イースタイン グランドピアノ 150型

前回に引き続き、イースタイン(東京ピアノ工業)のグランドピアノのまとめ、第3回は150型。奥行き159センチ(ぴあの屋ドットコムによるデータ)のイースタイン最小のグランドピアノである。

EASTEIN 150型 1966製(ピアノ工房カナザワより引用)

おことわり

現物が希少であり、自分で写真を用意できないためネットで集めた画像を引用・転載しています。資料性を鑑みて、オリジナルを改変せず、できるだけ引用元を明らかにしています。現行の著作権法上認められる研究目的の引用と解釈していますが、権利者からの申し立てがあれば削除等対応します。


参考文献「響愁のピアノ」

イースタイン150型については書籍「響愁のピアノ」に「250型に続いて二、三年のうちに設計から製造まで自社で行った350型、150型を相次いで開発した」(p.52)と記述されており、完成は350型より僅かに遅れて1957年頃と推測できる。また、「イースタインのグランドは昭和三十三年(1958)ごろから順調に業績を伸ばし、月産十二台ほどのベースに乗る。特に150型は音色のよさはもちろん、畳二枚分に納まるコンパクトさがうけて、音大生や一般家庭を中心に売れまくる。」(p.53)と書かれており、イースタインのグランドでは最も売れたモデルと思われる。ネットで探してみると、中古ピアノ販売サイトやオーバーホール記録などがヒットした。

EASTEIN 150型 1963製(picgraより引用)

イースタイン150型は「米国のケーブル」がモデルになっている(p.52)とのこと。聞いたことのないブランドだが、WikipediaによるとCable社は1880年にシカゴで創業したメーカーらしい。

Kingsbury Baby Grand Piano(海外のピアノ販売業者より引用)

150型のルーツを求めネットを彷徨うこと数時間、ようやく見つけたのが「Kingsbury Baby Grand Piano」。このピアノがおそらく原型となっていると思われる。Cable社は複数のブランドを展開していたらしく、Kingsburyはその一つ。奥行きは5foot 1inch=155cmで、イースタイン150型と同程度である。

Kingsbury Baby Grand Piano
EASTEIN 150型(工房日記~伊藤ピアノ工房~より引用)

微妙な違いはあるものの、全体的な造りはかなり似ている。下画像の個体は1929年製とのことで時代的にも矛盾はないだろう。設計が古いためか、Kingsburyの方はカポダストロバーが無いように見える。

Kingsbury Baby Grand Piano
EASTEIN 150型 1963製(picgraより引用)

ピン板周りの構造もほぼ同様。何故Cable社のピアノをモデルにしたのかは分からないが、たまたま原型として実測できた小型グランドがこれだったという程度の理由なのかも。


EASTEIN 150型(工房日記~伊藤ピアノ工房~より引用)

150型の外装の特徴としては、側板の左右上部のせり出しが無くストンとしていること、譜面台が大型で長方形であることだが、側板のせり出しがあるものや譜面台の形状が異なるバリエーションもあるようだ。鍵盤蓋が角ばっているのは旧250型以外で共通している。

EASTEIN 150型 1968製(yahoo!オークションより引用)

特徴的な響板裏の半円形の支柱。書籍には「アーチ型の支柱も隠れたセールスポイントだった」(p.53)と書かれている。

EASTEIN 150型(どらの手も借りたいオルガン造りから引用)

150型の仕様は、非アリコート式で倍音共鳴の仕組み(デュープレックス・スケール)なし、次高音域以上にカポダストロバー装備といった具合。350型と比較すると弦は1本張りでなく隣の弦とペアになっていて、カポダストロバーの音域が異なっている。次高音域の鳴り方は350型とは異なると思うが、やはり木質的な澄んだ音が出そう。

こちらの個体の鍵盤蓋のロゴは見慣れないフォントになっている。製造時からこのようなフォントだったのかは分からないが、同じロゴの個体を他にもどこかで見たような気がする…。


余談であるが、ぴあの屋ドットコムで公開されているアップライトU型の比較動画の中に、EASTEINロゴのTの文字だけがなぜか真鍮の象嵌でなくペイントで処理されているものがある(動画2分45秒参照)。

この個体は1976年製で、東京ピアノ工業倒産(1974年)後の「東京ピアノ親睦会」時代のもので、書籍では「創業以来のイースタインの歴史の中でも最も高品質のピアノを生産していたといわれるのはこの時期だ。」(p.192)とされているが、たまたまTの文字だけ在庫切れだったのだろうか? よっぽど急いで納品する必要があったのか。それとも修理でTの文字を埋めて塗りなおしたのか。


EASTEIN 150型 1967製 フレーム(piakoboのブログより引用)

ネットで調べている内に興味深い事実が浮かび上がってきた。この150型のフレームであるが、どうもフクヤマピアノのグランド(初期型)と同じっぽい。

FUKUYAMA&SONS GP155 フレーム (ピアピット より引用)
FUKUYAMA&SONS GP155 支柱 (同上)

特徴的なアーチ状の支柱も同様であるから、同じ設計のピアノと考えて良さそうだ。フクヤマピアノについては、「自社工場はなくあちこちのピアノ工場にてコンセプトが強い個性的なピアノを作っていたのだ。」(出展:ピアピット)とのことで、イースタインが製造した150型にフクヤマブランドをつけて販売していたと考えるのが自然か。

EASTEIN 150型 1962製 フレームロゴ(まごいち音楽教室より引用)

150型のフレームにはイースタインのエンブレムがエンボスされている個体もあるが、省かれているものが多いようだ。ネットで確認できた画像では、1962年製のものにはエンブレムがあり、63年以降のものには無いことから、元々あったエンブレムをわざわざ後から外す必要が生じたと考えられる。1962年頃にフクヤマピアノにOEM供給するためにフレームの鋳型からエンブレムを外したのではないだろうか。


EASTEIN U型 1962製 エンブレム(ピアピットより引用)

余談だがイースタインのエンブレムは複数のバージョンがあり、比較的古い製品に使われているのがこのタイプ。ブランド名が入り、音叉が下を向いている。

EASTEIN U型 1972製(ピアノ調律おじさんのるるる~な毎日より引用)

同じU型でも72年製のエンブレムは音叉が上向きのものに変更されている。周囲が不自然に盛り上がっていて、むりやり改修した感がある。B型にも2種類のエンブレムの個体があり、鋳型の改修があったことが伺える。

EASTEIN 250型(杵淵モデル)1965製 エンブレム

杵淵モデルのグランド250型のエンブレムはブランド名だけでなく社名まで入っているタイプで、多分250型専用のデザインだろうと思う。

なお、エンブレムに必ず入っている葉っぱのデザインであるが、「栃の木」の葉という説がある。真偽は不明だが確かに形状は似ているし、イースタインが栃木県宇都宮にあったことを考えると説得力はある。


話が横にそれてしまったが、150型の中を覗いてみる。

EASTEIN 150型 1967製 ピン板(piakoboのブログより引用)

ピン板は350型のようなくり貫きはなくオーソドックスな造り。こちらのサイト(ピアピット)によると、同一設計と思われるフクヤマGP155は、ピン板の端ギリギリに開けられている穴があり、割れやすいという問題があるようだ。イースタイン150型にも同様の問題があるのかどうかは不明。

EASTEIN 150型 1968製(ヤフオクより引用)

この個体は煤けてフェルトも朽ちているが、弦もアクションもオリジナルの状態と思われる。高音側の構成はヤマハのGシリーズに似ている。

YAMAHA G2B 1990製(ヤフオクより引用)

Gシリーズは、上画像のG2Bのように非アリコート式が基本だったが、末尾に「E」が付いたモデルはなぜかCシリーズ同様のデュープレックス・スケールを取り入れた構成になっている。

YAMAHA G2E 1990製 (ヤフオクより引用)

Gシリーズはやわらかい音、Cシリーズはきらびやかな音と差別化されていたようだが、後者が好まれる時代になりGシリーズは1990年代に廃番。近年のピアノのほとんどはアリコート式のCシリーズのような構成になっている。ヨーロッパではベヒシュタインが近年まで非アリコート式の伝統を守っていたようだが、市場の要求には逆らえなかったのか、2003年からアリコート式を採用している。


石山社長でおなじみのぴあの屋ドットコムでは過去に2回ほど取り扱ったことがあるらしい。動画がないのが残念であるが、掲載ページはコチラ。この個体は側板の上部のせり出しのあるタイプである。

150型 1958製(ぴあの屋ドットコムより引用)

掲載元を見ると、「小さいわりにあまりにも音がいいので、大絶賛でした。担当のベテラン調律師もこれはホントにすごい! と称賛の連絡がありました。」と評価されている。当時のものは響板の素材が良く、経年で馴染んで鳴りも良くなっているのではないかと思う。

ヴァイオリン等弦楽器は弾き込まれるほど良い音になっていくと言われていて、ストラディヴァリウスに代表される300年前のイタリア・クレモナの楽器が現代でも一線で活躍していることを考えると、弦楽器の表板と同様の材で造られたピアノの響板も適切なメンテナンスにより数百年かけて成長するポテンシャルを持っているのではないだろうか。

とかくピアノは消耗品のように扱われることが多いように思う。確かにアクションには数十年単位で交換が必要な部品も多く、オーバーホールしようと思えば中古~新品ピアノ1台が買える程度の費用がかかるため、直すより買い換えたほうがオトクと考えてしまうのは無理もないことだろう。しかし、買い替えはせっかく弾き手と共に成長してきた響板を手放してしまうことになり、大変勿体無いと思う。イースタインのような国産マイナーメーカーのピアノはその知名度の低さから中古買い取り価格は低く(買い取ってもらえないことも)、それゆえ直す価値が無いものと思われがちであるが、おそらく木材は現代の量産ピアノよりも良質だし、キチンと修復すれば豊かな響きが得られる楽器も多くあるのではないか。

お手持ちの古いピアノの買い替えを検討されている方がおられたら、一度工房持ちのピアノ調律師にオーバーホールの相談をされることをお勧めしたい。ただし、期待通りの響きが得られなくても当方は一切責任を取れませんが。

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