似非P6ROM製品版

前スレはコチラ。

http://niga2.sytes.net/wordpress/?p=690

1年間塩漬けになっていた似非P6ROMプロジェクトは2021年11月から本腰を入れて開発再開。OPN2の音質は、高音質化改造されたメガドライブ実機と比較して劣らないレベルを目指し、最終的にOPN2のアナログ電源は+12Vからレギュレータで+5Vを生成して分離、OPAMPはアナログ+5Vの単電源とすることで比較的良好な結果が得られた。+12V電源を要するため、断腸の思い(嘘)でCASIOのMSXは対象外へ。

当初は裸基板でリリースするつもりであったが、試作機を剥き身のまま雑に扱っているうちにFlashROMが壊れる事例が発生したため、ケースは必要と判断。P6系の同人ハードで有名なBAKUTENDOさんの作品に倣って、リップルレーザーさんにアクリルパネル製造を依頼してみた。

前面パネルはクリアブルーを選択。製品名やロゴはテプラの裏貼りとした。コストはかかってしまったが、製品として恥ずかしくない仕上りになった。

PC-6601SRのスロットに挿した状態。程よい出っ張り具合。

もちろんT.Matsushima氏による「特攻空母BELUGA」も遊べる。ソフトウエアはFlashROMのバンク0にプリインストールされている。Mr.PCのファミべーキーボードアダプタや、赤外線ワイヤレスな猫の手リモコンシリーズは家電のケンちゃんで不定期で頒布中(売り切れ御免)。

MSXでは8kバンクで1MbitまでのMegaROMゲームを起動できる。コナミバンクやSCC付きのゲームも動作するが、SCC音は鳴らない。

スロットに挿入する際は逆差し防止機構がないので要注意。上面や背面スロットでは間違わないと思うが、セパレートキーボード機の前面スロットではラベル面が下を向く機種がある


音声ケーブルの接続

似非P6ROMには音声入力端子があり、MSX/P6本体からの出力音声とOPN2サウンドをミキシングすることができる。

ミキシング入力はステレオで、入力レベルはRV1/RV2で調整できる。接続には下のようなケーブルを用意する。

これは秋月電子の3.5mmステレオミニプラグオーディオケーブル(90cm)[DCB-AKI09]を切断してRCAプラグをつけた自作品。LRの芯線はまとめてRCAのセンターピンにハンダ付けした。なお、100均のケーブルは芯線にハンダ付けが困難なリッツ線が使われていることがあるのでオススメしない。

この組み合わせでも接続可能。共立エレショップで取り扱いあり。

出力端子からはラインレベルで信号が出るので、適当なアンプやアクティブスピーカーに接続すればOK。

上画像のようにMSXでVGM再生する場合は、プレーヤーのVGMPlay 1.3ににパッチを施し、Makoto(OPNA)の偽装工作を要する(後述)。MSX本体や周辺機器の状態によっては似非P6ROMでVGM再生出来ないので注意。具体的には、多くのSONY機(HB-F1XD/mk2/XDJ/XVなど)や拡張スロットなどで、スロットのデータバスとCPU間にバスバッファが存在する環境ではNG。MSXのスロットでは、IOデバイスのデータ読み取りの際に/BUSDIR信号でバスバッファに入出力方向の明示をすることになっているが、P6では/BUSDIRのピンに/ExCAS信号が割当たっており、戦士のカートリッジの拡張RAM制御に必要である。このため、似非P6ROMでは/BUSDIR出力をオミットした。これはMSX/P6両対応を実現するための「仕様」ということでご理解いただきたい。なお、松下A1シリーズの基本スロットにはバスバッファが存在しないため、この問題は発生しない(拡張スロットを使うとNG)。MSX用のOPN系音源は、いずれきちんと対応したカートリッジをリリースするつもりなので、主にMSXでVGM再生したいユーザーはそれまで待って頂いたほうが良いと思う。


VGMPlay 1.3パッチ情報

VGMPlay for MSXは下記サイトで配布されていて、ソースコードも閲覧できる。

http://www.grauw.nl/projects/vgmplay-msx/

2022年現在のVGMPlay 1.3はOPN2実音源には対応していないが、Makoto(OPNA)には対応している。OPN2のFM音源部はOPNAと互換性があり、似非P6ROMのOPN2のIOアドレスはMakotoと同じ#14-17hに割り当ててある。よって、Makoto(OPNA)に偽装することでOPN2の発音が可能である。

具体的にはVGMPLayのMakoto検出プログラムを書き換え、OPNAが存在するものと認識させればよい。ソースコードを読むと、OPNAの存在はステータスレジスタやADPCMレジスタを読み書きして確認しているようだ。以下にMakoto検出部分を抜粋。なお、Makoto_STATUS1はIOアドレス#16hを指す。

VGMPlay 1.3では、冒頭の IN A,(16h)が59F3hからの2バイト「DB 16」に該当する。ここをSCF ,RETにすればMakotoが存在することになるので「37 C9」に書き換える。これでOPN系のVGMデータが強制的にIOアドレス#14h-17hに流し込めるようになる。

OPN2クロックを変更する場合

似非P6ROMのOPN2クロックはMakotoに合わせて8MHzを選択している。VGMPlay 1.3ではMakotoのクロックが6C79hと6D8Chと725Chからの3バイトに「00 12 7A」と書かれており、10進数に直すと7A1200h=8000000となる。

似非P6ROMではオシレータを追加して8MHz以外のクロックをOPN2に供給することが可能。音源のクロックをメガドラ実機と同じ7.6704MHzにする場合はX1にオシレータ(EPSON SG-8002DC +5Vを推奨)を実装し、左のジャンパーピンを下側ショートにすればよい。VGMPlayの周波数設定は、7670400=750A80hになるので、「00 12 7A」 をサーチして「80 0A 75」と書き換えることになる。ここを直しておかないとPSGとミキシングした際に不協が生じる。

作者のGrawさんがOPN2に対応してくれるまでは、VGMPlayのバージョンが上がっても上記データのサーチ&書き換えで追従できるだろう。


似非P6ROMでVGM再生

実際にどのような音が出るのか、メガドライブのThunder ForceIVのVGMデータを使ってサンプリングしてみた。

MSX本体は初代FS-A1改。電源はiPadの純正ACアダプタでUSB化、内部の±12V電源はDC-DCモジュールで生成している。メガドライブのDCSG音はPSGで代理発音されるので、MSX本体の音声出力からケーブルで似非P6ROMのミキシング入力に接続し、音声出力をPCのUSBオーディオ(UA-30)を経由して録音した。

Thunder force IVの3番、4番、7番、11番、33番目の曲を各30秒収録した。fade out処理以外は無加工で、曲間の無音部にノイズが目立つが、ノイズ成分のほとんどは本体PSGサウンドに由来する。

OPN2単体の音質確認のために同じ曲を本体PSGミキシングなしで収録してみた。ホワイトノイズは聞こえるが、本体のデジタル信号由来のノイズはほぼ聞こえないレベルだろう。

そもそも、OPN2はホワイトノイズが多い石のようで、静かな曲を再生すると背後に雨が降っているようなノイズが混入する。特にThunder force IVの7番の中間部で顕著。こちらもPSGミキシングなしで収録。

この傾向は高音質化メガドライブ実機でも同様のようなので、YM2612実音源の特性なのだろう。


制限事項

似非P6ROMは、P6とMSX両対応とするために敢えていくつかの設計上のお約束を無視しており、そのため以下の制限が発生する。

  1. MSXで似非ROM機能とMSX-MUSIC(OPLL)の同時使用は不可
  2. MSXのVGMPlayでOPN2発音ができない環境が存在
  3. OPN2の割り込み機能は使用不可
  4. スロットに+12Vが供給されていない機種ではOPN2発音不可

1.についてはOPLLのIOアドレス(#7C-7Dh)と戦士のカートリッジのバンクレジスタ(#70-7Fh)が重複することが原因。MSXでの使用時も#70h-7Fhのバンクレジスタは有効で、ここに値を書いてしまうとアドレス空間4000-5FFFhのバンクが切り替わってしまう。OPLLアクセスで#7C-7Dhに書き込んだときも同様に切り替わるので似非P6ROMのFashROMにOPLLを使うソフトをインストールして運用することはできない。なお、これらのIOレジスタは書き込み専用なのでバス競合は発生しない。MIDI-SAURUSなど同じ理由で同時使用できないデバイスが存在するので、IOマップで確認を。

2.は既に解説しているが、スロットのデータバスとCPU間にバスバッファが存在する環境ではVGMPlayでの似非P6ROMのOPN2の発音ができない。具体的には多くのSONY製のMSXや外付けの拡張スロットが該当する。P6とMSXでスロット10pの役割が異なることが原因。FS-A1シリーズの基本スロットであれば問題なく発音できる。

3.はP6とMSXでスロット8pの役割が異なることが原因。MSXではCPUの/INTが繋がっているが、P6では/NMIが繋がっている。MSXでは音源の/IRQを/INTに接続すれば問題ないが、P6ではNMIが発行されてしまってNG。そのため、音源の割り込み機能はオミットした。P6ではスロットに/INTが存在しないので音源の割り込み機能の実装自体が不可能。

4.は、アナログ電源の生成に+12Vを使用していることが原因。OPN2はDAC内蔵音源であるため電源ノイズがモロに音声信号に現れる。MSXのVcc電源はデジタルノイズで酷く汚染されているため、音源のデジタル・アナログ電源の分離は絶対に必要。Vccに含まれるノイズはフィルター回路では十分な除去ができなかったため、比較的クリーンな+12Vを利用することにした。CASIO機(PV-7やMX-10等)ではスロットに±12Vが出ていないので似非P6ROMの音源は使えない。

バス競合のような致命的なエラーは回避できるように設計したつもりであるが、後から別の問題が出てくる可能性はあるかも…。


似非P6ROMのリリース計画

前スレに書いたように、OPN2音源の入手性には問題があるが、初回リリースのみ発音確認したリファービッシュ品を実装して頒布することにした。IC表面が削られてリマークされているので、見た目が怪しい点はご了解いただきたい。

 

音源部組み立てキット版

以後は音源部をキット化した半完成品を頒布する予定であるが、YM2612は各自調達が必要。音源ガチャでドロップした石を死蔵している方には最適かも? こちらも需要はあまり多くないと思うので少数で終息する予定。

似非P6ROMはどちらかというとP6寄りの設計で、MSXでの使用時に何かと制限があるため、主にP6での使用を想定しているユーザーにお求め頂ければ幸いである。

似非P6ROMの開発

MSXとPC-6001の類似性

MSXとPC-6001のシステムを眺めてみると、後発のMSXはPC-6001のシステムの一部を取り込んで設計されたと思われるような共通点が見えてくる。グラフィックキャラクターの配列が同じだったり、外部スロットの50pカードエッジコネクタのピン配列はVccやGNDの他、アドレス線とデータ線はまったく同じ配列になっている。

双方の50pカードエッジの信号配列は下記リンクで比較すると分かりやすい。

PC-6001 : https://electrelic.com/electrelic/node/517

MSX : https://electrelic.com/electrelic/node/516

表を一部引用させていただき、相違点を赤枠で括ってみた。

P6はカートリッジ上のDRAMが直で繋がるようになっていて、8000h~BFFFhのDRAM制御信号が1,3,5,10pに出ているが、MSXのDRAM関連信号は/RFSHのみ。

/CSxはROM用の信号で、MSXでは16kB単位、P6は8kB単位で区分けされている。いずれも当該アドレスのREADでアクティブになるが、MSXのROMには/SLTSLを絡める必要がある。

なお、初代P6とmkII以降では7,8,16pの役割が異なるようだが、MSXとの互換性を考える上ではあまり影響はなさそうである。

http://sbeach.seesaa.net/article/387861397.html

以上の相違点を理解すれば、MSXとP6のどちらでも使えるROMカートリッジが制作可能と思われた。

なお、MSXの/SLTSL信号 (4p)は、P6では/CS2(4000-5FFFh)になっており、この領域を使うP6のROMカートリッジであれば、特に細工をしなくてもMSXで吸い出しができそうに見える。更に、P6ROMの/CS2(2p)と/CS3(4p)を入れ替えてしまえば6000-7FFFhも吸い出せるだろう。


戦士のカートリッジ

P6用のカートリッジといえば、「TINYゼビウス」の伝説的プログラマ松島徹氏が2008年に新作ゲーム「特攻空母ベルーガ」を発表した際、これをROMカートリッジ化するためのMEGA-SYSTEM 6000 (戦士のカートリッジ)が西田ラヂオ氏によって設計されている。ソースはコチラ。

http://tulip-house.ddo.jp/digital/BELUGA/

回路図を引用:

MEGA SYSTEM 6000では、ROMは4000-5FFFhにマッピングされ、8kBx16バンクで容量は128kB、バンクレジスタはIO#70h(~7Fh)に置かれている。6000-BFFFhには拡張RAMが実装されていて、その内6000-7FFFhはREAD ONLYに設定できる(起動時は書き込み許可)。4000-7FFFhに擬似的なROMを置くことができるので、バンク0に起動メニューと転送プログラム、以後のバンクに既存のROMソフトのイメージを入れておけば、N in 1カートリッジを作ることもできそう。

ROMの/CSにはP6の/CS2が繋がっているが、このピンは都合の良いことにMSXでは/SLTSLにアサインされており、ROM領域だけならMSXからも読み取りできてしまいそう。ひょっとしたらMSXとP6両対応のメガROMカートリッジが作れるのでは?と思ったのが2020年7月の話である。


似非P6ROMの設計と試作

P6では「戦士のカートリッジ」、MSXではASCII 8k bankの「似非ROM」として機能するものができたら面白そうだし、ROMファイル書き込みに既存のソフトが流用できてオトクである。早速CPLDでロジックを錬成して基板を設計してみた。

P6はスロットが深いためこのような基板サイズになるが、スペースが余りまくりである。何か追加できないかと考えていたところ、秋葉原のFM音源ガチャでドロップした石があったことを思い出した。

せっかくなので、このFM音源(YM2612:OPN2)を追加してみることにした。OPN2ならDAC内蔵でお手軽だし、P6ならSRで採用されたYM2203(OPN)の後継チップなので相性もいいだろうと。

とりあえずオーディオ回路をテキトーに追加して2020年10月にできた試作基板がコチラ。IOアドレスはMSXのOPNAカートリッジ(Makoto)と同じ#14-17hに割り当て、VGMPlay for MSX 1.3をパッチしてOPNAを偽装したところ発音が確認できた。

P6実機でBELUGAが動作するか確認をしたかったため、TinyProjectのHashiさんにコンタクトを図ってみたり。その時のツイートがコチラ。

結果、両機種対応のMegaROMシステムとして想定どおりの動作を確認できた。しかし、音源部は無音時のノイズが目立ち、改修が必要。

もう一つの問題としては、OPN2の入手性。2020年の時点でOPN2は入手が難しくなっていて、Aliなんかだとほぼほぼフェイクだという情報が流れていた。試しに中華圏から取り寄せてみたところ、届いたのがコチラ(笑。

左下が音源ガチャのドロップ品でおそらく本物。それ以外は明らかなリマーク品。ただし、パッケージの形状は本物と変わらず、裏面にJAPANの凸モールドも確認できるのでフェイクとは断定し難い。ダメもとで似非P6ROMに挿してデータを流してみたら、なんと普通に鳴る石だった。どうやら本物の中古汚損品をリマークした「リファービッシュ品」と思われる。果たしてこれを製品に実装して頒布してよいものかどうか…。

以上の事情により音源付きでの製品化は困難と思われたのと、2020年は似非SDisk等の先行プロジェクトを優先させたため、似非P6ROMの開発はこのまま1年の塩漬けに…。(次回に続く)

ご注意

 似非P6ROMはP6でもMSXでも動作するように設計していますが、通常の戦士のカートリッジはMSXでは機能しません。それどころかROM/RAMでバスが競合が発生して故障の原因になるのでMSXに挿して電源を投入するのはやめましょう。

 

漢字FlashROM 初期ロット改修について

ご注意:2021年末をもって改修受け付けは終了していますが、記録として以下の記事を残しています。


当方より2021年10月にリリースいたしましたMSX用「漢字FlashROM」に不具合が発覚しました。

第一報(2021.9.30)

その後の調査で、故障の原因となり得るバス競合は発生しないと判明しましたが、動作不良を生じる可能性はありますので対象製品を回収し、CPLDを対策済のファームウエアに書き換えて返送します。詳しい原因や対策については下記文書をお読みください。ご不便をおかけして申し訳有りません。

調査報告書(2021.10.26)


対象製品

2021年9月25日~9月30日に家電のKENちゃんさんの委託販売にて頒布した漢字FlashROM基板と、ケース入り漢字FlashROM。

2021年10月以後の頒布品は改修済み製品になりますので対象になりません。


受付期間

2021年12月末日までとさせていただきます。お早めのお申し込みをお願いします。


改修受付窓口

このblog記事のコメント欄が受付窓口となります。コメント欄が見当たらない時にはこの記事のタイトル「漢字FlashROM初期ロット改修について」まで戻り、タイトルをクリックしてください。

お名前はネットネームで結構です。

必ずメールアドレス欄にご連絡可能なメルアドを記載してください。メルアドは非公開です。コメントは管理人による承認後に公開されます。投稿後にコメントが表示されなくても再投稿せずに数日お待ち下さい。

対象製品を所有されていることを確認させていただくため、ネットネームが書かれたもの(紙切れで結構です)と対象製品とご愛用のMSXの一部が一緒に写っている画像ファイルを添付してください。フォーマットはJPG,PNG,GIFでファイルサイズは32MB以内です。

添付画像例

以上で受付は終了です。1週間以内に当方より対象製品の送付先をメールでご連絡いたします。メールが届かない場合は、メール受信ソフトにより迷惑メールに分類されていることがありますのでご確認願います。


送付の方法

返送先を記載した宛名ラベルを作成してください。郵便番号、住所とお名前を記載した4cm x 7cm程度の白い紙きれで結構です。また、宛名ラベルの裏には申込み時に使われたメルアドを記載してください。メルアドにより申し込み者と現物の紐付けをしますので忘れずに記載してください。

宛名ラベルは製品の返送時に封筒に糊付けしてお返しします。返送先が分からないと製品をお返しできませんの忘れずに添付してください。

ケース付き漢字FlashROM、または本体内蔵のためにICソケットや連結ピンを実装されている場合は、重さが100gを超えないように、厚さが3cmを超えないように適当なクッション材で保護して宛名ラベルと一緒に封筒に入れ、日本郵政の定形外郵便で発送してください。送料は140円かかります。

基板単体の場合は重さが50gを超えないように、厚さが1cmを超えないように宛名ラベルと一緒に封筒に入れ、日本郵政の定形郵便で発送してください。送料は94円かかります。

参考:手紙の基本料金(郵便局)

https://www.post.japanpost.jp/send/fee/kokunai/one_two.html

参考:サイズ・重さの対応について(郵便局)

https://www.post.japanpost.jp/service/standard/one_size.html

いずれも送料は返送時に切手でお返しします。上記以外の手段で送付されても構いませんが、実際にかかった送料に関わらず、お返しするのは上記料金の切手で替えさせていただきます。


製品改修に要する時間

ポスト投函後2週間以内に改修品がお手元に届くように努力しますが、郵便事情によって遅れることもあります。返送は普通郵便で行います。2週間以上経過しても到着しない場合は当blogのコメントかメールでお問い合わせください。


ソフトウエアのUpdate

改修済みの漢字FlashROMに対するFlashROM書き換えソフトはKFLASH.COM ver.0.06 以降が必要になりますので、下記から最新版をダウンロードしてください。

http://niga2.sytes.net/sp

旧バージョンの公開は停止します。初期ロット製品を改修せずに書き換える場合はKFLASH.COM ver.0.06に「/I」オプションを付けて実行してください。


個人情報の取り扱い

お預かりした宛名ラベルに記載された個人情報は当方では複写・記録いたしません。そのまま製品の返送時に郵便物に貼付して返却します。

メルアドは当方サーバーに一時保管されますが、受付期間終了後にblogのコメントと共に消去します。


Xilinx CPLD書き換え環境をお持ちの方へ

下記JEDファイルをCPLDに書き込むことによって改修することもできます。自己責任において行ってください。当方ではCPLD書き換え方法に関するサポートはいたしません。未経験の方は郵送での改修をお申し込みください。

http://niga2.sytes.net/sp/kflash_jed.zip

数量把握のため、書き換えに成功された方はこの記事のコメント欄にご報告いただければ幸いです。

お手数をおかけしますが、以上よろしくお願いいたします。

LowCost版 似非ROM基板

おかげさまで家電のケンちゃんさんからリリースしている似非ROM基板はご好評いただいているようで、現在追加生産を行っているところだが、今回コスト削減を主目的とした新しい似非ROM基板を設計してみた。試作もできていない段階であるが、公開可能な範囲で情報を書いてみたい。

従来品はFlashROMと大容量EPROM両対応にしていたが、今回は割り切って4Mbit以下のFlashROMのみ、実装の難易度を考えてPLCC版を採用した。MX29F040のPLCC版を実装すれば従来品との互換性も保たれるが、MegaROMソフトのリリース目的で使うのであれば39SF040を使ったほうがコストを下げられる。2Mbや1Mbに容量削減できるなら39SF020や39SF010に変更することで更なるコストダウンも可能である。

MX29F040と39SF040はいずれも4MbitのFlashROMであるが、コマンドアドレス長が異なるため、書き換えソフトに互換性がなく、NGLOAD ver1.5xは39SF040に非対応(チェッカーのCKEROM.COMは両対応)。39SF040は専用ソフトでの書き換えが必要となるが、明確に従来の似非ROMと区別することで誤消去が防止できるメリットもある。このような理由から、39SF040版はMegaROMソフトのリリース用途に限定し、専用の書き換えソフトは基板データをライセンスしたサークルにのみ提供する(無償)。

FlashROMはセクタ単位での消去や書き込みができるが、39SF040はセクタサイズが4kBytesと小さいため(MX29F040は64kBytes)、FlashROM上にゲームのデータセーブエリアを設けるにも好都合だろう。書き換え寿命はあるが、データシートには10万サイクル可能と書かれているので気にする必要はなさそう。

基板上のJP1/JP2は8k/16kバンク切り替えと起動しないスイッチ用のものであるが、CPLDロジックのカスタマイズにより無効化することもでき、その際はR1、R2の実装を省略できる。

基板サイズは33×65.5mm。この大きさであれば10x10cmに3枚面付けできるため、基板単価は従来品の2/3に削減される。中華基板なら無電解金メッキで150枚見積もっても1万円でお釣りがくるだろう。

CPLDは従来品と同じXilinxのXC9536XL。3.3V品ゆえにレギュレータが必要になるが、5V版のXC9536がディスコンなので現状これがベストと思われる。現在入手可能な5V版のCPLDとしてATF1502ASLがあるが、マクロセルが少ないのと、単価が上がること、書き換え環境等のノウハウの蓄積がなく、採用するメリットが薄いと判断した。

XC9536XLのIOピンは5VトレラントなのでMSXのバスに直結しても問題なく動作する。ロジックはASCII MegaROMコントローラ互換を基本とするが、コピープロテクト目的でバンクレジスタの仕様を変更したい場合は要望に応じて柔軟に設定できる。また、パスワード式のWrite Protectを設定することも可能。

量産時はCPLDへの書き込み作業が発生する。DigikeyではCPLD購入時に書き込みサービスを受けられるらしいが、個人でもPCとFT2232Dモジュール(秋月電子で1500円くらい)があれば大して難しい作業ではない(と個人的には思っている)。

自作CPLDライター

参考:http://miyako.asablo.jp/blog/2018/03/18/8806391

自分は部品を主にDigikey(米国)、たまにMouser(同)で手配しているが、Digikeyは6000円以上で送料無料、1万円以下は免税なので毎月1万円ギリギリ下回るように発注している。MouserはDigikeyで足りない場合に併用がお勧め。USドルで支払うと税抜きで決済されるが、円払いだと1万円以下でも税込みで決済されてしまうので注意。コチラは50ドル以上で送料無料。

関税についての情報はコチラ。1回1万円以下でも同時期に分散発注したと判断されると課税される可能性があるので注意。

https://www.customs.go.jp/tetsuzuki/c-answer/imtsukan/1006_jr.htm

基板製造データのライセンス条項はコチラに書いているので、本気でMegaROMソフトのリリースを検討している個人やサークルの方は本記事のコメント欄にご連絡を。表のmail フォームはなぜかメールが届かなくなっているためご注意。


2021.2.5追記)実寸プリントで検証

先行して入手していた39SF0x0を基板イメージの実寸プリントに載せてみた。KiCADにはPLCC32pのフットプリントが2種類あり、それぞれ8:8と7:9で縦横比が違うため注意が必要。39SFは7:9のほう。手実装する場合は露出するパッドが小さすぎないかの確認を行い、場合によってはフットプリントを作り直す。現状で半田ごてを挿しこむ隙間はあるようなので問題ないだろう。

Overrich製ケースの場合、ボス穴は下側が適合する。基板が小さいのでスカスカで昔の16kBとかのROMもこんな感じだったが、MegaROMとしては最小かも。


2021.3.19 追記)試作しました

基板がようやく到着した。今回は春節の影響でやたら時間が掛かった気がする。いつものFuisionPCBで、送料が比較的安いJapanDirectを選択。ここは国内入りするまで発送ステータスが確認ができず若干不安になるが、佐川急便に引き渡されると佐川のサイトから追跡できる。3月3日発送ー3月17日到着なので2週間を要した。

基板は面付け+Vカット無料を利用して縦10センチに3枚レイアウト、表面処理は無電解金メッキとした。Vカットは手でパキっと分割可能。断面は適当にダイヤモンドヤスリで仕上げる。カードエッジの断端と接点の間に0.7mmのクリアランスを取っているので、30度傾けて紙やすりで擦れば「Gold finger beveling」の面取りも可能になっている。

LC版似非ROMと、ゲームソフトリリース用MegaROMの2種を実装してみた。違いはFlashROMで、MX29F040実装基板が従来の4Mbit版似非ROMとの互換品である。CPLDのピンアサイン等の変更をしたため、VHDLは書き直した。PLCC版のFlashROMも手半田で難なく実装できた。

ゲームソフトリリース用ROMには39SF040を実装し、テスト機の裸族XVに挿してみた。高さ33mmなのでやたら小さい。チェッカーCKEROM.COMがエラーなく通ったので、似非SDiskからMegaROMファイルのインストールを行ってみた。

39SFシリーズ用FlashROMライター(非公開)での書き込みもOK。既存のMegaROMゲームは問題なく起動できた。MA-Xさんのゲームソフト「CELIA for MSX2」の製品化に向けて一歩前進といったところ。

 

cocopar 13.3インチ LCDの改造

昨今のテレビはコンポーネントやS端子といった高画質アナログ系の入力端子が削除され、レトロ系デバイスを直に接続できるのがコンポジットビデオ信号くらいになってしまった。コンポジのボケボケ画面で我慢できるのは初代ファミコンくらいのもので、MSXでは文字の判読も困難である。

一部のPC用LCDでは正式に対応を謳っていなくても水平同期15kHzのアナログRGBを4:3表示できるものがあり、CenturyのLCD-8000Vや、cocoparの13.3インチIPS液晶が密かに15kHzに対応しているらしい。手に入る内に買っておこうとcocoparのものを2020年2月に楽天で入手した。残念ながら2020年6月現在はどこも品切れのようだ。

この製品、MENU長押しでファームウエアのバージョンを確認できる。ネットでは「Para V007」でないと縦横比が変更できないという情報があるが、入手した個体のファームはPara V007に該当。他のバージョンがあるかどうかは不明。

PC-6601SRに適当に繫いで表示テストしてみたところ、確かに15kHzの信号に対応しており、画面比4:3に設定可能のようだが、入力端子がいわゆるVGAコネクタ(3列Dsub15p)で、水平・垂直同期信号(HSYNC、VSYNC)にしか対応していないのがMSXユーザーとしては不満である。正攻法で行くなら外付けアダプタを作成し、ビデオシンクセパレータLM1881で同期分離することになるが、MSXのRGB端子にはLM1881をドライブできる電源出力がないので、別途ACアダプタが必要になってしまう。できればシンプルに直結したい…ということで、cocopar内部にLM1881を増設し、直接MSXの復号同期信号(CSYNC)を流し込めるように改造することにした。


この記事の情報を元に改造した結果、LCDモニタを壊してしまったり、身体や財産に不利益を及ぼしたとしても当方は責任を負えないので十分な知識とスキルを身に付けた上で自己責任にて行ってください。改造するとメーカー保証期間内であってもアフターサービスは受けられなくなります。記事の内容についてメーカーその他に問い合わせるのはご遠慮ください。


LM1881は、2pにコンポジットビデオ信号を入力し、1pにCSYNC、3pにVSYNCを出力するように設計されているが、経験的に2pにCSYNCを入力しても問題ない。1pから出力されるのはCSYNCであって、HSYNCではない点に注意。6pのコンデンサと抵抗は定数になっているので何も考えずにこのまま接続する。

手始めにブレッドボード上でLM1881のコンポジビデオ入力にMSXのCSYNCを入れ、1pと3pをcocoparのHSYNC、VSYNCに接続したところバッチリ映った。試しにVSYNCを外してみたところまったく問題なく同期した。実はこのモニタ、HSYNCにCSYNCを流し込めばVSYNCに信号を入れなくても映るっぽい。しかし、MSXのCSYNCを直にHSYNCに接続しても表示されない。問題は信号レベルで、通常CSYNCは0.3~1.0Vppであるのに対し、HSYNCはTTLレベル(4~5Vpp)である。CSYNCもTTLレベルが要求されるということのようだ。

MSX RGB出力端子のCSYNC出力(2V/DIV)

確認のためMSX(FS-A1FX)のCSYNCをオシロで測定したところ、1Vppになっていた。このままcocoparのHSYNCに接続すると振幅が足りないが、LM1881を通すことでTTLレベルに変換される(過去記事でも似たようなトラブルを経験をしている)。cocoparを改造するならば、HSYNCに入った信号を強制的にTTLレベルに変換してしまえばOKだろう。ここで、LM1881のデータシートを紐解くと、絶対定格として下記のように書かれている。

LM1881はVccが5Vの場合、入力信号は3Vppまでしか許容されないが、Vccを8V以上にすれば6Vppまで可。入力端子には0.3~5Vppの信号を接続することが想定されるので、3Vppしか許容できないのはマズイ。よって、LM1881は12Vでドライブすることにした。その時出力されるCSYNCのレベルをオシロで測定したところ、約10Vppになっていた。ちなみにVcc=5VだとTTLレベルの出力である。Vccが大きくなると出力信号の振幅も大きくなる点には注意が必要だろう。

LM1881 Vcc12VでのCSYNC出力(5V/DIV)

このレベルのままcocoparに突っ込むのは問題がありそうなので、LM1881で上げたレベルを再度落とすことになる。当初ツェナーダイオードで5Vに整形しようとしたがエッジが鈍って表示が横にズレたのでNG。シンプルに抵抗で分圧したところ良好な結果が得られた。諸々検証して書き上げた回路図がコチラ。

R93とR98が元からcocoparの制御基板に載っている抵抗。R93の手前で切り離し、スイッチでLM1881を経由できるようにした。CSYNC出力は手持ちの2.2kΩと4.7kΩを組み合わせて分圧したが、GND側並列の合成抵抗は1.5kなので1本に置き換えてしまっても構わない。これによりHSYNCの信号レベルは約4Vppになる。

制御ICにSYNC信号を流し込むポイントがコチラ。R93の100Ωチップ抵抗を取り外してパッドにジュンフロン線を接続した。R98は温存。パターンカットは不要。

外したR93は細かすぎて紛失したので(笑)裏面にリードタイプ100Ωをハックルーで貼り付けた。その他回路図通りに実装。なお、部品増設面の上にLCDパネルが載ることになるので、十分な隙間があるか確認しておいたほうが良い。極端に隙間が少ないとパネルにストレスが掛かった際に割れる危険性がある

MSXを直結できるケーブルも作成した。市販のVGAケーブルをぶった切ってDIN8pコネクタを取り付けただけである。DINの4p(CSYNC)はDsubコネクタの13p(HSYNC)に接続する。Dsubの14p(VSYNC)はNC。RGBとGNDはそのまま配線。

LM1881を経由した状態で実際に動作させてみたところ、CSYNC 1VppのMSXでもHSYNC 5VppのPC-6601SRでもPCのVGA信号でも問題なく同期した。VGA信号はダメかなと思っていたが、意外とLM1881は高解像度の信号にも追従する模様。信号スルー用のスイッチは無くても良かったのかも。

なお、今回はナショナルセミコンダクタ社のLM1881Nを使ったが、想定外の使い方をしているので互換チップではうまく行かないかも知れない。中華製互換ICのAT1881で試してみたが、発振してダメだった。同様の改造をする際は、実装前にブレッドボードなどで実験しておくことをお勧めする。


外部音声入力端子の増設

 

cocoparはスピーカー内蔵だが、音が出るのはHDMI接続時に限られる。ステレオ対応なのにスピーカーが縦に配列されていたり、薄いプラ筐体がスリットでスカスカなこともあって音質はよろしくないが、RGB接続時に使えないのは面白くない。ということで外部音声入力端子を増設する。

制御基板に搭載されているのはデジタルアンプIC「PAM8003」である(データシートはコチラ)。7pと10pが入力端子になっていて、cocoparでは制御ICからコンデンサ(C6,C7)と1kΩ(R12,R13)を介して接続されている。PAMの内部ではオペアンプに接続されているようなので、ここに0.47uFと1kΩを介して並列に外部入力を繫いだらミキシングされて音声が出せるかも、と思って試してみた。

データシートの図に追記するとこんな具合。PAM8003のINLとINRにカップリングコンデンサと入力抵抗を介して外部音声入力端子EXL,EXRを接続する。

1kΩのチップ抵抗をR12とR13の根元に付け足して、適当なチップコンを経由してワイヤーを接続した。画像だと大きく見えるが実際は結構細かい。GNDの黒ワイヤーは右下のコンデンサに接続。ワイヤーを引っ張ると部品がもげるのでハックルーで固定した。

片ChにMSXの音声出力を接続したところ、RGB表示時にスピーカーから音声が出るようになった。cocoparの操作ボタンで音量コントロールも可能。RGBケーブルを引っこ抜くと表示が消えると共に音声もミュートされたので、非表示時はアンプもシャットダウンモードに制御されているようだ。

HSYNCスルースイッチと音声入力端子はサイドのプレートに固定した。なお、HDMI接続時はこれまで通り発音されるが、同時に外部入力に信号を入れると音声がミキシングされて出てくる。HDMI側のスピーカー出力はヘッドフォン接続でミュートされるが、外部入力側はミュートされず、ヘッドフォンからも音声は出なかった。このあたりは割り切って使うしかないだろう。

ちなみにこのモニタ、一応VESAマウント対応らしいが筐体の成型が悪く、ネジ穴が樹脂で埋まっていた。一応中にネジは埋まっていたので適当に掘り起こして引っ掛け用の金具をネジ止めした。これで邪魔にならずに運用できそう。

ゲームトレジャー2に出展してみた

9月1日に札幌で開催された「ゲームトレジャー2」に行って来きた。第1回目は昨年12月に1回目が開催されていたそうで(知らなかった)、今回が2回目。北海道でこのジャンルのイベントが開催されるのは珍しく、猫の手リモコンなど自前の同人ハードの手応えを得る良い機会だったので出展を申し込んだ次第。

ウチの頒布品は猫の手リモコンシリーズのうち、1号(レトロPC受信機)、3号b(SFC改造PAD)、虎の手3号(SS改造PAD)、4号(FC受信機)と、電子工作マガジン掲載のデジタルアンプ基板、新作の猫の手モータードライバ基板。

前日にテーブルの大きさを想定して予行演習していたので、当日は無難に設営完了。画像では見えないが、MSXはカシオMX-10をモニターの裏側に設置している。MSXには猫の手1号を2本挿しにして沙羅曼蛇の1P+2Pのシンクロプレイを体験できるようにした。

猫の手リモコンは実機で応答性能を体験して頂くのが重要と考えていたので、少しでも興味のありそうな方にはお試しプレイをお勧めした。操作感覚は概ね好評で、ゲームでの遅延や通信途絶が起こらないことをご理解頂けたと思う。PADの電源に単4電池を使うことのメリット(交換が容易で長持ち)も重要なアピールポイントだった。

改造済みPADは家電のケンちゃんさんでは委託販売できない(商標権の問題を懸念)ため、今回のイベントで初めて完成品を頒布。ジャンク箱をイメージしたダンボール箱から好きなPADを選び、実際にボタンの反応などの動作チェックしてからお買い上げいただくスタイル。SFC型とSS型と同数用意したが、やはりというかサタパの方が人気。ゲームイベントだったので受信機の方はFC版の方が若干売れ行きが良かった。

ついでに頒布したデジタルアンプ基板も数名の方にお買い上げ頂いた。うっかり作りすぎた基板(のみ)は無料配布。一応アフターフォローとして、簡易説明書とPICマイコンのファームウエアを貼っておく。電源はアップル純正充電器をオススメ。

ちなみに、隣の隣のブースのM.K Workshopさんは以前にウチのサイトでドリキャスのスピンドルモーターを共同購入された方と判明。PC-8001シリーズのPCG互換ボードを作っていたり、QD(クィックディスク)システムを弄り倒していたりとハイレベルで、会場内の数少ない同人ハードウエア系の出展者として仲間意識が芽生えたり(笑。

反対側の隣の隣のブースはゲームショップ1983さんで、店長はMSXサークルSYNTAX代表のいまむら氏。奇しくも会場はかつてSYNTAX主催のMSXユーザーの集いが開催されていた場所と同じ(建物はリニューアルされているが)で感慨深いものが。店長さんとスタッフさんには猫の手リモコンをお買い上げいただいた(ありがとうございました)。

一般参加のお客さんにも昔ウチのサイトを見ていた方がおられたり、これまでの活動も無駄ではなかったと思った次第。お客さんには代わる代わる猫の手リモコンの体験プレイをして頂き、充実した4時間であった。もっとハードウエア系の出展が増えればいいなと思いつつ、機会があったらまた出展するかも。

古い扇風機を200円でスマート家電化してみた

最近急に暑くなって北海道でも熱帯夜が観測され、家電量販店では扇風機が品切れになっているらしい。我が家でも扇風機を引っ張り出して使っている。1999年、あの「恐怖の大王」が降りてくるはずだった夏に買ったものだ。この年は「北日本では平年よりも1.5℃も暑く、観測史上3番目に暑い夏」だったらしい(Wikipediaによる)。

F-C311T-H(改造後)

うだるような連日の猛暑に耐え切れず、そうご電器YES(2002年経営破綻)にチャリで買いに行ったのだが、扇風機が売れに売れて廉価モデルは品切れ。当時としては高級なこれを買うしかなかった。

松下家電がPanasonicで統一される前のNationalブランドである。20年目を迎えているがまだ普通に使える。とはいえ、古い扇風機は配線やモーターの劣化による発火事故の事例があるそうなので、非在宅時は使わないほうが良いだろう。

コンソールはマイコン制御の4ボタンで、タクトスイッチが仕込まれている。ガッチャンスイッチの安物よりは近代的であるが、リモコンがないので操作は面倒。新しいものに買い換えれば済む話ではあるが、まだ使そうだし、ネタとして面白いので赤外線リモコン対応に改造してみることにした。


Amazon Echo Show5 とeHome mini

赤外線リモコンは既に枯れた技術であるが、AmazonのEchoシリーズ(アレクサ)と赤外線送受信機(eHome)と連携することで、スマート家電化できるというメリットがある。寝ながら「アレクサ、扇風機消して」が実現可能になるのだ。

電子工作マガジンのアンプ

ちなみに小生が電子工作マガジン2016年冬号で発表したデジタルアンプは赤外線リモコン制御のため、このままeHomeに対応可能。アプリで「テレビ」として登録すると、電源、ミュート、音量、入力切替のすべての機能が音声制御できる。組み立てキットを「家電のケンちゃん」さんで頒布中。


今回扇風機用に用意した制御回路がコチラ。使用マイコンはデジタルアンプと同じPIC 12F629。プログラムもチョチョイと改造して再利用した。仕様としてはこんな具合


  • 送信機はテキトーな家電リモコンを使用(NEC,SONY,家電協フォーマット)
  • リモコン信号を学習して、内部EEPROMに保持
  • OUT0はオルタネイト動作(リモコン操作の度にL/Hレベル切り替え、初期値H)
  • OUT1,2,4,5はモーメンタリ動作(リモコン操作時のみLレベル)で、オープンドレイン出力

オルタネイトx1、モーメンタリx4出力あるので、そこそこ応用が利くと思う。実際に書き込んだプログラムのHEXファイルがコチラ

できた基板はこんな具合。材料原価は200円程度。IRモジュールはガワから顔を出したときに違和感の少ないタイプにした。なお、元の扇風機の制御マイコンのVccレベルが5.7Vであり、PICの定格5.5Vを上回ってしまう問題が発生。そのため電源ラインにダイオード1本挟んで降圧した(順方向電圧降下を利用)。

扇風機の4つのタクトスイッチは押下時に信号がGNDに落ちるタイプで、いずれもモーメンタリ動作なので、PIC出力信号はOUT1,2,4,5の4本を使用しOUT0は不使用とした。なお、各信号は5.7Vに内部プルアップされており、ダイオードで降圧したPICマイコンのVccレベル(実測値5.3V)とは微妙なギャップがある。出力電圧同士がぶつかることはないが、PICのGPIOに微妙に高い電圧がかかってしまうため、気休めに100Ω抵抗を挟んでおいた。また、改造部分はポリイミドテープで保護している。


初回使用前にはリモコンコードの登録が必要となる。家電用リモコンなら大抵のものは使えるが、扇風機用のものが入手できればベスト。コードは下記手順で何度でも再登録でき、EEPROMに保持されるので電源を切っても問題なし。なお、手順3で無反応のリモコンは非対応フォーマットなので他のリモコンを使うべし。

  1. PIC4p(GP3)のジャンパをGND側にして電源投入(初回起動時は不要)
  2. ジャンパをIRモジュール側にする(LEDがチカチカ光る)
  3. OUT0に割り当てたいリモコンのボタンを押す(LED点灯)
  4. OUT1,2,4,5に割り当てたいリモコンのボタンを順に押す(LED点滅)
  5. 登録完了するとLED消灯

組み込んだIRモジュールは感度良好。5m程度離れているところからリモコンを明後日の方向で操作しても問題なく応答した。

あとは、eHomeアプリでリモコン信号を登録し、Amazon Alexaアプリでデバイス登録すればスマート家電化が完了する。2019年8月現在では、eHomeアプリが扇風機のスキルに対応していないため、とりあえず「電球」として登録し、デバイス名を「扇風機」に設定。電源スイッチと風量スイッチのみ音声入力対応にした。これで「アレクサ、扇風機消して」や、「アレクサ、扇風機明るくして」といった音声コマンドが使えるようになった。

この手法で、他にも様々なデバイスが安価にスマート家電化できると思われる。腕に覚えのある方は夏休みの工作にでもチャレンジして欲しい。


お約束ですが、この記事を参考にして家電製品等の改造に着手し、その結果製品の故障や火災等いかなる被害が発生しても当方は責任を取れません。電気に対する正しい知識、および工作スキルを身につけた上で自己責任にて行ってください。また、家電メーカーへのお問い合わせもご遠慮ください。

イースタイン グランドピアノ 杵淵250型

前回に引き続き、イースタイン(東京ピアノ工業)のグランドピアノのまとめ、第4回はいよいよ当方所有の杵淵250型。イースタインとして4番目のグランドで、「日本一の調律師」といわれた杵淵直知氏によるオリジナル設計のピアノである。以前の記事で紹介した旧250型とは全く異なる設計のもので、明確に区別するためここでは「杵淵250型」と呼称する。

イースタイン 杵淵250型 1965製

奥行きは当方による実測値で187cm。先行の150型は奥行き159cm、350型は192cm(ピアノ屋ドットコム公表値)であり、その中間の大きさという理由で250型と命名されたらしい(p.96)。とはいえ、350型との違いは5cm程度で見た目の印象はほとんど同じだろう。旧250型が185cmなので、280型あたりが妥当なネーミングではないかと思うが、命名の時点で旧250型は忘れ去られた存在だったのだろうか(実際に完成時期はおよそ10年の隔たりがある)。旧250型はタマ数が少ないために混同するようなこともなかったのかも知れない。


おことわり

現物が希少であり、比較検討のため必要と思われる画像はネットで集めたものを引用・転載しています。資料性を鑑みて、オリジナルを改変せず、できるだけ引用元を明らかにしています。現行の著作権法上認められる研究目的の引用と解釈していますが、権利者からの申し立てがあれば削除等対応します。


参考文献「響愁のピアノ」

杵淵250型については書籍「響愁のピアノ」の第6章「『日本一』の調律師、杵淵直知を迎えて 250型の開発」として記述されている。以下に冒頭部分を引用する。


数あるイースタインピアノの中で、グランド250型は極めてオリジナリティが高い。技術顧問として出入りしていた東京の調律師杵淵直知がひたすら音色の良さを求めて独自に設計し、商品化にこぎつけたものだ。(P.89より引用)


杵淵250型が誕生した経緯について、文献の内容を要約して紹介する。設計者の杵淵直知氏は1925年に調律師杵淵直都氏の子として生まれ、1947年ヤマハに委託生として入社し、大橋幡岩氏(大橋ピアノ研究所の創設者)に師事。5年の修行を経て父の杵淵ピアノ調律所に入ったが、海外の一流ピアノの音創りのノウハウを身につけるため2年半西ドイツへ単身留学し、グロトリアンやスタインウエイの工場で修行を積み1963年帰国。スタインウエイのピアノに惚れ込んだ氏はその魅力を最大限取り入れた独自のグランドピアノを作りたいと考え、イースタインがそれに手を貸すことになった。(p.89-p.92、海外留学については氏の著書「ピアノ知識アラカルト」p.86に記述あり)

参考文献「ピアノ知識アラカルト」

当時の時代背景として、「販売競争が激化する中で、ピアノの音色はより硬く、金属的な鋭さを加え始めていた(響愁のピアノ p.91)」とも書かれており、先行の150型、350型とは異なる(スタインウエイ的な)パワーのある音色を目指して設計されたことが伺える。

イースタイン 杵淵250型 1965製

先行のイースタインのフレームはほとんどが海外製品を実測・模倣して設計されたものだったが、このモデルは完全に杵淵氏のオリジナルであり、いくつかのユニークな点が認められる。以下に文献「響愁のピアノ」より引用する。


実物大の平面図を見て、イースタインの社員たちは息を呑んだ。鉄骨の柱が1本多いのだ。低音部の最外周にケースの内側をなぞるように柱が通っていて従来の150型や350型とも、いや他社の鉄骨とも明らかに形が違っていた。ピン板をはめ込むくりぬき窓も五つ(350型は四つ)あって仕切りが一本多いせいか、間口もやや広い感じがする。(以上p.92より引用)


イースタイン 杵淵250型 低音部最外周の柱

上画像が「1本多い」外周の柱で、外周に沿ってぐるりとボルトで固定されている。フレームの重量を外周均等にかけ、響板のバランスを整えるという意図があったのかも知れない。おそらく杵淵氏による実験的な試みと思うが、現代のピアノに同様の構造が採用されていないことを考えると、効果のほどは期待できないような気はする。

ちなみにスタインウエイの場合、外枠(リム)も音響装置と考え、響板とリムを隙間なく接続して全体を響かせる構造になっているそうだ(参考資料:島村楽器公式ブログ)。響板の外周をフレームで押さえつけてしまう杵淵250型とは対照的である。

「1本多い」外周の柱には杵淵モデルである証「Designed by N.Kinebuchi」のエンボスがされている。杵淵250型の第1号は完成時に素晴らしい音色を出したそうで、氏はあまりの感激に鉄骨にKINEBUCHIとサインを入れたという逸話がある(p.96)。その後もサイン(刻印)はしばらく続いたとされるが、やがてこのモデルの仕上がりにムラがあることが判明するとサインをやめてしまったそうだ。おそらく画像のエンボスとは別に杵淵氏本人によるサインが入った個体があるものと推測される。

第1号の完成時期は明示されていないが、書籍の記述では、杵淵氏がヨーロッパから帰国したのが1963年11月で、それから間もなく開発が始まったとされる(p.92)。着手から約1年で第一号が完成した(p.96)ことから、1965年初頭ではないかと思われる。当方所有の個体は1965年12月製造であるので、1号機完成から1年以内に作られたものだろう。既に鉄骨のサインをやめてしまった後の個体と考えても矛盾はない。

イースタイン 杵淵250型 ピン板くりぬき窓の仕切り

上画像の中音域のピン板を二分している縦の支柱が通常のピアノより1本多い仕切りである。これがあるから優れているというものではないだろうが、YAMAHAピアノでここに仕切りを設けているのはフルコンサートのCFXのみである。おそらく奥行きの長いフルコンではフレームの歪みを抑制する意図があるのだろうと思うが、190センチクラスの杵淵250型では特に意味は為さないのかも知れない。

イースタイン 杵淵250型 フレーム肉抜き穴

書籍では触れられていないが、個人的にはこの肉抜き穴が独特だと思う。ここは円形に開窓しているピアノが多いが、杵淵250型ではできるだけ広い穴面積を確保したいという意図が見える。そのために左右の支柱のリブをアーチ状に結合し、強度を稼いだのだろう。響板の振動をできるだけ殺さずに肉抜き穴から放出しようと考えたのではないだろうか。

このピアノにかけた杵淵氏の意気込みは相当のものだったそうで、当時の職人たちにうるさいほどの注文をしたとされる。以下に書籍から引用する。


まず駒の加工が実にやっかいだった。通常は放物線のような自然な曲線を描くが、今回は中音部の最初の三音分だけが「くの字」に曲がっているのだ。低音部からの音の移行が滑らかになるよう、弦を長めに張るための工夫だ。しかもこの三音について、杵淵は巻線を使うことを求めた。(以上p.94より引用)


イースタイン 杵淵250型 くの字の駒と巻線

上が画像の左側の3音部の駒が「くの字」とされている部分。ここだけ弦を巻線にした上で有効弦長を「短く」しているように見える。有効弦長と巻線による関係はコチラのサイト(ピアノの仕組み「低音部の弦設計」)に書かれている。弦の倍音成分は理論値より高い音になる傾向があり、この現象を「インハーモニシティ」というらしいが、文献「ピアノ知識アラカルト」にもこれについての記述がある。以下引用する。


実は音楽家も調理師もオクターヴが完全に合っていると感ずるのは、下の音の二倍音に上の音が合っている場合なのです。簡単な理論では二倍音は原音の二倍の振動数を持っているはずです。しかし実際のピアノでは違うのです。ピアノの絃は硬質の鋼線で太さもチェンバロ等と比較すると相当に太いもので、特に高音部は他の部分と比べて長さの割合には太いのです。硬く太く短ければどうなるか―二倍音にしても、原音に対して正確な二倍や三倍の音は出さずに、それよりも高い音を出すわけです。どうしてそんなことになるのか―硬く太く短ければ、分割して発生するべき倍音の節の部分が点ではなく、ある長さだけ動かないと考えられます。すると振動する長さはそれだけ短くなり、原音に対して二倍音は二倍以上の振動数を持ち、三倍音は三倍を越える音となり、四倍五倍となるに従って原音と実際の倍音との違いは大きくなっていきます。

中略

さて、調律師にとって一番いやなことは、高音域に達したときに1本の絃がその倍音(正確な倍数でないことはすでに述べた)と干渉してうなりを発すること、特に日本の多くのアップライトやヨーロッパのものではベヒシュタインの高音部に多いし、また低音でも巻線部分に入ったとたんにオクターヴを合わせると十度のうなりが少なすぎたり、五度で合わせればオクターヴが全く合わなくなったり困惑することがあります。(ピアノ知識アラカルト P26-29より引用)


インハーモニシティを小さくすることだけを考えれば弦を「細く長く」する方が有利であるが、氏は自身の調律の経験を基に、裸線と巻き線で特性が急激に変化しないように、移行部の3音の弦を敢えて「太く短く」設計したと思われる。

引き続き、駒の設計について以下文献より引用する。


「響板との接着面は小さい方がいい」という要望を受け入れて、駒の両脇を少しずつ削る作業も加わった。「少しでも響板を軽くしたい」という考えから、響板と駒の接合には従来の木ねじを使わず、ハンマーシャンクと同じ丸棒を使うことになった。スタイウェイもこの方式だが、木ねじを使うよりも工程が複雑化する。ピアノ全体が響きを作るようにと、支柱材を広葉樹のブナから針葉樹の赤松に替え、材料費もかさむことになった。(響愁のピアノ p.95より引用)


イースタイン 杵淵250型 駒接着面のくびれ

画像では分かりにくいかも知れないが、駒の下部が細く削り取られていてくびれている。反対側も同様で、響板との接触幅が一定になるように削り取られているように見える。

イースタイン 杵淵250型 響板

響版と駒の接合部は響棒を貫く部分のみ木の丸棒で固定されているが、その他は木製のワッシャーと金属ネジが使われている。その間隔にも何らかの意図があるのだろうか。

イースタイン 杵淵250型 支柱

「針葉樹の赤松」とされる支柱は放射状に配列されている。確かに木目はブナというより針葉樹に見える。ブナより赤松の方が柔らかく、構造材としては不利な気がしてしまうが、杵淵氏は自著でこう語っている。


バックの柱にしてもそうである。あれは強度の一部としての支柱の意味と、振動を各部につたわらせ楽器全体を鳴らせる意味で、振動の伝わりの早い松柏類を多くの場合に使うのだが、ごく最近(注:記事掲載は1974年)までは、もっとも振動伝達のおそいブナ材が使われていたのである。機械として把握していて、楽器として考えられていなかった証拠である。(ピアノ知識アラカルト p.100より引用)


同様の考えから支柱の材に針葉樹を採用しているメーカーにベーゼンドルファーがある(参考リンク:宮地楽器)。なお、2019年現在ブナよりも赤松の方が安価のようであるが、楽器用の材木となると事情は異なるかも知れない。

イースタイン 杵淵250型 響板ロゴ

1965製の杵淵250型の響板ロゴは最も後期のバージョンになっている。周囲に四角い色ムラが生じているところを見ると、このサイズのデカールなのだろう。イースタインの響板の材は「響愁のピアノ」p.23によると北海道産のエゾ松とされているが、杵淵氏は自著で昭和30年頃に資源が枯渇したと書いている(ピアノ知識アラカルトp.83)。よってこの個体の響板の材料は不明。なお、エゾ松といっても俗称クロエゾマツとアカエゾマツの二種類あるらしく、どちらも楽器の材料として使われるが、特に優秀なのは別種のアカエゾ松だそうだ。鳴りの良し悪しは響板の材料だけで決まるものではないが、杵淵氏は自著でこう語っている。


いちばんたいせつな響板にしても現在(注:1974年)日本のエゾ松を使ったピアノなどほとんど見当たらない。良質なエゾ松はピアノの材料としてルーマニアのフィヒテにひじょうに近い性質を示し、音に伸びがあり粘りがある。しかし、現在のあらゆるピアノに使われているアラスカのスプルースは材質に粘りがなく、バンーと瞬間的な頭でっかちの音は出るが、何か索漠たる音でバーンとはいかない。それでも売る方は日本人が外国に弱いのを見込んで、「世界でいちばんピアノに適した木をアラスカから輸入している」という。買うほうは音がわからないから、日本のエゾ松を選んで使っているなどというよりも何か高級なもののような気がして、これはアラスカの木だなどと喜んでいる。(ピアノ知識アラカルト p.100より引用)


フィヒテとは「ドイツ唐檜」ともいわれ、ヴァイオリンの表板にも使用される材だそうだ。氏の物言いは手厳しいが、国産エゾ松を響板の材として高く評価していたことが伺える。とはいえ、1974年には既に良質な国産エゾ松材は手に入りにくくなっており、使いたくても使えなかったという事情もあるだろう。なお、氏は「技術の自信に裏打ちされた斬新で直感的な発言が国内の大手メーカーからは疎まれる存在でもあった。(p.91)」とのことで、著書ではA社、B社と社名は明らかにしないまでも国内メーカーに対して厳しい異見を述べていたりもする(p.112)。

ちなみに氏が酷評していた「アラスカのスプルース」は現在のピアノの響板材料としてスタンダードなものであるが、スタインウエイの響板にも使われているらしい。もっとも、大量の材から厳選した素材だけを使っているために、非常に歩留まりは悪そうである(参考:島村楽器公式ブログ)。要はスプルースでも良質な部分だけを適切に使えば優秀な響板は造れるというということなのだろう。

杵淵250型 響板木目(材料不明)

道産アカエゾマツについては、こちらのサイト(えんがる歴史物語)よると「戦後復興のためにほとんどのアカエゾマツの木を伐採」してしまったらしい。現地企業の北見木材株式会社は昭和25年に日本楽器(現在のヤマハ)に国産アカエゾマツの原木を送るために創立された会社だそうで、ヤマハのグループ会社という扱いになっている。現在の製品は大半が輸入木材の加工品らしいが、ピアノ響板の国内シェアは70%、世界シェア16%というのだから大した優良企業である。北海道の冷涼で乾燥した気候が響板の製造には適しているのだそうだ(参考資料:開発こうほう 2006年7月 北海道開発協会)。

資源としては枯渇してしまった道産アカエゾマツであるが、楽器用材としての優れた性質を見込まれて植林はされており、ヤマハが2013年に76年生のアカエゾマツ5本(伐採は2008年)を使い、ピアノ14台分の響板を試作したところによると、性能試験には合格のレベルであり、人工林材が響板材として有用であることが示唆されたとのことである。しかし、人工林は2014年の時点で30年生以下の若い樹木が大半で、今後資源として活用するには無節材に育てるための「枝打ち」という手入れと30年の歳月が必要になるらしい。(参考資料1:ピアノ響板材料としての可能性 林産試験場)(参考資料2:アカエゾマツ人工林材でピアノ響板を作る 道総研)

以上の経緯を経て、2016年には北見木材(株)と北海道オホーツク総合振興局、遠軽町の三者により「『ピアノの森』設置に関する協定書」が締結され、将来ピアノの響板の材料として北海道産のアカエゾマツ材を安定的に供給できることを目指した森づくりの活動を行うことになったそうだ。数十年後には国産エゾマツを使ったピアノが作られる時代が来るのだろう。(参考資料:遠軽町広報ページ

丸瀬布 郷土資料館の展示物(2010年撮影)

余談であるが、自分は2010年に当地の丸瀬布を訪れ、かつての林業で活躍したSLや、ピアノ部品の展示がされている資料館を見学したことがある。旧blogに関連記事あり。


少し横にそれてしまったが、杵淵250型の話に戻そう。当方所有個体の鍵盤蓋のロゴは文字の角にトゲトゲのあるタイプで、最もよくみかけるものだ。ロゴは数種類のバリエーションがある模様。

杵淵250型 鍵盤蓋ロゴ(当方所有)
杵淵250型 鍵盤蓋ロゴ (したんだピアノblogより引用)

上の個体は角に丸みがあるバリエーション。

イースタイン 杵淵250型 鍵盤蓋ロゴ(SASAKI PIANOより引用)

コチラは滅多にみかけないタイプだが、縦長の書体になっていて印象が異なる。杵淵250型は受注生産で個体数は少ないし、あまり長期間生産されたとは思えないが、なぜかバリエーションが豊富である。

杵淵250型 鍵盤(当方所有)

当方所有の杵淵250型の鍵盤には水牛の角と黒檀が使われている。水牛の角は皮膚が変化したもので物質としては蛋白質らしい。そのため虫食いの被害が発生することがあり、あまり長持ちしない素材なのかと思いきや、ウチの個体は製造後50年以上経過していても割れや黄ばみが発生していないし、手触りも悪くない。きちんと使ってあげれば虫が食うこともないだろう。

杵淵250型 水牛の角鍵盤

欠点は表面が均質ではなく微細な窪みが黒く汚れて見えることか。水牛角はベトナムでは工芸品の材料として割とメジャーな存在のようで、食器や小物に加工されている。加熱して曲げたり伸ばしたりすることもでき、加工性は悪くないようだ(参考リンク)。ハンコ業界では象牙の代用品として使われているし、象牙鍵盤の代用品としてもっと使われていても良い素材と思うが、ネットで調べても他の事例を見つけられなかった。

ところで、「完成第一号のピアノは当の杵淵も驚くほどの素晴らしい音色を出した(p.96)」とされる杵淵250型であったが、先に書いたように仕上がりにムラがあることが判明する。以下に響愁のピアノより引用する。


第一号のように比類ないまでに素晴らしい音を出すものがあるかと思えば、嶋本や鶴来らベテラン調律師がどんなに手を尽くしても、美しい響きを得られないものも出てくるようになった。材料は厳選するし、もちろん工程に手抜きなどありえない。どうやら設計上の問題点があったようだ。それでも受注生産だから多少響きが悪くても出荷しない訳にはいかず、杵淵モデルに対する愛用者の評価は真っ二つに分かれた。もっとも独り歩きするのは悪い噂だけ。「イースタインは杵淵に踊らされて、結局あの程度のものしかできなかった」といった業界の風評も瀬島の耳に入ってきていた。杵淵は決して口には出さなかったが、だんだんと不本意さが募ってきたのだろう。鉄骨のサインも止めてしまう。(響愁のピアノ p.97より引用)


当方所有の杵淵250型は旧blog記事で書いたように、H8年に販売店で試弾した上で購入したものだ。試弾といっても当時の自分はほとんどデジタルピアノしか弾いていなかったので評価能力には問題があったと思う。それでも当初から鳴りのバランスの悪さは感じていた。低音は鳴り過ぎるくらい鳴るし、高音も突き抜けるようによく響く。しかし曲を演奏すると、主旋律を奏でる音域の音量が足りず、聴きたい音が十分に聞こえてこない。試弾では同一価格帯の他のピアノにも触れてみたが、似たような傾向があったので安価な中古ピアノはそういうものなのか、もしくは自分の演奏のクセが悪いのだろうと解釈していた。

書籍「響愁のピアノ」はH9年の発行でピアノ購入時にはまだなく、「設計上の問題点」についての記述は後に知ることとなったが、自分が感じている特定音域の伸びの悪さがこれに該当するのかどうかは判らないし、長年他所のピアノに触れる機会もなかったものだから、実際に問題点があるのかどうかも判然としなかった。調律時には要望を伝え、ある程度バランスは改善したものの、鳴りの悪い音域に合わせて他の音域の鳴りを絞る方向でデチューンするしかなく、不満点が解消したとは言えなかった。書籍の「ベテラン調律師がどんなに手を尽くしても、美しい響きを得られないものも出てくるようになった。」が自分のピアノに該当するとは思いたくなかったが、仮にそうであっても「日本一」の杵淵氏が問題の本質に迫れなかったことを考えると素人の自分にはどうしようもないと半ば諦めの境地でもあった。

しかし、H30年にピアノのレッスンに通うようになり、複数のYAMAHAのグランドC3に触れる機会が得られたことで、モヤモヤとした疑念は確証に変わることとなった。自分の杵淵250型は教室のC3と比べると明らかに次高音域の伸びが劣っていたのである。C3の次高音はアクセントを付けて叩くとそれに応えるように金属音成分が上乗せされ、突き抜けるような音色に変化するのに対し、杵淵250型では音量は多少増すものの音色はあまり変化せず、内に篭ったような成分が混ざっている感じがする。

具体的にどの音域なのか鳴らしてみると、概ね下画像の右から2番目のピン板の区画の音域がそのような傾向であった。440HzのAの音の前後D#からGまでの17音が該当する。H31年3月にこのピアノをオーバーホールすることとし、この機会にピアノの仕組みについて勉強しつつ問題点について考察してみることにした。

イースタイン 杵淵250型 デュープレックス・スケール

杵淵250型はスタインウェイのピアノを参考に設計されたこともあって、イースタインとしては最初にして唯一のデュープレックス・スケールを取り入れたグランドピアノとなった。原理としては、有効弦の前後を整数比で区切って倍音共振を起こし、その振動をフレームに伝えて鉄骨を鳴らし、パワーある音色を生み出すというものだ。上画像では駒側のフレーム上に載っている金属板(アリコートプレート)、ピン板側のフレーム上に設けられた階段状に区切られた土手(ベアリング)、鉄骨裏側に埋め込まれたカポダストロバーがそれにあたる。元々はスタインウェイの発明だそうだが、特許権は既に切れており現代のピアノのほとんどに採用されている。

イースタイン 杵淵250型 アリコートプレートと駒

オーバーホール時に弦をすべて取り払ったところで、これらの状態をつぶさに観察すると、疑わしい箇所が見えてきた。アリコートプレートがフレームに密着しておらずガタついていたのである。張弦するとプレートは弦圧で押さえ込まれてガタツキが解消するので一見問題ないように思われるが、プレートの歪みがバネとなって弦を下から押し上げ、駒にかかる弦圧を低下させ、音の伸びを悪くしている要因になっているのではないかと考えた。そういう目で駒に刻まれている弦の圧痕を観察すると僅かに浅い感じもする。某調律師さんによるとこのあたり、YAMAHAピアノではアリコートプレートの裏にダボが付いていて、鉄骨の形状がアリコートプレートに吸い付くようなレベルでピタっと張り付いているそうだ。ここにガタツキが発生しているのはやはり異常とみるべきだろう。

よくよく観察するとアリコートプレートの載っている土台のフレーム側が平面でなく支柱に対して微妙に坂になっていた。これがガタツキの原因だろう。杵淵250型はイースタイン初のアリコート式グランドであるのでノウハウに乏しく、フレーム製造時に必要な配慮を欠いていた可能性はあると思う。張弦してしまうと問題点が見えなくなるだけに、完成後のピアノをベテラン調律師が弄ってもどうにも出来なかったと考えれば矛盾もない。

以上の仮説を立てた上で、オーバーホールをお願いした調律師さんと協議した。実証するには2つの手法が考えられる。根本的解決としてはフレームを削って当該箇所を平面化し、アリコートプレートを密着させることだ。しかし、これはフレームに何らかのダメージを与える可能性があるし、フレームの再塗装も必要になる。現状でフレームの塗膜はさほど劣化していないこともあり、今回はピアノを自宅に据え置いたままのオーバーホールを予定していた。フレームに手を加える場合、工房への運搬が必要で費用負担は跳ね上がるし、望ましい結果が得られるという確証もない。よってフレームはそのままに、アリコートプレートを削ってフレームの歪みに合わせるという手法を採ることとなった。

問題の音域のアリコートプレートは低音側10音と高音側7音で2枚に分割されている。とりあえず最も音色に不満を持っていた低音側10音のプレートのみ削ってみることになった。アリコート削りは金属加工の得意な助っ人調律師さんが担当。プレートの裏側をディスクグラインダーで少しずつ削り、現物合わせでフレームの曲面に合わせる作業となった。プレートは銅製にクロームメッキがされているようで、削った部分は地金が露出した。防錆の観点からは好ましくないが、表に露出しないので水をかけたりしなければ問題ないだろう。ピタッと貼り付くレベルまで微調整の上、張弦がなされた。

張弦直後は良く分からなかったが弦が馴染んでくると、明らかに以前より響きが違っていることが実感できるようになってきた。鍵盤を強く叩くと金属音成分がプラスされてキラキラと抜けるような音色が出せるようになったのである。弦は新品に入れ替えたわけだから、音色が変わったのは弦によるものという解釈もできそうだが、だとしたらプレートを削っていない高音側7音の音色も変化するはずである。しかしながらこちらは以前と同様に篭った成分を含んだ抜けの悪い音色のままだった。ここで高音側のアリコートも削って検証すれば音色の変化の理由は明らかになる。やれるところまでやってみようということで、一度弦を緩めて高音側のプレートを外し、低音側と同様に削ることになった。

結果は予想通りで、明らかにプレートを削る前後で音色に違いが認められた。フォルテで叩いた時の次高音部全体の音色に金属音成分が加わってパワフルになり、上下の音域とも繋がるようになった。当初は弦圧の問題を疑っていたが、音色の変化を聞いた感じだと、おそらくアリコートの機能不全が原因だったのだろう。原理的にアリコートプレートは、倍音共鳴している弦の振動をフレームに伝える「駒」的な役割を持っていることになるが、これがわずかでも浮いていることでフレームに十分な振動が伝わらず、本来の性能を発揮できていなかったのだと思われる。杵淵氏が生前解明できなかった音色の問題点がここにあるのかどうかは不明であるが、少なくともウチの杵淵250型については、アリコートに問題を抱えていたと考えて間違いないだろう。


さて、今回のオーバーホールであるが、私も少し作業に参加している。ブリュートナーを真似たピン板の真鍮版磨きである。「ピンの振動をフレームに伝えないようにするため」のものだそうで、350型も同様の構造になっている。

イースタイン 杵淵250型 ピン板

この真鍮板はクリア塗装が施されており、概ね金属光沢を維持しているものの、所々に錆が浮いてしまっていた。オーバーホールでチューニングピンを外した状態になったので、この機会に錆落としとクリア塗装をやり直すことにした。

できれば真鍮板を取り出して電動サンダーでガンガン削りたいところであったが、残念ながらフレームを外さないと分離できない構造になっていた。仕方ないのでフレームの塗膜を傷つけないようにマスキングテープで保護してミニルーターのワイヤーブラシでチマチマ削ってペーパーで仕上げることにした。キワのところが大変削りにくく、手間がかかって根気の要る作業だった。鏡面仕上げ、といきたいところだったが、下にピン板があるために水研ぎすることはできず、ヘアライン仕上げで妥協することにした。

真鍮板のクリア塗装

塗装前には十分なマスキングを施している。ピン穴から塗料が染み込まないように、適当なネジやピンで蓋をした。塗料の食いつきを良くするため、初めにメタルプライマーをスプレー缶で吹き、エアブラシでラッカークリアーを2回、半光沢クリアーを1回の合計4回の吹き付けを行った。ドアに目張りをしたが、数日間家が溶剤臭くなって参った。

剥がれたシリアル

マスキングでついうっかりシリアルナンバーの上にテープを貼ってしまったのだが、テープと一緒に剥がれてしまった。この書体のシリアルは他のイースタインピアノでは見られないものなので、前回のオーバーホールで塗りつぶされたものをインスタントレタリングで転写したものと思われる。

修復後

一応モデラーの端くれなので、エナメル塗料と面相筆でレタッチしてみた。上からクリア1回、半光沢クリア1回の吹きつけを行ったので軽く擦ったくらいでは剥がれないだろう。

塗膜保護シート

クリア塗装は錆予防の目的だが、張弦時に弦の断端が当たると傷が付いて後々錆が浮いてくると予想されるため、弦の張り込みが終わるまで厚紙のシートで覆って保護することにした。弦を張った後に引きちぎって除去したのだが、結構固くて手間だった。予めミシン目を付けておけば良かったと後悔。

張弦後

表層を半光沢塗装にしたことで粗が目立たない仕上がりになった。ピンや弦はは新品に交換したし、アグラフやベアリングも磨いたのでしばらくは綺麗な状態を保てると思う。

バス弦

今回張り替えた特注のバス弦。巻き線断端の処理がお見事である。銅の金属光沢が綺麗だが徐々にくすんで来るのだろう。


足台

ところでこのピアノ、和室に置いているため前2本の足が畳にかかっている。重量拡散用の板を噛ませている関係でペダルの位置が高くなってしまっていた。自分は慣れてしまったが、息子が踵を床面から浮かせてペダル操作するクセがついてしまったので矯正の目的もあって足台を製作した。材料として、18mm厚・300x910mmのラワン合板1枚と3mm厚のアガチス板を数枚購入。その他家にあったカーペット材や端材を適当に使った。

足台 裏側

ラワン合板は端を27mmの太さで2本切り出して両端に積み上げるように木工ボンドで貼り付けて足にした。内側2本の足は18mm厚のシナランバーコアの端材を利用。ステイン塗装をしくじってムラがでているが普段は見えないので気にしない。

表に見える部分はアガチス板を貼ってツキ板としている。数日かけて1枚ずつ張り合わせ、トリマーで45度の面取りをした。カーペット材はおよそ3mm厚で、アガチス板とほぼツライチになっている。塗装はワシンペイントの水性ステイン(マホガニーブラウン)で着色し、水性ウレタンニスを5~6回塗り重ねて光沢仕上げとした。ピアノ塗装には及ばないが、筆塗りなのでこのあたりで妥協。

ベースの板はラワン合板なので積層されているが、ツキ板により表から木口は見えないようになっている。カーペット材はタッカーで密に留め、滑り止め足は100均のコルクシートを貼り付けている。

EASTEIN 杵淵250型 1965製

杵淵250型の譜面台は150型と同じ大型のもので、立てて弾くと結構音が遮られる感じがする。海外には洒落た透かし彫りの譜面台のピアノがあるが、単なる装飾ではなくて奏者が音を聞き取りやすくするという意味もあるようだ。

杵淵250型開発の後日談として、書籍「響愁のピアノ」には以下のように書かれている。


しかし杵淵もイースタインも250型で懲りるどころか、引き続き新たなグランド開発に意欲を燃やす。250型での失敗を教訓に、新たに設計した200型、200型を縮小して製作したO型という具合に、イースタインの杵淵モデルは計三機種になった。200型は250型に比べ、まとまりのある音色と均質な仕上がりが特色だった。O型は専ら東京にあった福山ピアノからの依頼で製造し、製品にはFUKUYAMA&SONSという同社のブランドを付けて出荷した。(響愁のピアノp.97より引用)


書籍では杵淵250型は失敗作扱いになっており、オーナーとしては複雑な気持ちである。O型とは、フクヤマピアノのグランド後期型(ピアピットにオーバーホール記録あり)がそれに該当するかも知れないが、詳細は不明。200型についてはネットでは一切の情報が見つけられなかった。さらに、書籍にはこう綴られている。


しかし、杵淵は最初に設計した250型の真の完成を諦めきれなかった。三機種が揃った後も、鉄骨をくり抜いてピン板をはめ込む方式を止め、鉄骨にそのまま穴を開けてチューニングピンを打ち込むようにするなど、少しずつ改良を重ねていく。実は当初の250型のピン板は薄く、チューニングピンも短い特注品だった。このため製品によっては弦が弛みやすいといった欠点があり、これを真っ先に解消させた。(響愁のピアノp.97-98より引用)


改良が行われた時期は不明であるが、ネットでは改良後の個体の情報は見出せなかった。もっとも、杵淵250型は5台程度しか存在を確認できなかったのだが。杵淵250型の完成からおよそ14年後の1979年11月2日に杵淵直知氏は急逝され、「設計上の問題点」については解明されないまま永遠の謎になってしまった。アリコートプレートの問題点がそれに該当するかどうかは複数の個体で検証する必要があるが、なにしろタマ数が少ないため難しいだろう。

なお、今回のオーバーホールでは他にもハンマーシャンク交換と鍵盤のオモリ調整も行っている。ヤマハピアノに比べると若干のアクションのクセはあるものの、次高音の音質がクリアになったこともあり、以前より弾き易い楽器に生まれ変わった。それなりの費用(安い中古グランドが買える程度)はかかったが、数十年の延命はできたと思われ、自分が生きている内はこの楽器を使い続けるつもりだ。今回の記事が、1台でも多くの古き良き時代のピアノを次世代に橋渡しするきっかけになれば幸いである。

イースタイン グランドピアノ 150型

前回に引き続き、イースタイン(東京ピアノ工業)のグランドピアノのまとめ、第3回は150型。奥行き159センチ(ぴあの屋ドットコムによるデータ)のイースタイン最小のグランドピアノである。

EASTEIN 150型 1966製(ピアノ工房カナザワより引用)

おことわり

現物が希少であり、自分で写真を用意できないためネットで集めた画像を引用・転載しています。資料性を鑑みて、オリジナルを改変せず、できるだけ引用元を明らかにしています。現行の著作権法上認められる研究目的の引用と解釈していますが、権利者からの申し立てがあれば削除等対応します。


参考文献「響愁のピアノ」

イースタイン150型については書籍「響愁のピアノ」に「250型に続いて二、三年のうちに設計から製造まで自社で行った350型、150型を相次いで開発した」(p.52)と記述されており、完成は350型より僅かに遅れて1957年頃と推測できる。また、「イースタインのグランドは昭和三十三年(1958)ごろから順調に業績を伸ばし、月産十二台ほどのベースに乗る。特に150型は音色のよさはもちろん、畳二枚分に納まるコンパクトさがうけて、音大生や一般家庭を中心に売れまくる。」(p.53)と書かれており、イースタインのグランドでは最も売れたモデルと思われる。ネットで探してみると、中古ピアノ販売サイトやオーバーホール記録などがヒットした。

EASTEIN 150型 1963製(picgraより引用)

イースタイン150型は「米国のケーブル」がモデルになっている(p.52)とのこと。聞いたことのないブランドだが、WikipediaによるとCable社は1880年にシカゴで創業したメーカーらしい。

Kingsbury Baby Grand Piano(海外のピアノ販売業者より引用)

150型のルーツを求めネットを彷徨うこと数時間、ようやく見つけたのが「Kingsbury Baby Grand Piano」。このピアノがおそらく原型となっていると思われる。Cable社は複数のブランドを展開していたらしく、Kingsburyはその一つ。奥行きは5foot 1inch=155cmで、イースタイン150型と同程度である。

Kingsbury Baby Grand Piano
EASTEIN 150型(工房日記~伊藤ピアノ工房~より引用)

微妙な違いはあるものの、全体的な造りはかなり似ている。下画像の個体は1929年製とのことで時代的にも矛盾はないだろう。設計が古いためか、Kingsburyの方はカポダストロバーが無いように見える。

Kingsbury Baby Grand Piano
EASTEIN 150型 1963製(picgraより引用)

ピン板周りの構造もほぼ同様。何故Cable社のピアノをモデルにしたのかは分からないが、たまたま原型として実測できた小型グランドがこれだったという程度の理由なのかも。


EASTEIN 150型(工房日記~伊藤ピアノ工房~より引用)

150型の外装の特徴としては、側板の左右上部のせり出しが無くストンとしていること、譜面台が大型で長方形であることだが、側板のせり出しがあるものや譜面台の形状が異なるバリエーションもあるようだ。鍵盤蓋が角ばっているのは旧250型以外で共通している。

EASTEIN 150型 1968製(yahoo!オークションより引用)

特徴的な響板裏の半円形の支柱。書籍には「アーチ型の支柱も隠れたセールスポイントだった」(p.53)と書かれている。

EASTEIN 150型(どらの手も借りたいオルガン造りから引用)

150型の仕様は、非アリコート式で倍音共鳴の仕組み(デュープレックス・スケール)なし、次高音域以上にカポダストロバー装備といった具合。350型と比較すると弦は1本張りでなく隣の弦とペアになっていて、カポダストロバーの音域が異なっている。次高音域の鳴り方は350型とは異なると思うが、やはり木質的な澄んだ音が出そう。

こちらの個体の鍵盤蓋のロゴは見慣れないフォントになっている。製造時からこのようなフォントだったのかは分からないが、同じロゴの個体を他にもどこかで見たような気がする…。


余談であるが、ぴあの屋ドットコムで公開されているアップライトU型の比較動画の中に、EASTEINロゴのTの文字だけがなぜか真鍮の象嵌でなくペイントで処理されているものがある(動画2分45秒参照)。

この個体は1976年製で、東京ピアノ工業倒産(1974年)後の「東京ピアノ親睦会」時代のもので、書籍では「創業以来のイースタインの歴史の中でも最も高品質のピアノを生産していたといわれるのはこの時期だ。」(p.192)とされているが、たまたまTの文字だけ在庫切れだったのだろうか? よっぽど急いで納品する必要があったのか。それとも修理でTの文字を埋めて塗りなおしたのか。


EASTEIN 150型 1967製 フレーム(piakoboのブログより引用)

ネットで調べている内に興味深い事実が浮かび上がってきた。この150型のフレームであるが、どうもフクヤマピアノのグランド(初期型)と同じっぽい。

FUKUYAMA&SONS GP155 フレーム (ピアピット より引用)
FUKUYAMA&SONS GP155 支柱 (同上)

特徴的なアーチ状の支柱も同様であるから、同じ設計のピアノと考えて良さそうだ。フクヤマピアノについては、「自社工場はなくあちこちのピアノ工場にてコンセプトが強い個性的なピアノを作っていたのだ。」(出展:ピアピット)とのことで、イースタインが製造した150型にフクヤマブランドをつけて販売していたと考えるのが自然か。

EASTEIN 150型 1962製 フレームロゴ(まごいち音楽教室より引用)

150型のフレームにはイースタインのエンブレムがエンボスされている個体もあるが、省かれているものが多いようだ。ネットで確認できた画像では、1962年製のものにはエンブレムがあり、63年以降のものには無いことから、元々あったエンブレムをわざわざ後から外す必要が生じたと考えられる。1962年頃にフクヤマピアノにOEM供給するためにフレームの鋳型からエンブレムを外したのではないだろうか。


EASTEIN U型 1962製 エンブレム(ピアピットより引用)

余談だがイースタインのエンブレムは複数のバージョンがあり、比較的古い製品に使われているのがこのタイプ。ブランド名が入り、音叉が下を向いている。

EASTEIN U型 1972製(ピアノ調律おじさんのるるる~な毎日より引用)

同じU型でも72年製のエンブレムは音叉が上向きのものに変更されている。周囲が不自然に盛り上がっていて、むりやり改修した感がある。B型にも2種類のエンブレムの個体があり、鋳型の改修があったことが伺える。

EASTEIN 250型(杵淵モデル)1965製 エンブレム

杵淵モデルのグランド250型のエンブレムはブランド名だけでなく社名まで入っているタイプで、多分250型専用のデザインだろうと思う。

なお、エンブレムに必ず入っている葉っぱのデザインであるが、「栃の木」の葉という説がある。真偽は不明だが確かに形状は似ているし、イースタインが栃木県宇都宮にあったことを考えると説得力はある。


話が横にそれてしまったが、150型の中を覗いてみる。

EASTEIN 150型 1967製 ピン板(piakoboのブログより引用)

ピン板は350型のようなくり貫きはなくオーソドックスな造り。こちらのサイト(ピアピット)によると、同一設計と思われるフクヤマGP155は、ピン板の端ギリギリに開けられている穴があり、割れやすいという問題があるようだ。イースタイン150型にも同様の問題があるのかどうかは不明。

EASTEIN 150型 1968製(ヤフオクより引用)

この個体は煤けてフェルトも朽ちているが、弦もアクションもオリジナルの状態と思われる。高音側の構成はヤマハのGシリーズに似ている。

YAMAHA G2B 1990製(ヤフオクより引用)

Gシリーズは、上画像のG2Bのように非アリコート式が基本だったが、末尾に「E」が付いたモデルはなぜかCシリーズ同様のデュープレックス・スケールを取り入れた構成になっている。

YAMAHA G2E 1990製 (ヤフオクより引用)

Gシリーズはやわらかい音、Cシリーズはきらびやかな音と差別化されていたようだが、後者が好まれる時代になりGシリーズは1990年代に廃番。近年のピアノのほとんどはアリコート式のCシリーズのような構成になっている。ヨーロッパではベヒシュタインが近年まで非アリコート式の伝統を守っていたようだが、市場の要求には逆らえなかったのか、2003年からアリコート式を採用している。


石山社長でおなじみのぴあの屋ドットコムでは過去に2回ほど取り扱ったことがあるらしい。動画がないのが残念であるが、掲載ページはコチラ。この個体は側板の上部のせり出しのあるタイプである。

150型 1958製(ぴあの屋ドットコムより引用)

掲載元を見ると、「小さいわりにあまりにも音がいいので、大絶賛でした。担当のベテラン調律師もこれはホントにすごい! と称賛の連絡がありました。」と評価されている。当時のものは響板の素材が良く、経年で馴染んで鳴りも良くなっているのではないかと思う。

ヴァイオリン等弦楽器は弾き込まれるほど良い音になっていくと言われていて、ストラディヴァリウスに代表される300年前のイタリア・クレモナの楽器が現代でも一線で活躍していることを考えると、弦楽器の表板と同様の材で造られたピアノの響板も適切なメンテナンスにより数百年かけて成長するポテンシャルを持っているのではないだろうか。

とかくピアノは消耗品のように扱われることが多いように思う。確かにアクションには数十年単位で交換が必要な部品も多く、オーバーホールしようと思えば中古~新品ピアノ1台が買える程度の費用がかかるため、直すより買い換えたほうがオトクと考えてしまうのは無理もないことだろう。しかし、買い替えはせっかく弾き手と共に成長してきた響板を手放してしまうことになり、大変勿体無いと思う。イースタインのような国産マイナーメーカーのピアノはその知名度の低さから中古買い取り価格は低く(買い取ってもらえないことも)、それゆえ直す価値が無いものと思われがちであるが、おそらく木材は現代の量産ピアノよりも良質だし、キチンと修復すれば豊かな響きが得られる楽器も多くあるのではないか。

お手持ちの古いピアノの買い替えを検討されている方がおられたら、一度工房持ちのピアノ調律師にオーバーホールの相談をされることをお勧めしたい。ただし、期待通りの響きが得られなくても当方は一切責任を取れませんが。

イースタイン グランドピアノ 350型

前回に引き続き、イースタイン(東京ピアノ工業)のグランドピアノのまとめ、第2回は350型。奥行き192センチ(ぴあの屋ドットコムデータによる)のイースタイン最大のモデルである。

イースタイン350型(日本学芸社のImgrumより引用)

おことわり

現物が希少であり、自分で写真を用意できないためネットで集めた画像を引用・転載しています。資料性を鑑みて、オリジナルを改変せず、できるだけ引用元を明らかにしています。現行の著作権法上認められる研究目的の引用と解釈していますが、権利者からの申し立てがあれば削除等対応します。


参考文献「響愁のピアノ」

イースタイン350型については書籍「響愁のピアノ」に旧250型の完成(1954年7月)の後2~3年で開発された(p.52)と記述されており、完成は1956~57年頃と推測できる。1990年の廃業の直前まで製造されていたようなので(p.234)、30年あまりの期間でそれなりの数は生産されたと思われる。ネットで探してみると、国内でも数件の情報がヒットした。

イースタイン350型(Piano Malaysia より引用)

350型はフレーム外周の多角形を組み合わせたくり貫きが特徴的で、書籍「響愁のピアノ」には「ブルツナー」がモデルと書かれている(p.52)。


Bluthner Model.6 1954 (LIVING PIANOS より引用)

おそらく1950年代のブリュートナーModel.6が原型だろう。外周の肉抜き穴の形状がやや異なるものの、鉄骨の構造をはじめ、アグラフ、カポダストロバーの構成も一致する。ダンパーの数も同じで、弦がすべて1本張りであることや、ピン板のフレームをくり貫いて真鍮版を嵌めこんでいる点も共通。ただし、ブリュートナーには高音域側に打弦されない4本目のアリコート弦(共鳴効果を狙ったもの)が張られているが、イースタイン350型にはそれがない。

アリコートシステム (Bluthner 公式より引用)

アリコート張弦についてWikipediaを参照してみると、ユリウス・ブリュートナーによって1873年に考案された仕組みらしい。1950年代になれば特許権は切れてるのではないかと思うが、ブリュートナーのフレームには最近のモデルでも「ALIQUOT- PATENT.」とペイントされていて、他社による模倣を牽制しているように思える。

なお、現在のブリュートナー(上画像)はマイナーチェンジによりカポダストロバーの構成や高音部のベアリングの配列が異なり、独立していたアリコート弦の駒も統合されている。

余談だがイースタインアップライトピアノにもブリュートナーを模倣した「B型」というモデルがあり、鉄骨の形状はオリジナルとほぼ同一らしい。現代では訴訟になりかねない事例と思われるが、当時は情報の伝達が遅く、おおらかな時代であった。


BELTON NO.165(京都ピアノアートより引用)

BELTON(富士楽器)もブリュートナーをモデルにしたと思われるグランドピアノを製造している。このピアノも総1本張りだが、やはりアリコート弦は省かれている。350型とはカポダストロバーの構成が異なっているが、別の時代のブリュートナーを模したものかも知れない。

BELTON (ピアノ調律師のつぶやきより引用)

フレーム外周くり貫きの形状もブリュートナーとほぼ同一で、ブランドロゴが入っている部分がちゃっかりBELTONロゴに差し替えられている。

BELTON (ピアノ調律師:杉本由紀おやじのつぶやきより引用)

フレームには「FINEST ART GRAND PIANO」「MANUFACTURED SINCE 1937」と鋳造されているが、この部分に描かれた図形もブリュートナーそっくり。なお、1937年(昭和12年)は富士楽器の創業年であり、このフレームの製造年を表したものではなさそう。

軽井沢新聞 バックナンバー2017年5月より スクリーンショットにて引用

BELTONは1968年(昭和43年)に廃業したらしく(出展:東洋ピアノブログ)、最も新しい個体でも製造後50年は経過しており、現存数は少ないだろう。特にグランドピアノの希少性は地方紙でニュースになるほどのようだ。


話が少し横にそれてしまったが、本題のイースタイン350型の細部を見てゆく。

350型(Piano Malaysia より引用)

ブリュートナー同様の総1本張りの弦は張るのに手間がかかりそうであるが、特に響きが良くなるというわけではなく、弦が切れたときの影響が小さいとか、調律時に隣の弦に影響しないので音を合わせやすいとか、その程度のメリットらしい。

ピアノハウスジャパン Blogより引用(2012年10月)

ピン板は原型のブリュートナー同様にフレームがくり貫かれて真鍮板が嵌め込まれている。この構造は後の250型(杵淵モデル)でも踏襲された。書籍によると「ワイヤーやピンの振動がフレームに直接伝わらないようになっている」(P38)とのことで、雑音の発生を抑える意図があるものと考えられるが、効果のほどは不明。

350型(Piano Malaysia より引用)

次高音域(主に右手でメロディを奏でる音域)まではアグラフが使われていて、高音部のみがベアリング+カポダストロバーの構成となっている。非アリコート式でフレームのベアリング(土手)は1本に連続しており、スタインウエイ的な意図的に倍音共鳴させる仕組みは備えていない。よって次高音域はパワー不足を感じるかも知れないが、木質的で澄んだ音で鳴りそうである。

なお、こちらの個体はオーバーホール時にピン板の真鍮版をフレームと一緒に塗装してしまったらしく、オリジナルとは色味が異なっている。

350型(Piano Malaysia より引用)

ダンパーは蒲鉾型で、響板のロゴはウチの250型(杵淵モデル1965.12製)と同様にシンプルなタイプ。フレームにエンボスされたエンブレムは音叉が下向きの旧タイプの固体しか確認できなかった。エンブレムの位置は原型となったブリュートナーと同一。

350型 (セイコウトウテイさんのtwitterより引用)

こちらの個体は1965年4月製で、山型のダンパーが使われている。YAMAHAに似た洒落たデザインの響板のロゴは1958年には既に使われており、1965年の内に新しいデザインに切り替わったものと推定される。

350型 セイコウトウテイさんのinstagramより引用

検索を進める内に、石山社長の動画でおなじみの「ぴあの屋ドットコム」で350型の動画を発見した。掲載元はコチラ

この個体のカラーリングは深いワインレッド(マホガニー)でおそらくウチの250型(杵淵モデル)と同じ。非常に音にパワーがあると評されている。次の動画では弦の一本張りについて紹介されている。

一連の動画では「T型」とされているが、シリアルのT64201の最初の一文字を型番と誤って解釈したものと思われる。先頭アルファベットは製造月で、JanuaryのJから始まり、以後アルファベット順JKLMNOPQRSTV(UはU型との混同を避けるため飛ばす)で1~12月までを意味する。数字は西暦下2桁、日付2桁、シリアル1桁の順。よって、T64201は1964年11月20日製造1番となる。日に10台以上生産したときにシリアルの桁が増えるのかどうかは不明。

この個体は調律後にも動画撮影されており、「元々響板が良いので響きが凄い」「強烈」等と評されている。

別個体M65241(1965年4月24日1番)入荷時の動画もあり。掲載元はコチラ

この個体の現在のオーナーは先ほどのtwitter画像でリンクした方のようだ。イースタインに大変愛着を持っておられるようで、youtubeで動画も公開されている。(セイコウトウテイさんから資料の転載許可をいただきました)