苺が安く手に入る時期になってきたので久々に苺アイスクリームを作ってみた。我が家にあるアイスクリームメーカーはリサイクルショップで購入した松下のやつ。このピンクのキティバージョン「BH-941KT」はメーカー公式の情報がないが、調べてみるとコンビニか何かでやっているクジの当たり品のようだった。昨年、急にアイスクリームが作りたくなって購入したものだ。箱ナシ未使用品、新品の電池付きで2500円くらいだったと記憶している。説明書に印刷された発行年月がH16年12月となっているのでその頃の物らしい。ノーマル品「BH-941P」は現行商品のようで、普通に買うと5000円くらいするようなのでお買い得だった。
アイスクリーマーといえば、かつて「どんびえ」という商品があった。1983年発売の商品で、研ナオコによるテレビCMが盛んに流されていたので覚えている人も多いだろう。「どんびえがくるぞー!」といいながら画面にどんびえが迫ってくるCMだったと思う。当時は相当売れたらしく、いわゆるヒット商品だったようだ。wikipediaによると、日本軽金属というメーカーの製品らしい。どうでもよいことだが、ラベルには「アイスクリーマー」ではなく、「アイつクリーマー」と書いてあったことや、クソ暑い夏に汗だくになりながら買いに行ったことを思い出した。この製品のキモは蓄冷剤の封入されたアルミの容器であり、これをあらかじめ冷凍庫でギンギンに冷やしておいて、材料を投入し、羽根のついたハンドルをひたすら回すと15分くらいでアイスクリームができあがるという仕組みだった。作り始めの内は良いのだが、ハンドルを回しているうちに徐々に材料が固まり、やたらハンドルが重くなって子供にはちょっと辛い作業だった。生クリームと卵、砂糖、バニラエッセンスだけで作ったアイスはそれなりに美味しいものではあった。家族にも誉められたこともあり、自らの手で苦労して作ったアイスクリームは他のどのアイスより美味しいに違いないと思い込んでいたのだが、あるとき市販のアイスクリームと食べ比べて愕然とした。香り、味の深み、滑らかさで明らかに負けていると感じたのである。これをきっかけに作らなくなり、間もなくどんびえは押入れに収納されてしまったのだった。香料や様々な添加物で美味しく感じられるように作られた工業製品の味に慣れた子供には、手作りアイスの素朴な味わいは理解できないものだったのだ。
また、当時は今みたいに大型のフリーザーを持った冷蔵庫が一般的ではなく、実家にあった2ドア冷蔵庫にあのデカい蓄冷容器はとても邪魔な存在だった。結局、そのまま活用する機会もなく忘れ去られ、四半世紀ばかり押入れに入っていたのだった。それを思い出して一昨年発掘してみたのだが、残念ながら容器が膨張破裂しており、蓄冷材が漏出した上に結晶化し、使い物にならなくなっていた。調べてみると、この現象は1997年にリコール情報として新聞で公表されている。原因は経年劣化とされているが、この時にメーカーへ連絡していれば交換して貰えたのかも知れない。
ちなみに最近「どんびえ」と同じ仕組みのアイスクリーマーをセガトイズが販売しており、玩具売り場で見かけることができる。プレミアムくるりんアイスクリンという製品らしい。外観はどんびえととてもよく似ているし、原理はまさにどんびえと同じ。大小2種類のバリエーションや、ラクに作るための別売り電動モーターユニットといった商品展開がされている。お値段は結構するようで、大きいほうは定価7140円もする。「どんびえ」の発売時の定価は4800円だったらしいので時代が変わったとはいえ、かなり値上がりした印象がある。
ところで、「どんびえ」の仕組みは開発元である日本軽金属により特許が取得されていたらしい。80年代のブームの後も日軽プロダクツという子会社により細々と販売が継続されていたようだが、経営不振により平成17年9月に会社は解散、販売は終了している。特許権は申請後20年で効力を失うそうだから、セガトイズはこの製品を作るにあたり、特許料の支払いは発生していないものと思われる。なお、当時の開発者である上坂つとむの「道具箱」というブログで開発秘話を読むことが出来る。まさに「どんびえを作った男達」のようなストーリーなのでリアルタイムでどんびえを体験した方にはご一読をオススメする。
この松下のアイスクリーマーは、リチウム電池が使われている。冷凍庫の中で稼動させるため、低温環境下での特性に優れたリチウム電池を採用したのだろう。必要な電池はCR123Aが2個。電池の値段は定価だと2000円くらいするが、安い店なら600円程度で買える。説明書によると1回の電池交換で25回のアイス製造ができるらしく、ランニングコストとしては1回につき24円程度とそれほど悪くはないようだ。どんびえと違って容器はペラペラで蓄冷効果はなく、冷凍庫の中で羽根を断続的に回して材料をかき混ぜつつ、アイスを固める仕組みだ。この羽根やモーターはとても非力なもので、どんびえのように強力に羽根で空気を混ぜながらアイスクリームを練り上げることはできない。従って、舌触り滑らかなアイスクリームを作るためには材料の泡立てといった下ごしらえが必要で、ちょっと面倒ではある。
さて、今回のレシピは余りの材料などを使ったのでかなりいい加減だ。生クリーム150ml、自家製ヨーグルト200g、牛乳50cc、砂糖100g、卵黄1個、苺200gくらいだったと思うが、適当に投入したのであまり覚えていない...。手順は卵黄と砂糖を混ぜて、ヨーグルトを暖めてこれに溶かし、泡立てた生クリームとミキサーでつぶした苺を全部混ぜ合わせて容器に投入。生クリームの泡立て作業があるせいで、道具の洗浄が結構面倒だ。あとは羽根をセットして蓋をして、モーターユニットを装着して電源投入し、冷凍庫に入れておけば勝手に出来上がる。冷凍庫の中で時々モーターが回る音がするのだが、3時間くらいするとモーターは回らなくなる。説明書によると3時間で出来上がることになっているが、その時点ではまだ柔らかく食べるには早い。寝る前に仕込んでおくと翌朝できているという感覚だ。
これができあがった状態。あまり鮮やかな色ではないが、今回はあまり赤くない苺を使ったのでこんなもんだろう。赤みの強い苺を使うとまるで着色料で染色したかのような色合いも出たりするが、この品質のバラつき具合も手作りの味というものだ。
食感は、アイスクリームとフローズンヨーグルトを足して2で割ったような感じ。生クリームの比率が低いので舌触りは滑らかとは言い難い。味は素材そのままの予想通りの味といったところで、市販のコテコテのものと比べると味気なく感じるかも知れない。だが、この素朴さこそが手作りならではの味わいなのだろう。今日のカミさんはなぜかご機嫌斜めのようだが、出したら無言で食べていた。