMはZ80同様に丁寧に引っこ抜いておく。これを残しておくと4MBメモリとバス競合が発生し、故障の原因となるため必ず撤去する。 |
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DRAMを引っこ抜いたら断線がないか光で透かして確認する。 |
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実装後の高さを抑えるため、細ピンヘッダは連結したまま使わず、ラジオペンチでピンを引っこ抜いて使用する。1本ずつICソケットに植毛する感じで、奥までしっかり差し込んでおく。この時点ではまだハンダ付けはしない。 メモリ基板のSOCKET/CPUのパターンは並列に繋がっているだけなので、どちらにZ80を実装しても問題ないが、HB-F1XVでは茶色いサブ基板との干渉を避けるため、画像のように上側のパターンに細ピンが刺さるようにする。 |
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メモリ基板をICソケットや右側のシステムROMと密着した状態になるように置き、40本の細ピンをICソケットに突き刺したままメモリ基板にハンダ付けする。ここが浮いていると組立時にシールド板が干渉する恐れあり。 |
一旦メモリ基板を細ピンごとICソケットから引っこ抜くが、細ピンは曲がりやすいのでゆっくり丁寧に作業する。 メモリ基板の表面に突き出した細ピンはZ80実装時に邪魔になるのでニッパーで切り揃えておく(間違ってICソケットに差し込む方のピンは切らないように)。 |
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Z80はソケットを介さずに直接メモリ基板に実装する(ソケットを使うと筐体に入らない)。実装方向を間違わないように注意。キット付属の電解コンデンサも極性に注意してC6に実装する。 |
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Z80も浮き上がらないように基板に押さつけながらハンダ付けする。繰り返しになるが、ここが浮いているとシールド板と干渉する恐れあり。 このとき細ピンに半田が付着しないように注意する。画像のようにマスキングテープで細ピンを保護しておくと安心。 以上でメモリ基板の加工は完了。 |
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再度ICソケットにメモリ基板を挿し込み、/SLTSL信号を接続する。HB-F1XVの/SLTSL取り出しポイントは下記に示すようにS1985の53p(/SLT30)。機種によってメインメモリのスロットセレクト信号の割り当ては異なるので他機種で改造する場合は各自調べること。 |
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実装後の状態はこんな具合。極力高さを抑えているが、これでもギリギリで、これ以上のスタックは不可能。 |
メインボードを筐体に戻し、シールドカバーを被せるとZ80やDRAMの端の方がシールド板と接触するかしないかくらいの状態となる。DRAMの足とは接触しないと思うが、心配ならポリイミドテープ等で絶縁しておくとよい。 この画像では電解コンデンサを実装していないが、ギリギリで実装可能。 |
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筐体を開けた状態で動作チェックする場合は、スピコン基板のコネクタを接続しないと挙動がおかしくなるので注意。正しくメモリを認識すれば起動時のMSXロゴ画面で4096kbytesと表示される。引き続き、メモリチェッカーでセグメント#00-FFhまでエラーがでなければ読み書きは問題なし。リレッシュについては5分くらいPAUSEして解除後に暴走しなければ問題ないだろう。改造に成功したあなた、おめでとうございます。 |
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実際の動作チェック風景がこちら。秋葉原最終処分場から流れてきた裸族XVメインボードをテストに利用。メモリチェッカーを走らせたり、4MBフルに使ったPCM音声データを再生し、5分PAUSEにリプレイできるかでリフレッシュのチェックを行っている。 |
頒布と次回予告
いつものように「家電のKENちゃん」さんを通じて本記事のキットを頒布します。製造時期は不定期ですが、頒布開始のタイミングで同人ハード担当のHRDさんがtweetしてくれると思います。当方の製造能力が低いため、一度に少数しか出荷できません。売り切れの際は「再入荷のお知らせを受け取る」に登録の上、次回生産をお待ち願います。
現在、左画像のような基板を開発中。1枚でマッパーメモリ4MB、FM音源、第一・第二水準漢字ROMが内蔵できるので、MSX2の改造には本記事のメモリ基板よりもこちらのほうが適していると思われます。
2022年内にはリリースしたいと思っているので、MSX2ユーザーは暫くお待ちください。
お約束ですが、この記事を見て修理・改造などを行い故障やその他問題が発生しても当方は責任を負いません。各自の責任において情報を広く集めて行うことをおすすめします。
この記事の内容は個人の憶測や見解の誤りを含んでいる可能性があります。内容についてメーカー各社に問い合わせるのは止めましょう。
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