にがMSX

〜 SEGA MARK III の改造 前編〜




SEGA MARK III / Master System
 
CPU
uPD780-1 (Z80互換3.58MHz)
RAM
8kB
VDP
YAMAHA 315-5124
VRAM
16kB
SOUND
315-5124内蔵 DCSG互換

国内版MasterSystemのみOPLL内蔵

  初期のSEGAの家庭用ゲーム機シリーズは何かとMSXと共通点が多い。初代のSG-1000はMSX1と同じ1983年の製品で、どちらもZ80+TMS9918の搭載機である。後継機のMARK III(以後MK3)とMSX2は1985年にYAMAHAの新開発VDPで画像表示能力が強化されて登場した。

画像下がMK3、上が後継機種のMasterSystem(日本国内版・1987年)。MasterSystemはMSX MUSICと同じYM2413(OPLL)が採用され、サウンド面の強化が図られた。これもMSX2→MSX2+(1988年)の微妙な進化に似ている。なお、MasterSystemは日本国内版にのみFM音源が搭載され、海外版は非搭載である。



 MK3のメインボードがコチラ。電源はDC9VのACアダプタで、標準的な2.1mmプラグが挿さるが、極性がセンターマイナスなので注意。テスト用途であれば同じ極性のファミコンのACアダプタ(DC10V)が使えるが、発熱量が増えるので長期運用は避けたほうが良いだろう。DC9V入力は電源スイッチを経由してヒートシンク付きのレギュレータで5Vに降圧され、内部回路は単一電源で動作する。

 映像+音声はRF出力の他、DINコネクタからコンポジットビデオ+音声出力を取り出すことができるのでケーブルを用意すれば一般的なTVモニターに映すことは可能。DINコネクタからは15kHzのRGB信号も出ているが、高インピーダンス出力でモニターに直結はできず、ビデオアンプを経由させる必要がある。

 コントローラ端子はMSXと同じD-SUB 9pの形状であるが、一部ピンアサインが異なり互換性がない。今回の記事ではこれら諸々の不満点について、MSXユーザーとして使いやすいように改造する。


VDP  315-5214
 ヒートシンクを取り外した状態。VDP 315-5124は64p/1.778mmピッチのパッケージとなっている。このあたりもMSX2のV9938に似ている。

VDPの左側がVRAM、右側がRAM。いずれもNECのuPD4168Cで、8bit x8kの疑似SRAM(XRAM)である。

画像右上には縦長のビデオエンコーダICを中心としたコンポジットビデオ信号生成回路がレイアウトされている。

ビデオエンコーダ周辺回路

画像クリックで拡大
 MK3の回路図はEnriさんのサイトに上がっているが、ビデオ周囲の回路は手持ちの個体を調べてみた。ビデオエンコーダはROHMのBA7230LSで、同じものが初代FS-A1でも使われている。これによりRGB信号から色差信号を経由してコンポジットビデオ信号に変換されるが、Chroma出力には対応していないのでS端子増設は不可。BA7230LSにはRGB出力(アンプ)機能はなく、外部RGB端子はVDPと直結されている。

余談だがMasterSystemではビデオエンコーダがSONYのCXA1146に変更されており、ネットを探すとS端子増設改造の事例も見つかる。FS-A1もMk2からは同じSONYのエンコーダに変更された。








電源の改修
 入手した機体にはACアダプタが付属していなかったが、内部は5V単一電源動作なので容易にUSB電源化が可能である。USBなら極性を間違うことはないし、今後ACアダプタの入手で困ることもないだろう。

基板をパターン面から見るとこのようなピンアサインになっている。

 2021年現在ならTypeC化がオススメであるが今回は手持ちのMicroB電源基板(秋月電子)を使ってみた。

元々ブレッドボード用の変換基板で接続ピンが奥まったところにしかないが、コネクタSHELLの固定穴にも細ピンヘッダを立てて補強した。これで6本のピンでマウントできる。

いつものようにピンバイスで穴を開けてレジストをアートナイフで削ってみた。左横の縦長の穴はナイロンバンド固定用。
 今回は半田でガッチリと固定した。片面基板なのでいずれ半田割れするかもしれないが、暫くは持つだろう。

部品面のジャンパー線は極性が逆になってしまうため引っこ抜き、ワイヤーで接続した。
USBコネクタはナイロンバンドで補強。

電源スイッチは接点が剥き出しなので軽く削って接点オイル(CRC556)を綿棒で微量塗布しておくとbetter(直接スプレーはギトギトになって樹脂パーツを劣化させるのでNG)。

 3端子レギュレータはヒートシンクごと撤去し、基板のIn端子とOut端子をショートする。これで5V系にUSB電源が直結された。レギュレータの撤去により約44%の消費電力削減が期待できる。

余談だが左下の丸いシールは、ジャンパー線とヒートシンクと接触しないように絶縁目的で貼られている模様。電源改修後は不要なので撤去しても構わない。





AV端子の増設
 AV端子が専用ケーブル経由だと何かと不便だし、RGBコネクタもMSX互換にしておきたいので、ビデオ出力周りは大胆に改修を行う。

まずは不要なRFユニットを利用してAV出力端子を増設することにした。RF出力のRCAコネクタはそのまま音声用として流用し、隣に丸穴を空けてコンポジットビデオ端子を増設した。
 元々RFユニットにはAV信号と5Vの入力端子があるが、AV入力端子はそのまま流用。改修したユニットは不必要な部品を撤去してワイヤーで直結しただけのシンプルな構造になっている。
 コンポジットビデオ信号出力部の回路図を抜粋した。今回の改修ではDIN端子に接続されているコンポジットビデオ信号(CV_DIN)をカットしてこれをRF端子のビデオ入力端子(CV_RF)にバイパスする。

具体的には、R112の1.2kΩを撤去して、R2の68ΩをR112パターンに移植。C106とR107を撤去してC106のパターンをショートすればよい。
 実際に改修した様子がコチラ。これでDINコネクタへのビデオ出力が無効化され、改造RFユニット上のAV端子が機能する。

左下の2本のジャンパー線撤去はRGBコネクタのMSXコンパチ化改造のためのもの。







RGB端子のMSXコンパチ化
 引き続きRGBコネクタの改修を行う。同じDIN8pでもMK3は馬蹄型コネクタが採用されていてMSXのRGBコネクタと形状互換性がない。

馬蹄型は2021年現在入手困難になってしまったが、円形はAitendoで取り扱いあり。
 DINコネクタは金属バンドで補強されている。気休めにしかならないと思うが、ジャンクなシールド板を切り出して似たようなバンドを作成してみた。
 改造前のコネクタはこのように信号がアサインされている。

電源ピンが含まれていることから、RGBアンプ内蔵ケーブルを発売するつもりだったのかも知れない。

 MSXコンパチにする場合はこのように変更する。通常は(AVC)と(Ys)はNCでよい。AVC側はコンポジビデオ改修時のR2撤去で切り離し済みだが、Ysはパターンカットで対応。

なお、古いCRTにあった「21pRGBマルチ入力端子」に接続する場合はAVCとYsをプルアップする必要がある。それぞれ10kΩを介して+5Vに接続しておけばOK。

RGB信号のうちRとBはアサインが共通しているがビデオアンプを経由させる必要があるのでカットする。これは前述のジャンパー線2本の撤去でOK。

その他Audio、GND、C.SYNC、G信号はパターンカットで対応した。
 RGBアンプを増設する際の信号取り出しポイントがコチラ。

ビデオアンプ SGM9119



 RGBアンプには3入力のビデオアンプを使うとお手軽だが、意外と取り扱っている通販サイトが少ない。自分はAitendoで売っていた SGM9119 を使ったが、Digikeyやマルツ経由で買えるTexasの THS7314DR でも行けそうな気がする(未確認)。この石は入出力ともにAC・DCカップリング両対応で、外付け部品が少なく、基板のパッチには都合がよい。




 SGM9119 のgainは6db(2倍)あり、そのままモニターに出力すると画面が明るすぎる。ブレッドボード上でテストしたところ、上記回路のように75Ωで分圧したら丁度良くなった。DINコネクタの手前にカップリングコンデンサを付ける場合は470uF程度を推奨するが、厚みが出てしまうので事前にケースに入るか検討するべき。





ビデオアンプの実装


 Vcc,GNDのレジストを削り、SGM9119をパターン面に直接半田付けした。RGB入出力信号はワイヤーで結線するが、出力側のパターンカットをお忘れなく。




 ビデオアンプを経由せずにモニターに直結したのが左画像。アンプを経由したことで右画像のように明るくなった。(画像はゆうくんさん提供)。




 RGB端子はMSXとピンコンパチなのでMSX用のRGBケーブル・モニタがそのまま流用でき、専用ケーブルがなくてもテレビに接続可能になった。電源のUSB化で専用ACアダプタを紛失する心配もない。

USB電源にはなるべくノイズの少ないものを用意する。林檎のマークの純正品がオススメで、1A出力で十分に稼働できる模様。




 ビデオ端子はガワの加工が必要となる。元々空いていた角穴をRCAジャックの中心に合わせて棒ヤスリで丸く整形し、ステップドリル(通称タケノコ)で広げて下画像のようになった。



コントローラ端子のMSXコンパチ化



 MK3のコントローラ端子のピンアサインはこのようになっている。この個体ではGNDが10Ω抵抗で接続されているが、おそらく電源ピンをショートさせたことによる故障事例があり、メーカーが対策を施したものと思われる。

画像左側のコネクタが1コンで右側が2コン用となっている。MK3のコントローラのトリガーボタンには1/2やA/Bの表記がないが、後発のMasterSystemで左ボタンが1(START)、右ボタンが2と定義されているのでこのような表記とした。




 こちらの画像はGNDの10Ω抵抗が無い個体である。 MSX仕様に改修する場合は下段左端のピン(トリガー2)をパターンカットで切り離し、隣のGNDと半田ブリッジで接続。下段右から2番目のピン(GND)もパターンカットして、先に切り離したトリガー2の根本と接続する。2コンも同様に処理。

トリガー1(A)や上段の+5V、上下左右はMSXとピン互換なのでそのままでOK。





続く!


 以上で一通りのMSXコンパチ化改造は完了。MSX用のRGBモニター、コントローラが使えるようになったため、ワイヤレスな猫の手リモコンとクッキリした画像でゲームプレイが可能になった。


画像は「セガハード大百科」より引用
 とはいえ、MasterSystem(国内版)のようにFM音源がないのでサウンドに物足りなさを感じる。MK3には後付けのFMサウンドユニットが販売されていたが、球数が少ないのか微妙に入手が困難。しかも、このユニットにはFM音源+DCSGの同時発音ができないとか、接続ケーブルがRGB信号を中継しないためにRGB接続と共存ができないといった、設計上の問題を抱えている。

いかにも後付なボテっとしたデザイン・・・。もう少しなんとかならなかったのか(笑。

FM音源はMSXと同じYM2413(OPLL)なのでノウハウの蓄積があり、純正ユニットが抱えていた問題点を解消した音源基板を制作し、本体に内蔵させてしまうことは可能だろう。ということで、次回はOPLL内蔵改造と、ついでにクロックアップを行う。

次回に続く!

 お約束ですが、この記事を見て修理・改造などを行い故障やその他問題が発生しても当方は責任を負いません。各自の責任において情報を広く集めて行うことをおすすめします。

この記事の内容は個人の憶測や見解の誤りを含んでいる可能性があります。内容についてメーカー各社に問い合わせるのは止めましょう。



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